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・一方その頃、誘拐されてしまった悲劇の公女は――

 突然だけど、冒険の帰りに変なやつらに襲われた。

 お腹も空いてたし、やっつけて帰ろうかと思ったんだけど、気になることを言い始めたから私も考えた。


 その人たちは私をさらって、アリクの塩田開発を止めさせるつもりみたい。


 私が狙われる分には全然いいんだけど……。

 アリクと領地のみんながあんなにがんばって開発した塩田を、この先壊されちゃったりしたらたまらない。


 私がこの人たちをやっつけても矛先が変わるだけ。

 アリクならきっとそう考える。


 私は悪いやつらを殴り飛ばしたい気持ちを我慢して、命乞いをして誘拐犯たちに私を捕まえさせた。

 そしてアリクほど賢くない、単純な元高校生の頭で、彼らの失言を狙ったり、聞き耳を立てて情報を集めた。


 私にはわからないことも、アリクや国王陛下、時々怖いジェイナスさんが分析してくれる。私の役目は悲劇のお姫様を演じることと、聞き出すことだった。


「傭兵? おじさんたち傭兵さんなの……?」

「おう、俺たちは泣く子も黙る、とある最強傭兵団の一員だ」


 私は窓のない小屋に閉じ込められた。

 手には鎖の枷をはめられて、粗末な黒パンを食べるのも不便な待遇だった。


「ふーん……それでどこからきたの? そろそろ教えてよー?」

「てめぇ、自分の立場マジでわかってねーな? それを知ったら、生きては帰れねぇと思わねぇのかよ?」


 別に。

 あたしモンスター狩りまくって最強だし。

 本気出せば、この見張りのおじさんたち3人の腕を一瞬で折れる。


「さっき東の方からきたって言ってたよね? あと、ギグって人、誰? 八草って人はなんで嫌われてるの?」

「このガキ、俺たちの話を聞いてたのかよ……」

「八草か。八草は奴隷兵(クシャトリア)だ」


 それ、歴史の授業で習った言葉のような……。

 でもなんだっけ……?


 ああもう、こんなことならアリクみたいに、ちゃんと勉強しておけばよかったーっ!


 アリクって、元の世界ではきっと優等生だったんだろうなぁ。


「え、なにそれ……?」

「八草は娘を人質にされてるんだよ。腕は良いんだが、とにかく口うるせぇ上に、口の悪ぃ偽善者だ」


「えー、そんなの可哀想じゃない! 娘と会わせてあげなよっ!」

「可哀想なのはお前だろがーっっ!!」

「公女さんよぉ……、そろそろ夜もふけてきた頃だ……。おぢさんたちが、楽しい遊びを教えてやるよ……」


 え、そうなるの……?

 え、でも私、まだ10歳なんだけど……。

 えっ!? この人たち、ロリコンッ!?


「うわぁ……ドン引き……」

「気丈にふるまってんじゃねーぞっ! 俺たちは男の怖さを教えてやるよ!!」

「悲鳴を上げろよっ、キャーッッ、ってよぉっ!」


 うっざ……。殴りたい……。

 ああでも、ここで短気を起こしちゃダメだ。


「ねぇ、もう1度聞くけど、なんでうちの塩田を潰したいの?」

「マイペースかよっ!?」

「そんなの決まってんだろがっ、ジュノーからすれば、お前らの塩田は危険な商売敵なんだよぉっっ!!」


 どこかで聞いたことのある名前だった。

 確か東の方の……結構大きい国だったような気がする……。


「へーー……」

「おいっ、口を滑らせるんじゃねぇっ!」

「別にいいだろ。公女様は、どうせここから帰れないんだからよ……」


 スケベなやつの腕が私の胸に伸びた。

 そうすると私、『アリク以外に触られるのは絶対嫌!!』って思った。


 ヒラリとかわすと、おじさんたちは私を捕まえようと三方向から手を伸ばしてきた。

 私はその全部をヒラリヒラリ、ツルリツルリと避けまくった。


「逃げるな、クソガキ!!」

「逃げてないけどー? ここにいるしー?」


 逃げないけど触られるのは絶対嫌。

 せっかくかわいいショタ王子様と婚約できたのに、何が悲しくて、こんな汚いおじさんに汚されなきゃいけないのかわからない。


 私、やっぱりついてるなー。

 かわいいアリクにニヤニヤしちゃうトーマの気持ちもよくわかる!

 アリクは生意気だけど超かわいい!


 ってことで、回避回避回避回避!

