・王の庶子に生まれ変わりました
・王の庶子に生まれ変わりました
「アリク……?」
「はい、アリクではダメでしょうか……?」
低くやさしい男の声と、どこかで聞いたような女の声がふいに響いた。
「それは確か、君の恩人の名だったね?」
「はい……。詳しく、事情を聞いていただけますか……?」
「過去を語ろうとしなかったのは君の方だ。喜んで聞こう」
「ありがとうございます、ロドリック様」
視界がぼやけて何も見えない。
幸せで仲睦むつまじげな男女の声だけが聞こえる。
ここはどこなのだろう……。
明るく暖かで、とても心地よい温もりが俺を包み込んでいた。
「昔、昔……あるところに、【虚弱】で【不幸】で【弱視】で【愚鈍】な【奴隷】がいました……」
いや、謎の1つはすぐに解けた。
声の主はあのリドリーだった。
「君は、奴隷だったのか……? 君ほど聡明な女性が奴隷……にわかに信じがたい……」
「嘘ではありませんよ。私が今の私になったのは、当時私を救ってくれたアリク様のおかげなのです」
リドリーは当時の顛末と、その後の自分の人生をロドリックに語った。
彼女は農園を訪れた子爵閣下に、希少な【侍女】スキルをアピールして農園を脱出した。
アリクのスキルを受け継いだ彼女は、スキルアップやレベルアップもこなせる万能侍女として重宝された。
そしてやがて、このロドリックという男の目に止まった。
「君のそのたぐいまれな能力は、そのアリクから譲られた物だったのか……」
「はい……。ですがアリク様は、【虚弱】を私から奪ったせいで、亡くなってしまいました……」
リドリーにとって、アリクの死は決して心から消えない咎だった。
だが俺の中のアリクは喜びを覚えた。
自分が最期に託した力で、あの哀れなリドリーが自分の人生を見事切り開いた。
今の幸せそうなリドリーの姿が、お人好しのアリクは嬉しかった。
「生まれ変わり……?」
「はい、そうとしか思えません……。見て下さい、この子の固有スキルを」
「これは……これは、なんだ……? 【空白】という名の固有スキルが、無数にあるぞ……? むっ、待て、そのスキルはっ!?」
口調穏やなロドリックが大声を上げて驚いた。
よっぽど意外なスキルが『この子』とやらに宿っていたようだ。
「固有スキルを入れ替える能力を隠していたアリク様は、私から【虚弱】【不幸】【弱視】【愚鈍】を奪い取りました」
「それがアリクの生まれ変わりの根拠か……」
「はい……。この子はきっとアリク様です! 神様がきっと、私に恩返しのチャンスを下さったのです!」
「【強靱】【幸運】【鷹の目】【瞬間記憶】【スキルマスター】か……ふふふっ、素晴らしい。この子は我が国の希望ではないかっ!」
その時、俺の身体がふわりと浮いた。
俺はロドリックに抱き上げられ、抱き締められ、掲げられた。
俺はどうやら……もう1度産まれたらしい。
このロドリックとリドリーの子供として。
当時リドリーから奪ったスキルは、なぜか正反対の効果に変わって残っていた。
「これだけの才能を持ちながら、庶子であるのが悔やまれるが……きっと立派な子に育つはずだ! 将軍、学者、大臣、宰相! お前の未来は明るいぞ、我が子アリクよっ!!」
「この子の名前、アリクでもよろしいのですか……?」
「うむ、君の言うアリクは尊敬に値する! 言葉を失いながらも君をかばい、未来の第二王妃に新しい人生を与えた!」
ちょっと待て。
ロドリックは、いきなり何を言い出す……?
王妃……だと?
ならばこのロドリックという男……いや、俺の父となる男は……まさか国王、なのか……?
「アリク様は元々、サザンクロス・ギルドの職員でした」
「ほぅ、最近幅を利かせているあのギルドか……」
「でも、怪我をして喋れなくなってしまったせいで、罪を擦り付けられてしまったのです……。それなのに、アリク様は私を守って下さったのです……」
「ふむ……。あいわかった、当時のことを調べ直させよう」
「えっ?! わ、私はそんなつもりで明かしたのでは……っ」
「本当ならば、公金流用の真犯人が野放しということになる。担当の役人も怪しいな……検事もだ。これは直感だが、大きな汚職の臭いがする」
これは、妙なことになったな……。
ロドリック王――いや、これからは父上か。
父上はアリクの冤罪事件の真犯人を捜し出すつもりだ。
そういえば独立の約束をしたレスター様は、今も元気にやっているのだろうか。
庶子とはいえ今の俺は王子なのだから、この立場を使って、アリクが世話になった礼くらいはレスター様にしてやりたい。
「選ばれし子アリクよ、お前のその類い希な才で兄を支えよ! 我が国に繁栄をもたらせ! 期待しているぞ、アリク第二王子よ!」
目の焦点が一瞬だけ合い、我が子を誇る黒髪の好紳士と、美しく艶やかな華そのものとなったリドリーの姿が見えた。
2人は相思相愛で、とても幸せそうに目を合わせていた。
掲げられた俺を見上げて、幸せいっぱいに微笑んでいた。
奇妙な感じだ。
あの日気まぐれで助けた女の息子に産まれ、王子様となっていたのだから。
「ジェイナス、話は聞いていたな!? ギルド・サザンクロスに探りを入れさせろ!」
「はっ、御意に! 聞くからに不快な話! 必ずや朗報を持ち帰らせましょう!」
ジェイナスは若い青年小姓か何かだろうか。
高い声で賛同し、この場を去っていった。
俺はリドリーの胸に移され、空を見上げる形になった。
もう一度どうにかして焦点を合わせると、聖母の微笑みを浮かべるリドリーがそこにいた。
「おお、そろそろおっぱいの時間なのではないか?」
「あ、そうですね……。さあアリク様、おっぱいの時間ですよ……?」
は……?
え……?
な、何ぃ……っっ?!
「大きくなってくれなくては困る! たくさん飲ませてやってくれ!」
「はい、もちろんです」
う、うお……?
お、おおおおおおーーっっ?!!
「あ……あぶふっ……」
俺は……俺は変な性癖に目覚めそうになる自分が、心の底から嫌になった……。
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