・アリク王子(3ヶ月) 殺人鬼ラドムの破滅
・元監視ラドム
たまにあの野郎のことを夢に見る……。
小柄なくせに反抗的な目で俺を睨む、あのアリクというクソガキの夢だ。
あいつのせいで、俺は奴隷どもをいたぶって楽しめる天職を奪われた。
「奴隷1人ぶっ殺しただけで、なんで首にされなきゃいけねぇ? 世の中間違ってるよなぁ……?」
「……人の持ち物を壊したアンタが悪いと思うけどー?」
「ギャハハハッ、正論かよ!!」
あいつをぶっ殺したのは4年前。
今の俺はギャングのラドムさんだ。
俺は生意気な商売女のあごを掴み、舐めてんじゃねーぞと突き倒した。
ああ、虚しいなぁ……。
またアイツみたいに反抗的なやつが現れたりしねぇもんかな……。
もう1度、誰かを虐め殺してみてぇ……。
ああ忘れもしねぇ、あの醜いうすのろのクソ女の顔も良かった……。
名前、なんて言ったっけな、あのクソ女……。
「おい、ラドム。貴様しばらく消えろ」
「……はぁ?」
当時の楽しい思い出を頭ん中で反芻していると、ギャングのボスが盛り場にやって来た。
「お前、何をやった? 王国が貴様のことを嗅ぎ回ってるぜ」
「何って、マジかよ? 俺はいつも通りにしてるだけだぜ?」
「とにかく消えろ! 組織のことを少しでも漏らしたら、生きていることを後悔させてやるぞ……」
「冗談だろ……? おっと……」
ボスは金貨袋を俺に投げつけてきた。
どうやらマジでヤバいらしい。
「ありがとよ、ボス」
「捕まるくらいなら死ね」
俺の口を塞いだ方が早いだろうによ、うちのボスは甘ちゃんで困る。
俺は金を受け取り、家に戻ろうとした。
「いたか?」
「まだ戻っていない」
が、家にはもう憲兵どもが張り付いていた。
拷問したやつの指を集めるのが趣味なんだが、こりゃ、見られたな……。
「必ず捕まえろ……反吐が出る!」
「しかしラドムのやつが抵抗したら?」
「殺せ。こんな人間は生かしておくべきではない、殺せ!」
「了解です」
こりゃ、マジでやべぇ……。
俺は胸のお守りを握り締めた。
ああ……お前の指、やっぱ最高だぜ……アリク……。
わざわざ墓を掘り返すのも、大変だったんだからな、感謝しろよ……。
俺は逃げた。
やつらだって、治外法権を破ってまで追ってはこねぇだろ。
隣国に渡っちまえばこっちのもんだった。
・
・アリク王子(3ヶ月)
「アリクよ、お前を殺した男を見つけたよ」
「あ、あぶぅ……」
ロドリック王は多忙なところ以外は良い夫であり、好ましい父親だった。
特に今日はいつもに増して男前で、あの拷問官ラドムを捕まえたとの報告まで俺にしてくれた。
キャッキャと無邪気に笑ってやると、王ともあろう者がだらしない父親の顔になった。
「リドリーが真実を明かしてくれてよかった。ヤツは人間の皮をかぶったおぞましい怪物だったよ」
辺りに母の姿はない。
ぼやけていた目も今では慣れてきて、俺の目はスキル通りの鷹の目に近付きつつあった。
「信じられるか……? ヤツは、人間の指をコレクションにしていた……。ギルド職員アリクの指を、布袋に包んで、お守りにしていたのだ……」
俺の指を……?
嘘だろ……?
頭、おかし過ぎだろ、あいつ……。
「妻が……リドリーがあんな男に虐待されていたとは……。お前も、さぞ悔しかっただろうな……」
ロドリック王は俺を抱擁した。
彼にならリドリーを任せられる。
いい男を見つけたものだった。
「ヤツは司法により裁かれ、監獄送りとなるだろう」
「ぶーー!」
いや、なんだと?
あれだけのことをやっておいて、それでは生ぬるいだろう。
「ふふ……勇ましい子だ……。やはり将軍の位が向いているだろうか……」
「ぶーっ、ぶーっ!」
「不満はもっともだがこれでいい。お前を殺した男が、監獄から無事に出られる可能性はゼロだ。囚人が囚人を殺すことなど、そう珍しいことではない」
ラドムは監獄では生き残れない。
父はそう確信していた。
「サザンクロス・ギルドと、お前を陥れた検事たちについてはもう少し待ってくれ。彼らはラドムと異なり大物だ、確実な証拠が必要になる」
父はそう我が子に語りかけるが、産まれて間もない赤子に自我が芽生えているとは思っていないだろう。
いや、むしろ父の幸せを考えるならば、俺は何も知らない子供のままでいるべきだ。
俺は父のヒゲを引っ張って、無邪気な子供の振りをした。
「んぶっっ?! こ、こらっ、止めないかアリクッ?! 整髪油が手に付くだろう!」
いや、やってみるとこれが楽しかった。
ヒゲの折れ曲がった父の顔がおかしくてしょうがなくて、赤子はケタケタとよく笑った。
「ふぅぅ……っ、ひどい目に遭った……。やはりこれは、将軍の器だろうか……。おお、リドリーッ、聞いてくれっ!」
「あらっ、そのおヒゲどうしたんですか!?」
「アリクのやつだ! まったくこのヤンチャ息子め!」
「ふふふ……ダメですよ、アリク様。……あ、そろそろおっぱいの時間ですね」
え……。
い、いや……。
そろそろ俺は、哺乳瓶からでも別に、構わないのだが……。
「大きくなって下さいね、アリク様……」
「うむ、大きくなって立派な将軍となれ!」
将軍、な……。
元大学生の俺のガラじゃない。
それならまだ宰相を目標にしたい……うっっ?!!
「かわいいな……」
「はい……」
「まったく、かわい過ぎるやつだな……!」
「はい……っ!」
「将来が楽しみだ! よくやったぞ、リドリー!」
「ふふ……何回、同じことを言うのですか、ロドリック様」
飲まなきゃ赤子は死ぬ。
リドリーを困らせる。
最悪は泣かせることになる。
ソレを拒むことは、とても正しい行いとは思えなかった。
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