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・塩田開発をさらに進めよう - まんもす -

「アリクくん……」

「なあに、コッホさん?」


「やっぱりアリクくんは、ワシらの知るアリクなんじゃろ?」


 コッホさんは急にふざけるのを止めて、しんみりとした様子で背後の王子様を一別した。


「それって母上の恩人のこと? それはもう死んだ人でしょ。死んだ人がここに居るはずがないよ」

「そうかのぅ……? ならなんでレスターとつるんでるんじゃ?」


「噂を聞いたんだ。凄く強くて男気のあるおじさんがいるって」

「ほっほっほっ、アリクはレスターにホの字だったからのぅ……!」


「い、いや、それは……」

「おぉ、目をつぶると昨日のことのように思い出すわい……。あのろうそくもないケチ臭いトイレでは、よくアリクのやつに世話になったもんじゃのぅ……」


 何もかもが酷い誤解をはらんだ言葉だった……。

 職員アリクはトイレで居眠りするおじさんを、ただ迷惑だから起こしていただけなのに……。


「何を言っているんだ、このご年配は……」


 トーマもとぼけた老人に付き合いかねる様子で困惑していた。


「ほっほっほっ、まあよい! やるぞやるぞやるぞいっ、ワシはやるぞいっ!」


 昔、トイレで居眠りばかりしてギルドのみんなを困らせていたおじさんは、今は海辺で塩釜を炊いている。

 昨日までの、約5倍の超強火で。


「それじゃあ、お給金のことは大公様に伝えておくね。僕は他の労働者も見ないといけないから、そろそろ行くよ」

「うむっ、今日は港の方で仲間と豪遊じゃーいっ!!」


 俺たちはマイペースで陽気なコッホさんと別れて、その近くの事務所に移った。

 俺はそこで新人の労働者さん一人ずつ呼び出して、それぞれの固有スキルと人柄を確かめていった。


 適材適所の現場を勧めるだけではなく、必要とあらばレスター様への恩返しもかねて、戦いの才能がある人を冒険者ギルドへと勧誘した。


 新人冒険者を送り出せば、古株がまた引退して人材がこちらに流れてくるかもしれない。

 そんな腹も実はなくもなかったけれど。


 こうして昼過ぎから夕方まで塩田開発の仕事をがんばった。

 するとやっと……。


 やっとそこにリアンヌが帰ってきた。


「ごめんっ、お昼過ぎまでに終わらせるつもりだったけどっ、長引いちゃったっ! アイギュストスにいらっしゃい、王子様っ!」

「うん、お邪魔してるよ、リアンヌ。それより、よくここがわかたったね……?」


「だって私に会いに来るのは建前で、アリクの目当てはこの塩田だもん。でもそろそろ帰ろっ、私お腹空いちゃった!」

「否定はしないけど、リアンヌにだってずっと会いたかったよ。この身体から見れば、君は綺麗なお姉さんだから」


「へへへ、さすが王子様。お世辞が上手になってきたねっ」

「お世辞じゃないんだけど……」


 金髪碧眼の美少女で、強くて、明るくて、元気な女の子。

 これに好意を持たない男の子の方が少数派だと思う。


 2つ年下から見ても、リアンヌはとても魅力的な女の子だった。


「そんなことよりリアンヌ。毎回謝ることになる大公様の気持ちも、少しは考えてあげたら……?」

「だからーっ、今日はちゃんと戻るつもりだったんだってば!」


「僕の気のせいかな。君、この前も似たようなことを言っていたような気がするよ……?」

「あ、トーマさんもいらっしゃい! いつもごめんね!」

「いえ、これが仕事ですので」


 俺たちはだらしない笑顔のトーマに背中を見守られながら、王家の馬車へと手を繋いで歩いた。


 馬車室に入ると、リアンヌがすぐ隣にぴったりと寄り添って、女の子の急接近に驚く少年の気も知らずに、楽しそうに笑いかけてきた。

 本当に元気なお姫様だった。


「あのねっあのねっ、今日の私の活躍聞いてくれるっ!?」

「聞かないって言っても聞かせてくるんでしょ……?」


「あははっ、聞いてくれるってことだよね! あのねっ、今日はねっ、私っ、マンモスをやっつけたの!」

「…………はい?」


 馬車の中で、リアンヌは山のように巨大なマンモス型のモンスターをやっつけたと主張した。

 俺の知らないところで、リアンヌは加速度的な成長を重ねているようだ……。


「1つ質問。異世界って、マンモスがいるの……?」

「いるいるっ! でも私がやっつけたから、あれが最後の1匹なのかもっ!」


「リアンヌなら、いつかドラゴンだって1人でやっつけちゃいそうだね……」

「ちっちゃいのならもうやっつけたよ! マンモスの方が強かった!」


「そ、そう……そうなんだ……」


 俺の頭の中では、毛皮を身にまとい石槍を手に、マンモスを追いかけ回すリアンヌの姿が浮かんでいた。


 マンモス。

 ドラゴンならまだしも、マンモス。

 いくら楽しそうに語られても、話だけではどうにも現実感に乏しかった。


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