・スキルをかき集めよう、手当たり次第 - 私がやりました -
朝、パジャマを脱いで王族の略装に着替えようとして、はたと手を止めた。
そうだった。
今日はこっちの服ではなかったんだった。
「あれ、あの旅装束、どこやったかな……」
クローゼットの中を探っても、あのパッチワークのマントと、ガサガサとした木綿の服が見つからなかった。
今日はレスター様とみんなで冒険に行く大切な日だ。
いったいどこに消えてしまったのだろう。
確かにここにしまったはずなのだけど、旅用の皮のブーツまでもが消えていた。
「殿下、起きていらっしゃいますか? ターニャが気を利かせて朝食の時間を早めてくれました」
「ああ、トーマ、入って! ちょっと困ったことになってるんだ」
「はっ! 何かお困りで――ホッ、オホオォォォォーッッ?!」
「朝から変な声出さないでよ。……あ、裸だった」
丸出しだったのでベッドに投げてたパンツに足を通した。
「朝からごめん、粗末なものを見せたね」
「け、けけけっ、結構なお点前ですっっ!!」
「そんなことより僕の旅装束知ってる? 服、マント、ブーツ、全部消えてるんだけど?」
「はぁ、はぁ……」
「トーマ」
「ふぅ、ふぅ、ふ、ふひひ……っ」
「トーマ……」
挙動不審の3つ上のお姉さんを落ち着かせるために、俺は絹のシャツを身に付けた。
「はっ?! 何かございましたか、殿下!?」
「旅装束がないんだ」
「なんと!? そういうことでしたか……。てっきり、殿下に、美しいお姿を見せつけられているのかと……っ」
「……まあ、綺麗な身体だよね、これ」
シミ一つない白い手足を確かめて、シャツのお腹をめくってみせるとトーマが悶絶した。
これはこれで、美少年気分を堪能できて面白い。
こういうのは、わかりやすいトーマのおかげだ。
「ハァハァ、フゥフゥ……」
「それよりトーマ、僕の旅装束を探してよ」
「はっ! ではっ、食堂にて屋敷の者に聞いてみるとしましょう!」
「ありがとう、僕はいつもの服で行くね」
「ところで、お……お着替えのお手伝いはっ、本日は必要でございましょうかっ!?」
「いらない」
「そう、ですか……」
大げさに落胆するトーマを見送って、俺もいつもの服へと手をかけた。
代わりの旅装束を買おうにも、こんな時間では店も開いていない。
せっかくレスター様が手伝ってくれるのに、申し訳なかった。
・
朝食の席で訪ねても、屋敷の者は誰も旅装束の行方を知らなかった。
いくら今の王家が豊かだって、高価な王子の正装を血や泥で汚すわけにもいかない。
人間って、着ている服に縛られるものなんだな。
進化の過程で毛皮を捨てた人類は、衣服による高い体温調整能力と、ジョブチェンジ能力を手に入れた。
人が衣服の見てくれや様式を気にするのは、毛皮を捨てて服をまとう道を選んだ生物の、本能だ。
そんな哲学なことを思慮しても、あのお気に入りのパッチワークのマントも、歩きやすいブーツも見つからなかった。
この日のためにカナちゃんとトーマはマントを羽織って、腰にアオハガネの刃を吊しているのに、俺はいつもの格好のままだった。
「アリク殿下、豪腕のレスター様が参りました」
「ああ、ついに着ちゃったか……」
いくら自分の部屋を探しても見つからないので、服を買うか借りようかと考え始めていると、ターニャさんが扉越しに恩人の来訪を伝えてくれた。
「それとあの……お探しの旅装束なのですが、殿下……私、心当たりがございます……」
「え、本当!?」
「はい、私が隠しました……」
「えーーーっっ?! な、なんでーっ!?」
部屋の扉を上げると、ターニャさんは頭を下げて俺を待っていた。
何か事情があるに決まっていた。
遅くなりました。
向こう4話分のストックを確保しましたので、しばらくは早めに投稿できそうです。




