・グリンリバーに大橋が架かる日 - 今日は独立記念日 -
「煩雑なのだ……」
「煩雑、ですか……?」
「今日まで言わなかったが……。そなたの予算請求で、我は妻との時間を、食いつぶされているのだ……」
「なんだかそうらしいの……。アリクがお金ばかり欲しがるから、時間が作れないんですって」
なんかその言い方は微妙に引っかかる!
「そこで、我とジェイナスは、効率化を進めることにした」
「補佐である私としてもグリンリバーの利益は惜しいのですが、やはり、何かと煩雑ですので……」
「うむ、そこで我はそなたを独立させることにした。聞けばリアンヌ公女との関係も進展しているそうではないか」
「えっ、なっっ、んなぁぁ……っっ?!!」
俺は俺のジェイナス、つまりはトーマのやつを睨んだ!
後ろめたいことがあるのか、トーマは俺から視線をすぐにそらした!
「父上たちには言わないでってっ、言ったじゃないか……っっ!」
リアンヌに申し訳ない。
すぐ隣にいる彼女に合わせる顔がなかった。
「まあうん、進展しているかって言ったら、すっごくいい感じっ!!」
「なっ、リアンヌまで何を言っているんだよぉーっっ?!」
「だってホントのことじゃん! えへへー」
な、何も考えていなさ過ぎる……。
「アリクよ、本日よりそなたはグリンリバーの正式なる領主だ。今のそなたならば、融資に困ることもあるまい。とにかく煩雑であるので、この地はそなたに任せる」
いくら文官不足にあえいでいるからって、普通第二王子にこんな一等地を与えるだろうか。
父上とジェイナスの目指す中央集権にも反する。
ただ税収が俺の懐に入れば、父上に予算請求をせずに済む。
どうしても足りないときは国に融資をお願いするとして、確かに俺の方も予算確保が煩雑ではなくなる。
独立した方がスマートだ。
「我なりに先を見据えてのことだ。断じて、リドリーとの時間を確保するために、そなたに面倒ごとを押し付けているわけではないぞ……?」
「本当に?」
「…………アリクよ、こうする他にないのだ。このままでは我とジェイナスは、いずれ過労死する宿命であろう」
「私も陛下とも、1日平均3時間ばかししか眠っておりません。私はそれでかまいませんが、陛下の崩御は困ります」
「お前はお前の家臣団を作り、上手くやるように。我が子、グリンリバー公アリクよ、任せたぞ」
この地が欲しいかとどうかと聞かれれば、欲しいに決まっている。
急速な発展と独立により仕事が増えるとわかっていても、ここの正式な領主になりたい。
だってここは俺が発展させた土地だ。
母上のお腹の中の兄弟に、輝かしい発展をしたグリンリバーを見せるのが、俺と兄上の夢だ。
「グリンリバー領主の重責、謹んでお受けします。それが少しでも父上の助けになるならば、喜んで」
生まれてきた弟に父上との時間をあげたい。
このままだと父上はもう5年間、あの政務室に縛り付けられることになる。
それでは弟が可哀相だ。
そう、弟だ。絶対に弟だ。弟が生まれると俺は思う。
「アリク・カナンよ、そなたをグリンリバー公に封じる。以後、領主として王家を支えるように」
拍手喝采が沸き起こり、これにより式典が閉幕した。
父上の命により大橋の通行が許可され、有力諸公たちが橋の上へと己の馬車を進ませた。
それを見て、建設労働者たちが声をあげる。
ついに自分たちが携わった橋が完成して、華やかな馬車がアーチ橋の上を大きな馬車進んでゆく姿は感動的だった。
この時代の技術ではとても築けない、あまりに遠い対岸へとこのアーチ橋は続いている。
貴族たちの番が終わると、橋は平民へと解放された。
1度に200名にも及ぶ人々が橋の上を進もうとも、アーチ橋、クイーン・リドリー大橋は揺れもしない。
鉄の骨組みと、クリーム色の石畳を持つその橋は巨大だ。
それでいて堅牢で、息を呑むほどに立派で、機能美に満ちている。
対岸で待機していた旅人が橋を渡ってこちらにやってくる光景もいい。
利用価値のある素晴らしい道に、人が行き来するのをただ眺めるだけで、俺は幸せだった。
「アリクよ、そなたの屋敷に父と母を案内してくれ」
「いいけど……せまいよ?」
「だとしても、あの宮廷よりはいいだろう」
「それは同感。あそこにずっといると、気がおかしくなっちゃうよ」
「うむ。ここならば日帰りで帰れる」
「そんな時間はございませんがね、今のところ」
「言うな、ジェイナス……」
俺たちは橋を築いた。
その橋は多くの観光客を呼び込み、活発に利用されている。
入ってくる人の方が多いのが、少し気になったけれど。
いや、きてくれるのは嬉しいけど、止まる宿も満足な食事もここにはないよ……?
できれば日帰りで帰ってくれると、こちらは嬉しいのだけど……。




