・エピローグ3/4 塩の町アイギュストス
・アリク王子
怖い怖い粛正の嵐がようやく収まりだした頃、俺はアイギュストス領を訪れた。
父と母と兄に、ようやく完成した塩田を見せるためだった。
既に塩の大量生産も始まっている。
今日この日のために、俺が設計した倉庫から、俺が設計した道を使って、塩田の前に製塩された藻塩が並べられている頃だった。
一度、大公様に会うために屋敷を訪れた。
大公様は昼からもう疲れ果てた顔をしていて、盟友である父上に苦笑いを浮かべた。
「遙々ようこそお出で下さった。ご子息の塩田はもうご覧になられましたかな?」
リアンヌの話をしないので、なんとなく状況を察した。
また今日も逃げられたんだろう……。
「いや、まだだ。よければ大公とリアンヌ嬢と共にと思ってな」
「大公閣下、そのリアンヌ公女の姿がどこにもないようだが?」
王と王太子が訪れたのに、そっちのけで冒険に出掛けるリアンヌにあきれた。
大公様があまりに可哀想な気がして、フォローすることにした。
「リアンヌのことは気にしないで。僕が頼んだ用事を片付けてくれているんだ」
「申し訳ない……」
もう誰もリアンヌを止められなかった。
さながら不死身のアキレウスとなったリアンヌは、武力ではもうどうにもならない存在だ。
「あいつ、どこまで行ったの……?」
父上たちに聞こえない声で、大公様に耳打ちした。
「沼に、魔物討伐に……。は、ははは……夕方には戻るそうだよ……」
「大丈夫、大公様……?」
「ありがとう、君はやさしい子だね……。大丈夫、頭痛にはもう慣れたよ……」
「ごめんなさい……僕が、あんな力をリアンヌにあげから……」
リアンヌ不在のまま、俺は塩田へと父上たちを案内した。
その道中、塩田開発の苦労話を聞いてもらった。
プールに亀裂が走って塩水が漏れてしまった時のことや、大雨で台無しになったこと。高波にやられてしまったこともあった。
「ほう、あれがお前の塩田か」
「まあ、思っていたよりずっと大きいわ……!」
「我が弟ながら、恐るべき手腕だ……」
塩田は水を引き込んだら、後は蒸発に任せて放置する。
自然の力を使って、必要最小限の労働力と燃料で塩を作る場所だ。
そのため大きな物を沢山用意する必要があった。
横幅約6m、奥行き24mの石のプールを、海岸沿いに12個並べた。
プールの中では塩を好む藻類が繁殖し、薄緑色がかっている。
塩田の前に到着すると、パフォーマンスで大桶に積み上げさせておいた藻塩を家族に紹介した。
「娘の勧めで揚げ物にかけてみましたが、これが絶品です。味、原価、生産量、アリク殿下の塩田は素晴らしいの一言です」
「大げさだよ、大公様」
「いやいや、これに慣れると辛いだけの赤い岩塩にはもう戻れそうもない」
「凄いわ、アリク! これで王国のみんなが喜ぶわね!」
母はそう言うけど、父と兄は頭の中でもう金勘定を始めていた。
二人のこういうところは今に始まったことじゃない。
その塩がもたらす金を使って、これからどう計画を飛躍させるかを考えているように見えた。
「ふんっ、でかしたぞ、弟よ。お前にはやはり、内政官の才能がある」
「しばらくはこの塩が王家の運転資金になりそうだ。アリクよ、私からも賞賛しよう。素晴らしい働きぶりだった」
その次は塩釜を見せた。
倉庫に備蓄された塩の山も紹介すると、また父上と兄上が政治家の顔になって母上のひんしゅくを買っていた。
塩田開発により王家と大公家は莫大な財源を手に入れた。
富は王家の力を高め、王侯貴族の団結が中央集権による強い国を生むだろう。
紹介を終えて屋敷に戻ると、大公様が藻塩を使った料理を振る舞ってくれることになった。
空を見上げればもうじき夕方だ。
会いに来たのに顔を出さない婚約者と、もうすぐやっと会えそうだった。
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