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・文官が足りない? なら作ればいい - 普通じゃないおじさん -

「これ、入れ替えちゃってもいい……? お子さんいるんだよね……?」

「もう大きくなっちゃったからいらないわ。下の子はじきに8歳になるの」


「では、ネリネさんはなんだかんだ元の頭が良さそうだし、【記憶力倍加】スキルと入れ替えるね」


 スキルを入れ替えて、俺は物覚えのいいおばちゃんを作り出した。


 【子守歌の才】はちょっと面白そうなスキルだ。

 後で歌ってみようかな……。


「あらー? なんだかー、頭の中がスムーズになったような……不思議な感じがするわー」

「それは短期記憶力も倍加されたからだろうね。普通なら揮発してしまう思考が、長く頭の中に残るようになったんだよ」


 ネリネさんに与えたこのスキルは、俺の【瞬間記憶】スキルがもたらす感覚にきっと似ているはず。

 思考がすぐに揮発しないということは、それだけ考えを組み立てやすくなるということ。


 短期的な記憶力が高まれば、それだけ人の思考は豊かになる。


「うふふー、今のおばちゃん、天才かもしれないわー。もう返したくないくらい素敵ぃーっ!」

「ごめん、それは文官の量産に必要不可欠な力だから、あげられないよ」


「冗談よー! でも、バカなうちの子たちに欲しいくらい……」


 俺の力ってやっぱりヤバい。

 離宮でのジェイナスの危惧はもっともで、これは裏を返せばとても危険な力だった。


 兄上のように才能に恵まれなくても負けずに努力を重ねてきた人たちを、まるであざ笑うような、社会のバランスを壊してしまう力だ。


「ゴンベーさん、ゴンベーさんのスキルもいじっていい?」

「おらぁ、芋さ掘れればそれでええ! 好きにしてくんろっ!」


「話が早くて助かるよ。ええっと……ゴンベーさんのスキルは……え……ええええーーっっ?!!」

「なんだべ? やっぱりおら、芋掘りの天才だったべか?」


 ゴーン・ベイさんの固有スキルは【即死魔法・上級】だった。


 とても信じられないけど、現に画面にはそう気されている……。

 誰が持っても災いとなり得る危険な力を、ただの田舎の農家のおじさんが所持していた……。


「じ、自分の固有スキル……もしかして、ゴンベーさんは、調べたことなかったり……?」

「んだ。だけんど、なんで調べてねーの、わかったんべかー?」


「だって、ただの農家のおじさんやってていいスキルじゃないし、これ……」


 えっと……これ、俺が受け取るの……?

 なんか、これって、手を出しちゃいけないスキルのような気がする……。

 このままゴーン・ベイという農民の中で、棺桶まで保管しておくべきというか……。


「よくわかんねーべが、まあええべ! 早くおらも天才にしてくんろっ! 野良仕事の天才でもええべよ、ナハハハ!」

「あ、うん……」


 結晶化させて俺から切り離す方法もあるけど、それはそれで保管しかねるなぁ……。

 諦めてトレードして、俺の中で保管するしかないか……。


 俺はゴーン・ベイさんから世にも危険な【即死魔法・上級】スキルを抜き取り、【睡眠学習】スキルをセットした。


「終わったべか? なーんも変わった気ぃせんべよ」

「ゴンベーさんには【睡眠学習】スキルをセットした。枕の下に覚えたい本とかを入れて寝ると、その内容が覚えられる能力だって」


「おおっ、楽でええべなぁ!」

「でも覚えられる要領は有限で、オーバーすると最初に覚えたことから消えてゆくって」


 目には見えないテープレコーダーと、頭が繋がるって感覚なんだろうか。

 便利だろうけど取り回しはかなり悪い。


 陰鬱な小説を枕の下に仕込まれた日には、今すぐ自分の記憶を消したくなったりして。


「ええべええべ! おら元からよ、野良仕事以外なーんも覚えられねーべよ!」


 このスキルの欠点は、外部記憶装置であるからこそ、スキルを取り外すと学習内容の大部分が失われることだ。


 けど仕方がない。

 勉学に関するスキルは貴重で、手放したがる人なんてそうそういないのだから、今はこれでがんばってもらおう。


 俺はその後も残りの2名の地元合格者に同じ事をして、スキルを入れ替えさせてもらった。


 彼らに与えたのは【賢さ+25】だ。

 大ざっぱに言えば、単純な頭のよさが+2.5倍加算される効果だ。


 引き替えにこっちがいただいたのは【強肩】【ピンチ○】だ。

 前者は戦士やスポーツ選手にいいだろう。

 後者はスキルを複数持てる人間でもない限り、あまり嬉しくないやつだ。


「協力ありがとう。それで国家試験の日時だけど、18日後の王都で行われる」

「は、半月ぃーっ!? ちょっと待ってくれ、じゃなくて、下さいよ、アリク王子!」


 一通り終わると試験の日時を伝えた。

 ネリネさんとゴーン・ベイさんは余裕しゃくしゃく、残りの3人には動揺が走った。


「父上に無理を言って、試験の日を増やしてもらったんだ」

「ちょ、ちょっ、なんてことすんだよぉーっ!? ではなく、するんですかーっ!」


「大丈夫、僕とコンラッドさんが勉強を教えるよ。もし試験を通過すれば、僕は雇用者として、給料の3ヶ月分のボーナスを払うと約束する」

「えーっ、それほんとぉー!? おばちゃんがんばっちゃーうっ!」

「そらええべ! 孫にロバさ買ってやれるべよぉー!」


 家畜は資産。それが田舎の摂理。

 大きなボーナスが貰えると知ると、現金にも誰もがやる気になった。


「しばらくとーちゃんが飲んだくれてたから、俺んちボロボロでよ……。その話、乗ったぜ! じゃなくて、乗りましたよ、アリク王子!」


 お金の力ってすごいな。

 こうして見ると、みんなが必死になって執着するのもわかる。

 お金があれば、人の心が買えるんだから。


「君たちに貸した力は、半月で国家試験を通過してもおかしくない優れた力だ。試験の日まであと18日! ここにいるみんなでがんばってゆこう!」


 アリク王子が彼らを励ますと、ターニャさんとカナちゃんは新しいお酒やジュースをグラスに注いでゆく。

 希望にあふれた新しい人生を夢見て、彼ら田舎の普通の人たちはやる気をあふれさせた。


 本当にこの方法で優秀な文官を作れてしまったら……。

 必要な数がそろったからもう止めますとは、言えなくなってしまうだろう。


 カナン王国は現在も深刻な文官不足。

 父上や国内諸侯に人材育成を求められるのは見えていた。


 でもそれでも俺は、元通りのリアンヌと結婚式を挙げたい。

 結婚するのはいつだって俺を振り回すあの子じゃないと嫌だった。


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