・合格通知を聞いて、文官さんを完成させよう - 帰るまでが遠足 -
屋敷の正門前に着くと、そこでレスター様と冒険者さんたちと別れた。
「お宝をギルドまで運ぶまでが、冒険者の仕事だ。親分になっちまった今、決まりを破るわけにはいかねぇよ。……じゃあな、アリク殿下」
「うん、またね、レスター」
「うしっ、お前らっ、美味いもんたらふく買って、アジトに帰んぞ! 金は俺が出すっ、じゃんじゃん買い込めっ!」
「そう言ってくれると思ってたぜ、レスター!」
「レスターはアリク王子と一緒のときは機嫌がいいからなーっ!」
レスター様は気の知れた仲間たちと共に、まるで家族みたいに明るく文句を言い合いながら、古い仲間である職員アリクの前から去っていった。
王子に生まれなかったら、今頃俺もあっち側にいたのかなって、急に寂しくなりながらそう思った……。
「ねぇ、兄上?」
「フッ、寂しくでもなったか?」
「ううん、その気になればいつでも会えるし。それにね――」
ルキの天秤の本部には、分裂元のサザンクロスギルドのように、大きな酒場が併設されている。
あれはお宝を手に入れて気が強くなった冒険者たちを、まっすぐに拠点に帰すための仕組みだ。
冒険者たちが帰るべきたまり場を作り、そのたまり場の仲間に稼ぎの自慢をさせる。
そういった仕組みを作っておけば、寄り道した酒場で宝を紛失したとか、横取りを狙うハイエナたちに襲われたりとか、そういった無用のトラブルを減らせる。
「最初に始めた人に深い意図があったかは知らないけど、よくできた仕組みだと僕は思うんだ」
そんな話を兄上にしながら歩いた。
「アリク、お前はそんなことばかり四六時中考えているのか?」
「うん、こういうのを考えるのが楽しくなきゃ、領主なんてやらないよ」
兄上は少しあきれたように弟に苦笑いして、考えるようにたくましい腕を胸で組んだ。
「……最初はただ、仲間と酒を飲みたかっただけだろう」
「うん、きっとそうだろうね。でもその仕組みが今でも続いているのは、廃止するより続けた方が都合がいいからだよ」
「俺はそんなことより、豪腕が羨ましくなった。ああいう人生もいいものだな」
「そうだね。初老に入っても仲間がいっぱい。羨ましい人生だよ」
レスター様はギルド職員アリクの憧れだった人だ。
そのレスター様を兄上が認めてくれると、俺はとても気分がいい。
「アリク、雑談の続きは今度だ。着いたぞ」
「え……? あ、ああ、そっか」
辺りを見回すと、いつの間にやら俺はエントランスホールにいて、目の前には食堂の扉があった。
その両開きの大きな扉を俺は押し開いた。
すると――
「遅いやんかっ、ギル!! うちらずーーーっと待っとったんやで!!」
中には大声を上げるアグニアさんと、付き合わされていたのかだいぶゲッソリとしているコンラッドさんと、王都から試験結果を抱えて戻ってきたマーロウさんたちがいた。
「うむ、今帰った。待たせて悪かったな」
「なんや、今夜は素直やん?」
「お前の隣が俺の帰るべき場所だ。ふとそう思った」
「よ……よっくも、んなこっぱずかしい言えんなぁ……っ!? や、やるやん……」
目前でなんかイチャイチャが始まったから素通りして、俺たちはいつもの自分の席に腰掛けた。
話でもあるのかアグニアさんと兄上が食堂を出て行くと、席でしなびれていたコンラッドさんの背がシャキッと伸びた。
それで試験の結果だけど、これはもう言葉にして確認するまでもなかった。
「コンラッドさん、報告をお願い」
「はっ! 最高級の羽毛ベッドは格別にございました!」
「それはよかった。それで、一応聞くけど試験結果は?」
「はっ、それはっっ!!」
マーロウお兄さんも、ゴーン・ベイさんも、ネリネおばさんも、残りの2人も晴れやかな表情だった。
こんな顔で落選報告をする人がいるわけがない。
もしいたらコメディアンの才能がある。
どう見たって、彼らは合格していた。




