・情なき世界の撲滅作戦 2/2
予定外があった。
タリム国の連中は情報を敵に漏らしていたようだ。
俺たちが領主の屋敷まで差し迫ると、敵は籠城の準備を整えて待ちかまえていた。
矢の一斉射撃が前列を襲い、5名が軽症を負った。
さらには農民どもがボロボロの農具を持って、我が軍の左右を囲んだ。
酷い戦いだ。
やつらは必死だった。
今の商売を失えば、彼らに残るのはまともに作物も育たない貧しい土地だけだ。
戦死するか、飢え死にするか、奴隷として屈辱を抱えて生きるか。
やつらにはそれしかなかったんだから、こうなるのもしょうがねぇ……。
「ギルベルド殿下直属を舐めるなっ、下民どもがっっ!!」
情報漏洩と農民の反撃に、大尉殿はえらくお怒りだった。
農民たちもまた、畑を焼かせまいと怒りをむき出しにしていた。
このままでは予定を上回る被害が発生するだろう。
そう判断すると俺は、指揮権を大尉殿に譲った。
「悪くはないかと。八草殿、農民を盾にして出てこない外道どもを頼みます」
「おう。胸くそ悪い仕事押し付けて悪ぃな」
「正義のためです」
「正義な……」
俺にはアリク殿下からいただいた【物理耐性○】とかいうぶっこわれスキルがある。
この保険を頼りに俺は中央突破をはかり、矢の嵐をかいくぐって、屋敷の正門を飛び越えた。
「な、なんだこいつっ、矢が当たらねぇ!」
「テメェッ、レミントンファミリーの縄張りに踏み込んで、無事にす――」
突入を阻む者は全て斬り捨てた。
アリク殿下と鍛冶師アグニアが生み出したアオハガネの刀で、屋敷の玄関口を鍵ごとぶった斬った。
ワラワラと出てくる外道どもを斬った。
屋敷にいた女たちが悲鳴を上げ、命知らずなヤクザ者たちが怒号を上げた。
「叔父貴ぃっ、あの剣士やべぇ!! こんなとこにいねぇで、早く逃げようぜっ?!」
「逃げる? どこへだ、ピーター」
「こ、国外だっ! ちくしょうっ、ホルヘの野郎っ、俺たちを売りやがってっっ!」
俺はヤクザ者に包囲されている。
それを遠巻きに、クマのように髭を生やした恰幅の良い男が観察している。
仲間が次々と斬られてもその男は震えない。
謎の剣士に仲間が次々と斬られていっても、甥に逃走を急かされても、そいつは微動だにしなかった。
「ピーター、逃げたいのならお前だけ逃げろ」
「お、叔父貴っ!? だ、だけどよっ、叔父貴っ!?」
「撃退すれば国との交渉の余地があると思ったが、こりゃ敵わねぇな……」
そいつがターゲットのミック・レミントン男爵だった。
俺は突破口を開くと、ヤツの背後に回り込み、首に刃を押し付けた。
ま、ヤクザどもはお構いなしで突っ込んできて、領主ごと俺を殺そうとしてきたんだけどな。
「おい剣士、名を聞かせてくれよ?」
「八草だ」
「八草、こいつらは自分の命が惜しいだけなんだ。俺たちは投降するから命だけは助けてくれと、外の指揮官様と交渉をさせちゃくれねぇか?」
「悪ぃな、俺っちがその指揮官だ」
「それなら話が早ぇ、降伏する……。だから頼む、民を許してやってくれ……」
「こちらとしては聞きたいことが山ほどある、降伏は歓迎するよ」
「取引は……? 取引はできないのか? 民は食い繋ぐために関わっていただけだ。頼む、わかってくれ……」
わかるわけにはいかねぇ。
ここで厳しく裁かなければ、同じことが繰り返される。
もしここの技術がどこかに流出すれば、その被害は計り知れない。
「アンタらは悪魔の技術を見つけちまったんだ。無条件降伏、こいつ以外は飲めねぇよ」
こいつらの生み出した毒は、ターニャちゃんを蝕みかけた。
カナが気付かなかったら、カナも同じように中毒になっていた。
今さら命乞いなんて飲めるわけねぇ。
こいつらは許されないことをしてきたんだ。
「ホルヘの野郎だっ! アイツが現れなきゃ、こんなことにはならなかった!」
「おい止めろ、ピーターッ!!」
「聞いてくれ、指揮官の兄貴! 俺たちが強烈な薬を作れるようになったのは、ホルヘ・カルヴァーリョって野郎が作り方を教えてくえたからなんだよっ!!」
「へぇ……そりゃ興味深い話だ」
「そいつ、雑巾みたいにボロボロの、枝毛まみれの赤毛の男でよ!」
「ピーターッ、黙れ!」
「だがそいつはもうここにはいないぜ! 俺たちをお前らに売って逃げたんだからよっ!」
そりゃ不思議な話もあるもんだ。
そしてその話が本当なら、こいつはまずいな……。
技術の提供者。
最も逃がしちゃいけねぇやつに、俺たちは逃げられた形になる。
そうなると、状況が変わってこねぇか?
「……わかった、テメェらと取り引きしよう」
「本当かっ!?」
「罪の軽い者は許すように俺から持ちかけよう。その代わりにアンタたちは、そのホルヘとかいう男の情報を寄越せ。そいつは逃がすわけにはいかねぇやつだ……」
ギルベルド殿下は非情な方だ。
己の意にそわなければ、たとえ相手が俺でも厳しく罪に問うだろう。
あれは王者になるべくして育てられた人間だ。
王者や領主は非情でなければならないという哲学が、カナン王国にはある。
だがそのホルヘという男が本当に元凶なら、ここにいる連中を皆殺しにしても意味がない。
麻薬に関わった連中を全て投獄しても、そのホルヘが別の土地で悪魔の知恵を民に授けてしまう。
なんて迷惑な存在だ!
「恩に着るよ、八草殿」
「おう、存分に着てくれや。こっちは処刑台送りになってもおかしくねぇ危ねぇ橋を渡るんだ、そうしてくれねぇと困るぜ」
ホルヘ・カルヴァーリョ。
どっかで馬にでも蹴られて、のたれ死んでくれてるとありがてぇんだが、そうもいかねぇよなぁ……。
俺はギルベルド殿下が描いた脚本とは異なる結末で、この戦いに終止符を打った。




