・秋、新市街2号区 - 第2発電区 -
最後の目的地は山の頂上。
とは言い過ぎかもしれない。
正確には周囲に遮蔽物がなく、かつ建設が可能なそれなりの面積の土地を探してもらった。
できれば自分で探したかったけど、そんな時間はないとトーマに怒られた。
「こんなところ歩かせてごめんね」
「いいえ……アリク様とごいっしょなら、うちは、どこでもたのしいです……。ぁ……」
カナちゃんと山頂に続く傾斜面を歩いた。
サラサラの白い髪にくっついていた蜘蛛の巣を取ってあげると、カナちゃんはその行為に驚いた。
「維持管理もしないとだし、まずは山道造りからさせないとかな」
「は、はい……」
場所はグリンリバーから見た1つ目のトンネル。
俺とカナちゃんとトーマで掘ったところの、その真上だ。
ここに風力発電器とバッテリーを設置し、川からトンネル内部に続く電力線に繋ぐ。
風力発電器を採用するのは、1つの動力に依存しないようにするためだ。
仮に川で災害が起きれば電力網が麻痺する。
そういった事態は必ず起きる。
もしそれが冬だったら、第2区画の電気式暖房が止まってしまうことになる。
「アリク様は、いつも、うちのてを、ひいてくれます……」
「僕、人の手を引くのが好きなんだ」
「ふふ……トーマ様や、リアンヌ様……みなさんのて、よくよくひいてます……」
「カナちゃんの手が1番スベスベかも」
「うちがいちばん、わかいですから……」
カナちゃんと手を繋いで斜面を登るのは、一体感があって楽しかった。
さらに進むとようやく斜面は終わり、発電器の設置に適した山頂部にたどり着いた。
辺りはゆるく傾いた林だ。
この林を伐採し、あのちょっと尖った頂上部分を削れば、いい風の吹く場所になる。
となると、当初の予定より工期がかかることになるだろう。
これから冬に入ることになると考えると、急がないと。
やはり現場を訪れないと物事は見えてこない。
視察にきてよかった。
「うち、こんなところにまで、これたんですね……」
「そうだね。帰りが心配ならおぶってあげるよ」
「ふふ、だいじょうぶです。みえないけど、みえてますから……」
「そうだったね。……あ、こっちの方は見晴らしがいいな。グリンリバーが一望できる」
「わぁ……っ」
またアリク王子に情景を語ってもらえると思ったのか、カナちゃんは子供っぽく興奮の声を上げた。
俺はカナちゃんの望み通り、この場所から見える情景をカナちゃんに語った。
彼女は言葉の一語一句に耳を澄ませて、笑ったり感心したり、とても楽しんでくれた。
「……それと、だいぶ遠いけど王都とお城も見えるよ。川を越えた森林の彼方に、広い耕作地が広がっている。そしてその奥に、灰色の防壁に囲まれた都がある」
「とても、とおそうです……」
「うん。でも大橋のおかげで、そこまで遠くはなくなった。ああ、そうだ、ここに展望台を作るのもいいな……」
都が見えるなら、有事の軍事的価値もある。
そっちは兄上の専門だけど。
「てんぼうだい、とは、なんですか……?」
「ハイキングやデートの目的地。気持ちよく彼方を眺めるための場所だよ。まあちょっと、発電器がうるさいかもしれないけど」
「デ、デート……ということ、ですか……?」
「え、そこ気にするんだ?」
「いけません……。リアンヌ様を、さしおいて、そんなの……っ」
「勝手に記憶喪失になったのはあっちだよ。急に慎ましいお嬢様になっちゃって……調子狂うよ……」
リアンヌのことを思い出したら、急に寂しくなった。
「はい……うちもです……。ぁ……っ?!」
そこで寂しさをまぎらわすために、隣のカナちゃんにしがみついた。
しかしそのはずが、俺は草地に彼女を押し倒していた。
彼女は少しも抵抗しない。
彼女にとって俺は恩人であり主人だ。
拒めるものではなかった。
「ごめん、そんなつもりではなくて……」
「しってます……」
「ごめんね……。なんだか、急に寂しくなってしまって……」
「いっしょに、リアンヌ様を元に、もどしましょう……。このつづきは、そのあとで、いいですか……?」
「だ、だからっ、変なことするつもりはなかったんだってばーっ!?」
「うち……うちは、なにされても、いいですよ……」
……危なかった。
俺がもう2,3歳加齢していたら、カナちゃんの言葉がグサッと刺さって、もう辛抱たまらなかっただろう。
俺はカナちゃんを助け起こして、もう1度彼方の情景について語った。
「あの……ほんとうに、アリク様になら、なにをされてもいいです……」
「に、2度も言わなくてもわかるよっ?!」
「ふ……ふふ……。すこしほんきの、じょうだんです……」
「それは冗談ではない、ってことじゃ……」
「はい……」
いかん。このままではスケベ王子の道へ一直線だ。
俺はいずれ迫り来る二次性徴、煩悩の波には決して負けない。
そう強く胸に刻んだ。
どこまで自分自身が信用できるか、わかったものじゃなかったけど。
人間の精神は肉体に引っ張られる。
思春期を迎えたそのとき、自分がどうなるかなんてわからなかった。
ストックがありません。
明日更新遅くなります。




