・だったら鉄を作ろう - ダイレクトアタック! -
リアンヌと一緒の夜は楽しかった。
大公様は温厚でやさしい理想の義父さんで、娘そっちのけで王子の皿に温かい料理を運んでくれた。
陰謀漬けの人生は至ってヘビーだけれど、アリク王子の人生もなかなか悪くない。
家族同然の食事が終わると、リアンヌは自分の部屋にアリク王子を引っ張り込んだ。
それからやけに得意げに何かを取り出すものだから、いったいどうしたのかと思えば、リアンヌはオリジナルのカードゲームを披露してくれた。
「アリクのゴブリンにダイレクトアタック! やったーっ、私の勝ちーっ!!」
「ずるいよ、リアンヌ……」
厚紙を使ったカードは不格好で、絵も独特というか奇妙だったけれど……。
ゲームバランスはそんなに悪くなかった。
「ずるくなーい♪」
「ゲームを作った君に、初心者の僕が勝てるわけないじゃないか……」
「あははっ、天才王子に勝っちゃった! なんかいい気分っ♪」
「……カード、全部見せてくれる?」
「やだ。どうせ瞬間記憶の力で全部覚える気でしょ。それじゃ私が負けちゃうからやーだーっ」
「わかった。じゃあもう一勝負」
元の世界の文化を知っている相手が隣にいるのって、とても良いことだ。
こっちはそんなに熱くなる予定はなかったのだけど、ついついのめり込んでしまった。
「ずるいよ、アリク……」
「へへへ、これで僕の7連勝だね」
「そのカード禁止! 禁止ったら禁止っ、それずるい!」
「設計者の君がそれを言うの……?」
「次までに新しいカード増やしておくからっ、別の遊びしよっ!」
「いいよ。いくら続けても僕が勝つんじゃ、すぐに飽きちゃいそうだし」
「ムッカーッッ!! 武力ならあたしの方が上なんだからっ、調子に乗らないでよーっ!?」
「それを言うなら権力なら僕の方が上だ」
「権力の犬めーっ!!」
「僕はその権力を使って好き放題できるならそれでいいんだ」
「それ悪役のセリフッ!!」
リアンヌは楽しい人だった。
白熱のカードゲームを終えると、俺たちは部屋を飛び出して一緒に夜の庭園を歩いた。
でももう遅い時間だったから、すぐに互いの両親に引っ張られて、それぞれの寝室に運び込まれることになった。
「もう寝なさい」
「うん……」
そう言ってくれる人がいるだけで、幸せなことだと思った。
王子は美しい母親と同じベッドに寝そべって、ついつい子供にみたいに甘えて目を閉じた。
一歩間違えれば死刑台に一直線にもなりかねないこんな人生だけど、本当に悪くないなと思った……。
それはきっと、明るいリアンヌのおかげだ。
・
かくして翌日、一泊二日の楽しい滞在が瞬く間に終わった。
俺たち婚約者は夕日に照らされた小高い丘にて、両手を取り合ってお別れをした。
「またね、アリク! 次はマンモス肉を用意しておくね!」
「い、いや、僕は普通のお肉の方が……」
「えーっ、美味しいのに!」
「僕は遠慮しておくよ。それよりもカードゲーム、新しいの楽しみにしているから」
「へへへーっ、アリクに100連勝できるようなゲーム、考えておく!」
「それ、親が圧勝するだけのただのクソゲーじゃないか……」
「私が勝てればよし! じゃ、またね、アリク……」
「また遊びにくるよ、塩田開発のついでに。……あっ?!!」
金髪碧眼、とても綺麗だけど男の子みたいなリアンヌが王子の頬に迫って、あの日の夜よりも大胆に接吻をした。
「バイバイッ!!」
「わ……わぁぁぁぁ……っっ?!!」
リアンヌは大声を上げる王子を気恥ずかしそうに笑って、元気に丘を駆け下りて行った。
「リドリー様……いいっ、いいですねっ、く、くふふ……っっ」
「ええそうね。母親として、少しリアンヌちゃんに嫉妬しちゃうけれど……」
その後のことはよく覚えていない。
気付いたら馬車室にいて、母上にずっと体重を預けたまま王都まで運ばれていった。
「トーマ、さすがによそ見が過ぎると思うけれど……?」
「はっ?! す、すみませんっ、リドリー様!」
「アリクがかわいいのはわかるわ。でもお願いだから、運転中は前を見てくれる?」
「はっ! ああ……っ、殿下の小姓になって、良かった……」
「トーマ、しっかりしなさい」
「はっ?!」
夕日が少しずつ暮れてゆく。
城に着くのは夕飯時の少し後くらいになるだろう。
感受性の強い少年の頬には、まだリアンヌのやわらかな唇の感触が残っていた。
元JK、恐るべし大胆さだった……。
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