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・僕とリアンヌの二人だけの夜

 屋敷に戻ってもリアンヌは爆睡から冷めなかった。


 けれどもそこは食いしん坊、やがて夕方となり食堂で大公様と俺が食事を楽しんでいると、パジャマ姿のリアンヌが目を擦りながら現れた。

 なぜかはわからないけれど、大きな枕を抱えて。


「眠い……お腹、すいた……アリク、おはよ……」

「おはよ。その枕、そこに置いておいたら?」


「枕ぁ……? あれ……なんで枕が、ここにあるのぉ……?」

「君が持ってきたからじゃないかな……」


 寝ぼけて口の場所を間違えるリアンヌと夕飯を食べた。

 食事が終わると小さなお姫様は大公様に抱かれて寝室に戻されて、その後の俺と大公様は眠くなるまで領地やリアンヌのことを語り合った。


「おやすみなさい、大公様」

「おやすみ、アリクくん。あの部屋は君の好きにしてくれて構わないからね」


 頻繁に塩田開発に現れるアリク王子のために、大公様はこの前、客室の1つを俺の部屋にしてくれた。


 ちなみにトーマは向かいの部屋で、近衛兵さんたちも周囲の部屋と廊下を固めてくれている。

 大公様とトーマと別れて部屋に引き払い、やっと1人だけになると急に眠気がやってきた。


 さあ寝よう。

 リアンヌも無事だったことだし、明日の夕方には王都に戻って父上に報告をしよう。


 新たな敵が現れたこの危険な事態を考えると、あちらに戻らないわけにはいかない。


 パジャマに着替えて、ろうそくの明かりを消して、暖かなベッドに入った。


「アリクーッ、おはよーっっ!!」


 ――ところだったんだけど、闇の安寧に包まれた部屋にリアンヌのやつが飛び込んできた……。


「あれ、暗い……」

「もう寝るんだけど、僕……」


「えーーっっ、遊ぼうよーっっ!! 明日は帰っちゃうんでしょーっ!?」


 起き出してきたリアンヌのテンションはマックスだった。

 とてもではないが、これは寝かしてはもらえなさそうだ。

 俺は身を起こしてベッドサイドへと腰掛けた。


 リアンヌが自然体で隣に腰掛けてくるであろうことは、まあ予想されていたことだった。


「あのさ、大公様にこの現場を見られたら、僕の立場がないんだけど……?」

「そんなの全然大丈夫だよ。10歳と8歳の子が一緒に寝たって、『ああ、微笑ましい……』って感想しか普通ないし」


「僕を寝かさないつもりのくせによく言うよ……。明かり、もう消しちゃったんだけど……?」


 こうなると、炎魔法も欲しいなぁ……。

 水魔法の次に、生活する上で便利な魔法だって、ギルド職員時代によく聞かされたものだし。


「遊ぼうよーっ、アリクと遊ぶのためにカードを倍に増やしておいたんだからーっ!」

「なんだ、それならそうと言ってよ。近衛兵さんたちに火を借りてくるね」


 ろうそく台を持って廊下に出ると、見張りの近衛兵さんが扉の前で、火の灯ったろうそくを持って待ちかまえていた。


「あ、ありがとう……。あの……このこと、父上と母上には内緒にしてね……?」

「トーマは眠ってしまったようです。リアンヌ様とごゆるりとお楽しみを」


「念のため言うけど、誤解とかしないでよーっ!?」

「ふ……わかっておりますよ、殿下」


 彼は俺のろうそく台に火を移して、いやにやさしく微笑んだ。

 母上や父上に報告される可能性は……とても、高そうだった……。


「アリクは全部古いカードね! 私は新しいカードでアリクを負かすから!!」

「それいきなりもうズルじゃないかーっ!?」


「アリクはその記憶力がズルだからいいのっ!」


 不公平な条件から始まった深夜のカードゲームの初戦は、当然だけど俺のボロ負けだった。

 悔しいから俺はリアンヌが作った第二弾のカードを記憶して、どうやって負かしたものかと試行錯誤した。


 確かに彼女が言うとおり、俺の記憶力はズルかもしれない。

 このくらいのハンデがあった方が遊びがいがあった。


「また私の勝ちーっっ!!」

「うん、今のは惜しかった。かなり眠いけど1回遊ぼう」


「へへへーっ、楽しいねっ、アリクーッ!」

「リバーシとか、トランプを作るのもいいね。君とならババ抜きだけでも一晩中できそうだ」


「うんっ、そうする! また遊びにきてねっ!」


 眠いけど、子供らしく俺たちは遊技に夢中になった。

 この胸が跳ねるような感覚はきっと、子供時代にしか味わえないものだ。


 大人になったてしまっら失われてしまう、特別な輝きをろうそくの薄明かりの中に見つけた。


「これ、あっちで生きていた頃の話だけど……」

「うんうんっ!」


「親戚の子がさ、毎年夏休みになると遊びにきてくれてさ。その子と毎日一緒に遊ぶんだけど、それが凄く楽しいんだ」

「うんうんっ、それわかる! なんか今、そんな感じ!」


「今は親戚じゃなくて、婚約者だけどね」

「ますます最高! 私、アリクとならずっと仲良く暮らせると思う! 大人になってもずっとこうしていようね!」


 うっ……元JK、恐るべし……。

 彼女の何気ないその一言が少年のナイーブな心に刺さった。


 子供の頃からこんなにも仲良く遊びに夢中になれる子と、将来もずっと一緒に居られる。

 これってお金持ちになって毎日を豪遊して暮らすよりも、ずっと幸せなことなのかもしれない。


「あ、そうだ。明日帰るけど、大公様には内緒で、朝少しだけ付き合ってほしい」

「森に行くのっ!?」


「そうだけど……なんで僕が考えていることがわかるの……?」

「だって他にないもん。……はいっ、また私の勝ちーっ!!」


「スキル合成で色々使っちゃったから、あの森のモンスターからスキルを色々仕入れておきたいんだ。……じゃ、もう1ゲーム」

「おっけーっ、朝一でここを抜けだそっ!」


「それを大声で言ってどうするのさ……」


 それにきっと、朝一とはいかないだろう。

 俺はその後も、勝てそうで勝てない巧妙なバランスで作られたカードゲームにのめり込んでいった。


「やったっ、やっと勝てた……っっ!!」

「わぁぁ、やっぱアリクって天才だ……。悔しいっ、もう1ゲームしよっ!」


 その晩は眠気の限界までリアンヌと夜更かしして遊んだ。

 婚約者というよりこれでは仲の良い親友みたいだけど、俺たちの今の年齢を考えれば、それが当たり前のことだと思った。


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