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・からあげ外交始まりました

 母上がからあげ強化師になった翌晩、食卓に場違いな食べ物が並んだ。


「アリク、今日はからあげよ」


 もちろんそれは庶民のご馳走、からあげだった。


「わ、わーい、からあげだー……嬉しい、なあー……?」

「からあげ強化で、からあげレベルを7から31にしてみたの」


「す、すごーい……よくわからないけど、すごーい……?」


 薔薇の意匠が彫り込まれた美しい純銀の大皿に、きつね色に揚がった大ぶりなからあげが山となって積み重なっていた。


「リドリー……さすがにこの量は、我々家族3人の腹に収まるとは、到底思えぬのだが……」

「ふふ……ええそうね。だけどこうするべきだと思ったの」


 砂糖とバターがふんだんに使われたふわりとやわらかい白パンに、今日の昼に水揚げされたばかりのクラム貝を使った滋味深いチャウダースープ。


 作りたてのシーザードレッシングによるイカとホタテの海鮮サラダ。チーズを惜しげもなく使ったホワイトグラタン。オレンジと白桃のシロップがけ。


 などなどが華やかに並ぶ銀ピカの食卓の中央に、我ら庶民のからあげが我が物顔でふんぞり返る姿は、どうにも奇妙というか超浮きまくっている。

 

「そうか。では余った分は離宮の者たちに分けるとするか」

「ええ、そうして下さると」


 けれど離宮にいる時の父上は格式なんて気しない。

 政務室ではサイコパス半分半分入りかけの陰謀家で、粛正をも辞さない恐ろしい王様だけれど、俺たちの前では妻に逆らえないやさしい父親だった。


 一時は離婚騒ぎにもなりかけたこの夫婦だけど、なんだかんだ和解して、今も2人は誰よりも互いの気持ちを理解し合っている。


 父上は銀のフォークでからあげを突くと、大好きな母上を視界に収めながらかじり付いた。


「これは驚いた……。アリク、早く食べてみるといいっ、これは……美味い! レスター殿と食べた屋台のからあげも美味だったが、これはアレとは別格だ……! リドリー、君を妻にして良かった!」

「嬉しい……! そこまで言ってくれるなんて思わなかったわ、ロドリック様!」


 ただ――自分の目の前で父親と母親が突然にイチャイチャとし始めると、その息子としてはだいぶ居たたまれない。


 そういうのは俺の居ないところでやってくれと、そう思わなくともないけれど……。

 またガチのケンカをされるよりはマシだった。


 俺はレベル31になってしまったとんでもないからあげを、半分かじって白パンで熱い肉汁を受け止めた。


「……これ、美食家の諸侯の接待に使えるかもね。予想以上だ」

「おお、それはなかなか悪くない発想だな。ふむ、よいかもしれぬ……。それとなく何人かに話を振ってみるとしよう」


「うん、母上のからあげを食べたいがあまりに、頻繁に訪ねてきてくれるようになるかもね。そうしたら味方に引き込めるし、出資の話もしやすいね」

「だがアリクよ、食卓でこういった話は、極力控えた方がよいぞ……」


 父上の目線を追うと、不満そうに唇を突き出している母上の姿があった。

 最近の母上はある不満を持っている。


 陰謀家の父上と兄上の影響を受けて、息子の俺が腹黒い人間に育っていっているのが気に入らないようだった。


「すごくおいしいよっ、母上! お塩のかげんとか、スパイスとかも、かんぺき!」

「アリクは猫かぶりが上手ね。いっぱい食べて、ロドリック様より真っ直ぐでカッコイイ男になりなさい」

「ははは、アリクは既に私よりもずっとイイ男だ!」


 母上のからあげ強化師スキルは人を笑顔にする力だった。

 その日の夕飯はついつい、お腹がはちきれそうになるまで小さな身体で食べてしまった。


 その後、トーマやジェイナス、近衛兵のみんなに母上のからあげが振る舞われて、みんなが嬉しそうな笑顔になるのを見ると、さらに深く確信した。


 一刻の王妃から最高に美味しい食事を振る舞われたら、誰だってそのことを光栄に思う。

 融通の利かないスキルも、結局はその使い方次第だった。


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