 ネズミのように私は逃げ回った。


「ぜぇ、ぜぇ……っ、も、もうダメだ……息が……っ」

「ガキ相手にだらしねぇぞ、おい!」

「だが、何かおかしくないか、このガキ……?」


 見張りのおじさんたちは仲間を呼ばなかった。

 いくら追いかけても公女を捕まえられないとわかると、床にへたり込んでしまった。


「それよりお話しよ? 誰に頼まれて私をさらったの?」

「は、話すかバカッッ!! うっ、げほっげほっ……」


「じゃあおじさんたちは、なんていう傭兵団の人なの?」

「舐めてんのかこの野郎っ!!」 


 やっぱり私、あんまり賢くない……。

 私は情報を集めるために、時々追いかけっこをしながらたくさんのおじさんたちと夜通し話し込んだ。



 ・



そして翌日の昼――


 おじさんたちは追いかけっこに疲れ果てて立てなくなってしまった。

 使い物にならないから、この現場で1番えらいおじさんが私の見張りをすることになったみたい。


「そんなに知りてぇか?」

「うん、知りたい」


「俺たちの依頼人はネストルって男だ」

「それってジュノーって国の人?」


「おい、それ誰が話したんだ?」

「どうせ私を生かして帰すつもりないんでしょ? 教えてよ」


「なんなんだ、お前……。ネストルは都市国家連合の議長だ。そいつがお前らの商売を潰すために、お前をさらうように命じたんだよ」

「そうなんだー! あ、おじさんたちは、えっと、えーーっと……わんわん傭兵団だっけ……?」


「俺たちはガルム傭兵団だ!!」

「ありがとー! やっと聞き出せたーっ!」


「聞き出せただとぉ? ははは、笑わせやがる! ここから生きて帰れると思ってんのかよっ、公女様よぉっ!」

「もちっ!!」


 他のおじさんたちはもうヘバってるし、やっつけるのはこのおじさんと、左右の若いおじさんだけ。

 やっとやり遂げた達成感に私は笑って、おじさんたちの目の前で鎖の手枷を引きちぎろうとして見せた。


「ヒャハハハハッッ、勇者様にでもなったつもりかよっっ!?」


 ううん、気分は世紀末覇王!

 わざと苦戦しているように見せてから、パキーンッと鎖をちぎってやった!!


「は……?」

「えーっと……逮捕っ!! 罪状は……えと、ロリコン罪? とにかくロリコンは逮捕だ、逮捕ーっっ!!」


「こ、このガキ――ゲヒィィッッッ?!!」


 あ、首折れてないといいな……。

 勢いあまって私は、リーダーのおじさんが剣を抜く前にすかさずビンタを入れた。


 おじさんは5回転半のキリモミ回転をしてから、床にドサリと倒れて動かなくなった。


「あははっ、怪獣になったみたいな気分! あ、怪獣っていうより、怪人?」


 若いおじさんたちは私を剣で左右から薙ぎ払った。

 私はそれを左右の手のひらで受け止めた。


 あ、これ怪人というよりバトルマンガの強キャラだ。

 物理無効の私の身体は、刃物を素手で受け止めるなんてなんでもなかった。


「私の王子様には手を出させないよ。……えーっと、あの、前もって言っておくけど……死んだら、ごめんね?」

「ひ、ひぇっっ?! ――ンギャフッッ?!」

「ヒデフッッ?!!」


 退却を迷う彼らをビンタで両方やっつけて、おじさんたちの服を紐にして手足を拘束した。

 別の部屋には、体力ゼロになってるおじさんたちがいる。


 そのおじさんたちも同じように動けないようにしてあげた。


「はあ、ちょっとやり過ぎちゃったかな、これじゃ全員運べないし……」

「ば、化け物……っ」

「こ、殺される……っ、お、お助けっ、ひ、ひぃぃぃっっ?!!」


 おじさんたちは絵に描いたような薄っぺらい小悪党だった。

 私はピクピクしているリーダーのおじさんの襟首をつかんで、引きずって小屋を出た。


「お願いだっっ、火だけはっ、火だけは止めてくれーっっ!!」


 そういうことをしたことがあるから、そういう発想になるんだろうなぁ……。

 この世界は退屈しないけど、アリクと私を狙う悪い人でいっぱいだった。


 お昼の日差しに目を細めながら、私は見覚えのある魔物の森を抜けて、お父様の待つお屋敷に帰って行った。


 心配させてごめんなさい、お父様。

 でもどうしても、アリクと塩田を狙う悪い人たちをやっつけたかったの。


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