・婚約者リアンヌもう一度森へ 動物即殺
塩田開発が落ち着いてから。
そう伝えておいたはずなのに、ある日突然、リアンヌに屋敷の外へと引っ張り出された。
脱走のことになると途端に用意周到になる彼女は、俺たちの替え玉を用意して、彼らを屋敷の私室に引きこもらせた。
「さすがはリアンヌ様。驚くべき脱走スキルです」
「でしょっ!」
「はい。リアンヌ様の侍女さんには、同業としてただただ同情しかありません。さぞや生きた心地がしないでしょう……」
トーマは俺の剣であり盾だ。
脱走をとがめることなく、護衛として付いて来てくれた。
俺たちは今、あの日一緒にモンスターを狩ったあの森にやって来ていた。
リアンヌが先頭で、俺が真ん中で弓を持ち、トーマが後ろを固めてくれている。
「さあ、みんなで狩りまくるぞーっ!」
「リアンヌ、せめて静かに行動しようよ」
「なんで?」
「騒がしいとリアンヌだとバレバレでしょ」
「あ、そっか。って、私だって静かに出来るってばーっっ!!」
「言うそばから出来てないじゃん……」
「う……っ。だってこういうの久しぶりだからつい……」
楽しみにしていたのは俺も同じだよ。
そう伝えたら、リアンヌがますます元気になってしまうに決まっている。
「自分はそのままでいいと思います。リアンヌ様がいると、アリク様が笑顔になりますから」
「リアンヌのバイタリティに引っ張られて、どうしてもね……」
騒がしく言い合いながらぐんぐんと森を歩いてゆくと、その先で以前見たスライムを見つけた。
弓を構えて射撃してみると、30mほど離れていたのにあっさり命中した。
続けてもう2発連射すると、俺は一方的にスライムをやっつけていた。
リアンヌよりは控えめだけれど、俺は確かに強くなっている。
「【物理耐性◎】かぁ……これはもういらない」
「母上にあげることにするよ」
「そうそう、アリクの力ってさ! スキルスロットを持ってる人を集めれば、最強軍団が作れちゃうね!」
「そうだね。でもそういう才能を持った人って、今のところリアンヌと母上とトーマだけだよ」
トーマは会話にあまり口をはさまなかった。
チラッと後ろをうかがうと、お喋りをする俺たちを見て1人でニヤニヤとしていた……。
そうだった。
トーマは小さい子を観察するのが大好きな、怪しいお姉さんだった。
『護衛の仕事大丈夫?』って忠告してみたくなるほどに、いたくご満悦な笑顔だった。
「あっ、食人植物!」
「な、なにそれっ、う、うわぁっっ?!」
森の奥に、裸の女の子に似た植物がうごめいていた。
けれどその女の子の後ろには茎が繋がっていて、その奥には消化液をたらす食人植物が隠れている。
「アリクは援護お願い!」
「えっっ、ちょぉーっっ?!」
「リアンヌ様ッッ!?」
高さだけでも人間の大人の1.5倍はあった。
捕まったら明らかに危険なツルが無数にうごめいていた。
なのにリアンヌは、そいつに突っ込んだ!
一心不乱に俺は弓で援護して、トーマが俺を狙うツタを斬り払った。
「ナイス、アリクッ! ちねーっっ、ギリギリR-18指定モンスターめッ!!」
リアンヌは敵が吐き出した消化液をかわすと、ツタを斬り裂き、食人植物の根本に滑り込んだ。
リアンヌの剣がひらめいて間もなくすると、植物は伐採された樹木のように前のめりに倒れて動かなくなった。
「こいつっ、どんなスキル持ってるんだろっ! 早く早くっ、ほら早く抜き取ってっ!」
「つ、つよ……」
「だてにレベル29を豪語していませんね……。ああ、なんと美しいお姿でしょう……」
スキルを抜き取ると、リアンヌが隣に飛び込んで来た。
モンスター・食人植物が持っていたスキルは、植物系にありがちな【自己再生・大】だった。
「強スキルきたーっ!! これがあれば、自己再生能力マシマシのイベントボスみたいになれるんだよねっ!?」
「でもリアンヌのスキルスロットって、もういっぱいだよ?」
「うーん……これはアリクに貸しとく! 次いこ、次!」
「進むの……? こんなのが出たのに……?」
「アリク様のご意見に賛成です。少し、危険ではないでしょうか……? 兵員の増員を……」
「え、全然? こんなの森のボス以下だよ」
リアンヌは10歳でレベル29になるような、パワーレベリングガチ勢だ……。
お姫様は力こぶを作って笑うと、くるんと回って大股で進み出した。
「まだ帰れないらしいですね……」
「タフ過ぎるよ……。なんだか同じ人類とは、思えなくなってきた……」
俺たちはリアンヌの背中を追った。
元JKはすっかりこの異世界に順応し切っていた。
直射日光が届かない深い森をさらにひた進んだ。
すると次に現れたのはツチノコに似た変なモンスターだった。
問題はその大きさで、その蛇は牛のように太い胴体をしていた。
子供なんて、一飲みだ……。
「アリク様ッ、自分の後ろに」
「リアンヌッ、さすがにそいつは……っ」
「動物特効キーーックッッ!!」
ヤバい!! と思った。
だけどリアンヌがまた飛び込んで、俊敏なツチノコの牙をひらりとかわすと、キック一発で木の幹に吹っ飛ばした。
巨大な蛇が、キック一撃だけで動かなくなっていた……。
「ふっふっふっふっ、自分がどんな超スキルを人にゆずってしまったか、気付いたようですね、アリク……?」
「いや、これ、特効ってレベルじゃないでしょ……。動物即殺スキル、でしょ……」
「それよりスキルッスキルッ、なんのスキル出るかなぁっ!」
これだけの大物だから期待も大きかった。
俺はツチノコに似た巨大な蛇から、スキルを抜き取った。
「あ……っ!」
そいつから手に入れたスキルは【毒反射】だった。
無効化するどころか、敵に反射までしてしまうなんか超えげつなさそうなスキルを、俺たちはゲットしていた。
「使えるね、これ。反射するってことは、毒を盛った犯人も特定出来るってことだ」
「やったね、アリクッ! このツチノコいっぱいやっつければ、私たちついに解放されるよっ、つまんない隔離生活から!」
俺たちは幸運だった。
欲しかったスキルが、チャレンジ初日に手に入ってしまったものだから。
「うん! これはリアンヌと俺、母上の分の3つ手に入れたい! 手伝ってくれるよね!」
「もちろん、さあ行くよ、アリク!」
俺たちは目の色を変えて、魔物の森に潜むツチノコの姿を探し回った。
毒反射。これがあればもう何も怖くない。
俺たちの自由は目前だった。
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