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・悪人たちの末路 消えた跡取り

・ギムレット


 信じられねぇ……。

 悪い夢でも見ているかのようだ……。


 息子のリーガンが、失踪した……。

 もうかれこれ、アイツは1週間も家に帰って来ていなかった……。


「リーガンは……?」


 ギルド本部から家に戻ると、サーシャが景気の悪い顔で俺にそう聞いた。


「戻って来てねぇよ」

「もう7日よ!? なんの連絡もよこさないなんて、おかしいじゃない……。私たち、リーガンに見捨てられたの……?」


 消える前、リーガンは命を狙われていると俺に言った。

 怪しい男に見張られているとか、どうも言っていることが普通じゃなかった。


「なんで何も言わないのよっ!」


 少しは察しろ、この馬鹿嫁め……。

 サザンクロスギルドの跡継ぎの地位を捨ててまで、リーガンが姿を消す理由なんてねぇ……。


 確かに今はルキの天秤にやられているが、事業を整理すれば裕福にやっていける……。


 俺の息子は誰かに消されたに違いねぇ……。

 いやリーガンだけじゃねぇ。


 ちょっと前から、知り合いがちょこちょこと姿を消している……。

 全て、あの侯爵繋がりの人間だ……。


「明日、会合がある……。確かめるからよ、それまで待ちやがれ……」

「会合? なんの会合?」


「ハ、ハハハ……悪魔の、会合だよ……」


 なんで俺じゃなくて、息子なんだ……?

 なんで俺の息子が、俺より先に消されなきゃならねぇんだ……?


 あんまりだ……。


 寄生虫のようにサザンクロスギルドから富を吸い上げておいて、立場が悪くなったら消すなんて、そんな横暴がなぜ許されるんだよ……?


「リーガン、帰ってくるのよね……?」

「うるせぇ、さっさと寝ろ、クソアマ」


 死んだアリクの野郎が俺たちを笑っている……。

 最近の俺は頭は、そんな病的な妄想ばかりが渦巻いていた……。



 ・



 その翌日、俺は会合に出席した。

 さる侯爵様に、息子リーガンの失踪を伝え、行方を知らないかと探りを入れた。


「あらそう」


 軽く流された……。

 だが俺だってもう引き下がれねぇ……食らい付いた!


「アイツ、もう1週間も戻ってないんですよ……。何か知らねぇですかい、侯爵様……?」


「ロドリック王に消されたんじゃないかしら?」

「くっ……なんで俺じゃなくて息子なんだよっ!?」


「さあ? ついてなかったわねぇ、ギムレットちゃん」

「て、てめぇ……」


 てめぇが、殺したんだろ……?

 あの日、俺がくたばって会合に出席出来なかった日に、アリク王子の暗殺を決めたんだろ……?


 だが暗殺に失敗して、不安になったお前はリーガンたち末端を口封じに殺した……。

 そうなんだろ……?


「そんな目で見ないで、ギムレットちゃん。殺してないわよー、まだ(・・)

「まだ生きてるってことか!? 息子はどこにいるっ!?」


「やーねぇ、疑うならロドリック王の方にしなさいよ。きっとリーガンは、どこかの牢屋で拘束されているのよ」

「た、頼む、アイツには手を出さないでくれっ!! あれは、うちのギルドの跡継ぎなんだよっ!!」


「うふふふっ、ギルドの稼ぎを倍にしたら考えてあげる……」


 ソイツは悪魔だった……。

 俺は悪魔と取引をしていたことに、今さら気付くことになっていた……。




 ・



・アリク8歳ちょっと過ぎ


 父上の書簡を手に、近衛兵を引き連れてアイギュストス領を訪れた。

 大公様への謁見はすぐに叶った。


「ほほぅ、なるほど……塩、ですか」

「うん、生産効率を上げれば、ぼったくりの岩塩より安く作れるはずだよ」


「日光で海水を自然蒸発させて……濃度を上げ、塩分濃度の低い上澄みを入れ替える……。ほぉ、これは面白いことを思い付く……」

「先人の知恵を借りるだけだけど、試してみる価値はあると思うんだ」


 書簡を読むなり、大公様はすぐに乗り気になった。

 開発費は王家が受け持ち、利益を分け合う。


 契約のために今回はジェイナスが同伴していた。

 王子の護衛をトーマと近衛兵に任せて、交渉と契約の締結役を受け持ってくれた。


 俺とトーマとリアンヌはすぐに屋敷を離れ、近衛兵の護衛を受けながら海辺へと馬車で運んでもらった。


 華やかな港町を横目に、寂れた漁村の方に進んだ。


「いいなぁ……私も高校生じゃなかったら、知識チートとかしまくったのに!」

「テレビで見ただけだよ。上手くいくといいんだけど……」


「アリクなら絶対上手くいく! だって普段からあんなに熱心に勉強してるんだもん!」

「ありがとう、俺なりにがんばってみるよ」


 海沿いの小さな丘までやってくると、俺は候補地を探して辺りをよく観察した。

 【鷹の目】スキルを使えば、候補地探しはそこまで難しくなかった。


 地元の人間をつかまえて、今は干潮か満潮か確かめると、だいたいの候補地が決まった。


 満潮時にだけ海水が流れ込む場所がいい。

 けれどあまりに海に近いと、施設ごと水没してしまうので難しい。


 たぶん日や季節によっても、満潮の高さは変わるだろう。


「どう、決まった?」

「うん、だいたいは」


「どうするの?」

「あの辺りに浅めのプールを作る。そこに海水が流れ込むように水門も作って、必要な時だけ海水を流し込めるようにする」


「おおーっ、指さして言われると、ますますいけそうな気がしてきた!」

「後は大きな塩釜と薪の準備もしたいね。塩を保管しておく倉庫とか、施設と道路の位置も考えないと……」


 一通りの段取りが決まると、俺たちは馬車を反転させてリアンヌの屋敷に戻った。


 調査報告はリアンヌが代わりにアイギュストス大公様に熱く語ってくれたので、説明の手間が省けた。


「ほぅほぅ、もう候補地が決まったかね!」

「えっとね、メガネ岩がある辺り!」


「ああ、あの辺りの土地ならばいくらでも使ってかまわないよ! ほっほっほっ、まったく君は賢い子だ……!」

「うんうんっ、そうだよねっそうだよねっ! アリクって意外と頭いい!」


「アリク王子、労働力の確保は私たちに任せてくれ。我が領地で最も土木建築に精通する大将を付けよう。これはきっと上手くいく」

「やってみなければわかりません。みんなのお金を台無しにしないよう、僕もがんばります」


 こうして俺は予定通り、アイギュストス領にしばらく滞在することになった。


 8歳の若さで塩田作りを指揮しながら、もう一つの計画も進める。

 近衛兵を上手くごまかして、リアンヌとトーマとだけで森に行く予定だ。


 モンスターから毒を無効化するなんらかのスキルを強奪すれば、一石二鳥で念願の自由が手に入る。


 塩田開発が落ち着いてからの先の話だけど、またあの森に行く日が今からもう楽しみだった。


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