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・苛烈なる野心家たち


 俺の父と兄は野心家だ。

 必要とあらば策略を選び、時に多少の汚い手だって使う。


 二人は現代人の価値観からすればちょっとした悪人だろう。


 けれどこの世界には確固たる秩序なんてない。

 汚い手を使ってくる敵に対して、正々堂々とした手だけで挑むのは無謀だった。


「その力、使えるな……」

「ほう。ギルベルドよ、何か策を思い付いたか」


 王宮に戻った俺は政務室に呼ばれた。

 父と、ちょうどそこに同伴していた兄に、アイギュストス領での一部始終を報告した。


 兄の興味は塩田で濃縮した塩水よりも別の部分にあった。


「アリクは毒を跳ね返す。毒を盛った者はそれにより死ぬ。つまりは合法的に、誰にもとがめられることなく、我らの政敵を排除出来るということだ」


 俺にはとても思い付かない大胆な発想だった。

 騙し合いの貴族社会で身を置いている兄だからこそ、そんな発想が出てくるのだろう。


「なるほどそういうことか。面白い奇策を思い付くものだ」

「アリクよ、お前の毒反射スキルについて知っている者は?」

「リアンヌと小姓のトーマ、あとはリドリー母上だけだよ」


「よし、理想的な盤面だ。その者たちには口をつぐんでもらおう」

「……僕を使って、父上と兄上の政敵を始末するまで……?」


「そういうことだ。敵の首魁自らがお前を毒殺する状況を、我々で作ってしまえばいい」


 うわ……。

 たぶんそうなんだろうなって思っていたけど、面と向かってハッキリと言われるとドン引きだった……。


 俺の兄はなんて恐ろしいことを考える人なのだろう……。

 それに同調する父上もだ……。


「危険はあるが面白い案だ。アリクさえ納得するのならば、我も計画に賛同しよう」

「我が弟アリクよ、王族に生まれたからには、王宮の陰謀に加わる覚悟はあるな?」


 ちょっと待って!

 と、俺は両手のひらを突き出して考えた。


 王家の人間は一蓮托生、断るのは賢明じゃない。

 政敵を倒さなければ、破滅するのは俺たちの方だ。


 もしこの方法で敵のリーダーを暗殺し返せれば、それはルキの天秤の追い風になる。


 恩あるレスター様に大きな夢と、昔なじみの冒険者のみんなに羽振りのいい話を運べる。

 敵がいなくなれば、城下に遊びに行くことも許されるかもしれない。


 この暗殺計画はギルド職員アリク、王子アリク、転生者アリクの3人の共通の利益になる話だろう。


「片が付いてから僕のスキルの種明かしをすれば、子供を殺そうとした外道の自業自得で終わる。父上たちは敵の醜聞も欲しいんだね」


 兄上は弟の思わぬ返答に目を広げて驚いていた。

 続いて口元をひきつらせ、信頼するように弟の肩に手を置いた。


「お前が庶子でよかった」

「兄上が望むなら、僕は王位継承権を放棄してもいいよ。欲しいのは、玉座じゃないから」


「ならば何が望みだ?」

「僕はもっと楽しいことがしたい。何かを作ったり、見たり、食べたり、リアンヌと冒険がしたい。僕の望みはそれだけ。楽しく生きたい」


 そう伝えて、渡し忘れていた水筒を差し出した。

 兄上は中に詰められた塩田の塩水を舐め、父上も同じようにした。


「アリクよ、塩田開発は引き続きお前に任せよう。だが、しばらくは父たちに付き合ってもらう」

「僕としては、すぐに塩田に戻りたいんだけど……」


 けどそうもいかないよね。

 誰かに毒を盛られたら、毒反射スキルの存在が露呈してしまうかもしれない。


「報告書を毎日お前のところに届けさせよう。お前はその報告を元に、離宮から開発の指示を出せ」

「現場主義が叶わぬのが、我ら王族の宿命と思え」


 この目で塩田が完成してゆく姿を見たかったのに。


「俺と父の夢のために、少しだけ我慢してくれ」

「じゃあ、これが終わったら自由に城下町に行く権利が欲しい」


「ふん、悪いがそれは難しいな。お前の母親が納得するとは到底思えん」


 それもそうだ。

 自由へ最大の壁は、父上たちの許可よりも母上だった……。



 ・



・黒衣の侯爵


 離宮に忍ばせていた間者から報告が入ったわ。

 あの庶子のガキと元奴隷の母親は、いっちょ前に保養地ブラウンウォーターをお忍びで訪れるそうよ。


 だけど偶然ってあるものね。

 ちょうどこの私も、ブラウンウォーターの同じ宿に保養に行く予定だったの。


 あら嫌だわ……。

 これなら、殺せてしまうじゃない……。


 アイギュストス大公とカナン王家の同盟の要を、その時を狙えばこれまでの苦労が嘘のように、簡単に排除出来る……。


 私は異国のアサシンギルドの人間を屋敷に呼び寄せ、殺しのプロの意見を聞いた。


「あら、私が……?」

「確実に殺したいのならば、御身自らが毒を仕込むべきだ」


「アンタ、私に下々の仕事をさせるつもり……?」

「その宿の度を過ぎて厳重な警備状況からして、それが確実。進入の成功率は7割、暗殺となるとその半分と見る」


「中から私が手引きをしたら?」

「その上で35%ほどの成功率だと思っている」


 アサシンギルドの男は、私がやればほぼ確実に殺せると保証したわ。


 偶然宿泊が重なったそのチャンスを使えば、ダルブラという痕跡の残らない毒でアリク王子を消せると。


「無理ならば、次の機会を待つべきだな」

「次!? そんなの待ってらんないわよっ! あの王ときたらっ、人のショバを荒らし放題してくれちゃってっ、もうっ!! 王家なんてお飾りの癖に生意気なのよっ!!」


 アリク王子と私の宿泊が重なったのは、脆弱な王家を叩き潰せと神がそうおっしゃっているからよ……。


 元奴隷の癖に王に取り入ったリドリー王妃。

 その汚れた子アリク。


 私は王家の純血を守ってやるだけよ……。

 あの純粋でかわいらしい坊やが、血を吐きながらもだえ苦しむところを見たいわ……。


 リドリー王妃はさぞ泣き叫ぶでしょうね!!

 幸福の絶頂から真っ逆様!! まあ最高じゃない!!


「いいわ、その毒を用意なさい」

「では当日、ギルドの手の者を宿に進入させる。侯爵様は毒を受け取り、アリク王子の飲食物にそれを」


 ああ、興奮してきちゃった……。

 自分の手で人を殺すのって、どういう感覚なのかしらね……。


「それで、確実に殺れるのよね……?」

「お膳立ては我がアサシンギルドにお任せを」


 決めたわ。私、アリク王子を暗殺する。

 そうすれば議会のパワーバランスがまた崩れ、サザンクロスギルドに仕事を回せる。


 ギルドは復活し、やつらが生み出したルキの天秤は、投資を回収し損ねて大赤字……。


 王家の衰退が始まるわ……。


「うふふふっっ、早くあのかわいい子を、母親の前で殺してあげたいわ……」


 運がなかったわね、ロドリック陛下。

 我が子を亡くして嘆き悲しむ貴方たちの姿が私、楽しみ……。


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[一言] これ暗殺ギルドにばれてないか?依頼人自らにやらせるって
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