・冬とヒートパイプ - おままごと、変態入り -
冬は新市街の開発と、ヒートパイプ式の暖房施設、それに馬車路線の構築と、水運港の拡張に尽力することになった。
アイギュストス港との接続により水運の需要が高まり、ただちに港を拡張する必要に迫られた。
そうなると重要度が高まるのが、対岸の土地だ。
あちらに新しい港を造れば、王都行きの積み荷を効率的に運搬できる。
ただ林だった場所に港を作るとなると、道路、商店、住宅街の整備も必要だ。
これがなかなかもって大変な大工事になった。
林を切り拓き、地面を平らにして、船舶が泊まれるように沿岸の川砂を掘り、加えて護岸工事もしなければいけなかった。
おかしい。
文官を増やして楽ができるようにしたはずなのに、また忙しくなってしまった……。
「アリク様、港から新しい報告が届きましたわ」
「ありがとう、リアンヌ。いつも助かるよ」
「いえ! わたくし、アリク様のお手伝いをするのがとても楽しいのです! なんだってお命じになられて下さいね!」
「うん、お言葉に甘えさせてもらっている。いつもお願いを聞いてくれてありがとう」
けど増えた苦労をリアンヌが背負ってくれた。
バルコニーから見たあの七色の輝きがよっぽど気に入ったらしく、あれから俺の発明や開拓に熱心に注目してくれるようになった。
「でしたら頑張りの見返りをリアンヌに下さい!」
「え、うん? 見返りって、具体的に何?」
「夜になりましたらっ、また、おままごとを……」
「え…………。あ、あれ、また、やるの……?」
「続きを、この前の続きをお願いします!」
女の子の遊びは恥ずかしい。
春になったら結婚するのに、おままごとする必要って、ある?
そう返せたらどんなに楽だろう……。
「はっ、このトーマ! 誠心誠意っ、イヌとしてお仕えいたしますっ!」
返答を迷っていると、補佐をしてくれていたトーマが口をはさんだ。
「トーマ……」
「はっ!」
「トーマはそろそろ犬以外にロールチェンジいしてよっ?!」
「いえっ、自分は殿下のイヌがいいんですっっ!!」
「へ……変態だぁ……」
とにかくリアンヌのおかげで助かっていた。
彼女は大切なことを忘れてしまっているけど、一緒に行動していると端々から、元のリアンヌらしさが感じられた。
治す方法はいまだに見つかっていない。
そもそも前世の記憶って、脳のどこに存在するの?
治癒魔法を極めれば極めるほどに、リアンヌの脳には何の異常がないことが証明されていってしまった。
もしかしたら前世の記憶って、脳の中にはないのかもしれないなと、最近はそう疑い始めている……。
生物学的に考えれば、前世の記憶そのものがおかしい。
前世の記憶というでたらめな情報が、DNAという設計図を無視して、まるで突然変異みたいに生えてきたことになる。
つまりはお手上げってことだった。
「これが終わったら一緒に散歩でもどう?」
「いいですわね! ぜひカナも一緒で!」
「そうだね、カナちゃんも一緒がいいね」
結婚式まであと2ヶ月。
元の彼女を取り戻せないのは悲しいけど、今の彼女を受け入れることにした。
今のリアンヌも素敵だ。
守ってあげたくなるような理想的なお姫様だ。
それにたとえ人格が変わろうとも、彼女が彼女である事実は変わらない。
諦めるわけじゃないけど、今の姿を受け入れるべきだった。




