・転生したらアキレウスだった
リアンヌとその仲間たちは、アイギュストス領・魔物の森での冒険を終えた。
蹂躙の限りを尽くした一行は、以下の成果を手に入れた。
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【成長】
・アリク・カナン
レベル7 → 9
・トーマ
レベル10 → 11
【獲得スキル】
・物理耐性◎ x2
・自己再生・大 x2
・筋力強化・小 x2
・MP+50 x3
・毒反射 x3
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スキルの入れ替えは森を出てからになった。
「早く早くっ、動物特効と早く入れ替えてよっ!」
「リアンヌ、さっきから顔に唾が飛んでるってば……」
8歳の少年にとって、10歳のお姉さんは刺激的な存在だ。
いい匂いがするリアンヌに目の前に迫られて、少年はたまらず一歩引き下がるしかなかった。
「あれ……?」
けれども俺は、リアンヌのスキル画面に見慣れない表記が追加されていることに気付いた。
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【女傑】
【物理耐性◎】100/100Exp
【動物特効】47/100Exp
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「どーしたの? ……わっ、なんか経験値がいっぱい入ってる! しかもなんかカンスト!?」
「リアンヌ……君、どんだけ敵とプロレスしたのさ……」
ゲームとかだと、スキルは使えば使うほどに成長する。
そのお約束がこの世界でも当てはまるなら、それだけリアンヌが森の魔物にどつかれてきたってこと、だよね……?
「あっ、スキル合成って出たよ!?」
気になってスキルに触ってみると、【外す】の下に【合成】の項目が追加されていた。
何も考えずに押してみると、俺の所有スキルが合成候補としてズラッと表示された。
「フォォォォォーッッ、私の時代キターーーッッ!!」
「この合成を使えば、スキル枠3の上限を超えて成長出来る、ってことだといいね……?」
「だとすれば、これはリアンヌ様の努力のたまものですね」
「うんっ、たまんもったもんもっ! 毒反射スキルと合成してみてよっ!」
それ何語?
なんてツッコミ入れたらますます舞い上がりそうだし、テキパキと簡単操作でスキルを合成させてみた。
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【物理耐性◎】 + 【毒反射】
→ 【物理&毒無効】Get!
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あ、試行一回でもうわかった……。
この力、想像の上をゆくバランスブレーカーだ……。
「物理無効だってっ、アリクッ! やっばっ、転生したらアキレウスだった! みたいな!?」
「毒と物理攻撃の効かない身体……ちょっとした不死身の超人ですね」
ゲームで言うと、これって序盤で物理攻撃が効かない超キャラが加入した感じになるんだろうか……。
こんなのラスボスまでスタメン確定のぶっ壊れキャラだ……。
「じゃあ、動物特効はこのまま――」
「それはアリクに返す! なんか一発過ぎて面白くないし、もっと色々狩れるスキルのがいい!」
そう言うので、リアンヌのスキル構成はこうなった。
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【女傑】
【物理&毒無効】0/400Exp
【自己再生・大】0/100Exp
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うん、不死身かな……?
ちなみにトーマの方にも経験値表記が追加されていた。
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【ロイヤルガード】
【物理耐性◎】13/100Exp
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それはトーマの7.7倍もリアンヌが敵にどつかれていたという動かぬ証拠でもあった……。
「これが100になれば、自分もスキルを合成してもらえるのですね! 訓練に熱が入るというものです!」
続けて自分のスキルも確認した。
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【強靱】
【幸運】
【鷹の目】
【瞬間記憶】
【スキルマスター】
【物理耐性◎】x4
【自己再生・大】x1
【筋力強化・小】x2
【MP+50】x3
【毒反射】x2
【動物特効】47/100Exp
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え、おかしい……。
あれだけリアンヌに毎日鍛えられたのに、経験値が1ポイントも増えていない……。
「これって、アリクはスキルを入れ替えたり合成したり出来るけど、自分では成長させられない、ってこと?」
「あ、そうなるのかな……」
「ますますゲームみたいだね! 誰かにスキルを貸して、育てさせるのがアリクの仕様なんだよ!」
「人の努力の結晶を横取りなんてしないよ」
「ゲームっぽい感じだし、そこはドライに行こっ!」
「といってもゲームなんかじゃないでしょ、この世界……」
ともあれこれで毒の効かない身体という、目的の1つが達成された。
後は塩田が完成するまで、大人に混じって奮闘するだけだった。
「お腹空いちゃった……帰ろ、アリク!」
「替え玉を押し付けられた2人も、そろそろ精神的な限界に達するでしょう」
「自分のところのお姫様が、まさか不死身の肉体になって戻ってくるとは、想像もしてないだろうけどね……」
大公様にこのことを報告したら、安堵しながらも頭を抱えるんだろうな……。
新スキル【物理&毒無効】は、冒険者リアンヌを飛躍させる頭痛の種でもあった。
・
大公様のお屋敷に滞在してより、かれこれ約半月が経った。
初日から3日目までは、予定地で暮らす11世帯の漁民の立ち退きを待ちながら、建材や人員の調達に手を回すことになった。
4日目から基礎工事が始まり、想定はされていたが土台作りが難航することになった。
理想は土や岩盤の用地だったけれど、海水を水門で引き込むとなると海岸からはあまり離れられない。
そうなっては結局、海砂の上に水門と塩のプールを作るしかなかった。
そこでまず用地を浅く掘り下げ、地中に杭を打って、その上に石のプールを築く計画になった。
完成予定日までの人件費と建材だけで、予算の7割が消し飛ぶことがわかった。
残り3割で他の経費をまかない、塩田を完成させなければならない。
俺は予算を管理する立場にある父上や官僚たちの苦労を知った。
母上からは少し休みに戻って来るようにと、王都からの手紙が3通も届いていた。
だけど俺は、せめて開発を急がせているプロトタイプだけでも完成させてから報告に戻りたかった。
実は予定地の外れに、実験用の小さな塩田を作っていた。
そして合計半月が過ぎ去った現在。時刻は昼過ぎ。
大人たちに混じって、俺は小さな塩田の最終調整を行っていた。
安価な玄武岩を使った石のプールと、それに繋がる水門が完成して、設備に問題はないか自分の目で点検をしていた。
そこにリアンヌが飛んで来た。
「アリクッ、大変大変!」
「あれ、今日はクエストじゃないんだね。……あれ?」
見覚えのある黒い王家の馬車が来ていた。
近衛兵のおじさんたちが馬車室の扉を開くと、そこから城にいるはずの母上が降りて来た。
「母上……」
母上は見るだけでわかるくらいに不機嫌だった。
ツカツカと早足で迫って来て、やさしい母上なりに我が子を睨んだ。
「潮風で髪が少し痛んでるわ。今日は一緒にお風呂に入りましょう」
「いっっ、いいよそんなのっっ?!」
「ダメよ! それに一度戻りなさいって、3度も手紙で言ったでしょ! ロドリックも報告に戻れと言っているわ!」
「ご、ごめん、母上……」
現場の大将さんや工員のみんなに笑われてしまった。
みんな俺のことを尊敬の目で見てくれていたけど、母親の前ではただの子供だった。
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