・グリンリバーに大橋が架かる日 - その橋の名は -
暫定名称グリンリバー大橋だった建造物は、その命名権を持つ父上によって『クイーン・リドリー・ブリッジ』と名付けられた。
前皇后の気持ちを逆撫ですると、ジェイナスは反対したそうだけど、父上がわがままを通した形となる。
これで元奴隷のリドリーが歴史に名を残すことになったのだから、俺は面白い成り行きだと思った。
会場には多くの観光客が集まっていた。
ここは空き地が多いので、ひしめいているというほどではないけれど、それは今日まで見たことがないほどの人混みだった。
近衛兵さんや、諸侯の兵士たちが半円の陣形で守ってくれているものの、もし暴動を起こされたらひとたまりもない。
その数はもう数えられるものじゃない。
子供も、大人も、ご年配も。
王都の民は観光気分でこの催しを楽しんでいた。
「おお、リドリー様だ! 国王陛下もいらっしゃるぞ!」
「橋に自分の嫁さんの名前を付けるとか、以外に可愛げあるのねぇ、あの王様……っ!」
「ま、よっぽど惚れてねぇと無理よなぁ!」
息子の俺が待つ対岸へ、王家の馬車が軽やかなベアリング式の車輪を鳴らして近付いている。
それが間近にやってくると、母上たちが窓から顔を出して手を降った。
たったそれだけで会場が大歓声に包まれた。
これもまたジェイナスが描いた脚本なのだろうか。
いや、ジェイナスだって、この人数は予想もしていないだろう。
馬車はついに俺とリアンヌの前にやってきて、俺は前に出て父親を歓迎した。
「アリクよ」
「はい、父上」
「時を計らせたが、王都よりここまで、たった1時間23分58秒の旅路だった」
「早いですね」
「まるで夢でも見ているかのようだ」
「そうですか。僕もクイーン・リドリー大橋を使って、父上のいる王都に行くのが楽しみです」
「うむ、お前は正しかった。この橋により、王都とここグリンリバーは密接な繋がりを持つようになるだろう。ここで生産された品々が即座に都に運ばれ、我々の生活をより豊かにする。余暇をここで過ごす者も現れよう」
息子であるけれど俺は代官でもある。
父上にひれ伏して、領主である父上からのお褒めの言葉を受け取った。
ここグリンリバーは南方へのハブ駅になるだろう。
そうなれば王都との水運もここが中心になる。
「よくやった、アリク・カナンよ。そなたはグリンリバーを一大生産拠点に発展させるだけでは収まらず、ここを流通の要とした。その功績を評価して、我は――」
父上はそこで、いやに長い間を置いた。
俺たちの周囲は沢山の諸公たちが囲っていて、国王ロドリックの言葉を固唾を呑んでうかがっている。
いったい何がもらえるのだろうと、俺だって少し期待した。
これだけしたのだから、褒め言葉だけではないはずだ。
「この地を、お前の荘園とすることを認める」
へ……?
しょう、えん……?
「え……ええっっ!? ですけどっ、ここは鉄とアオハガネの産地、戦略物資供給の最重要拠点ですっ!!」
「無論、製鉄事業は渡せない、引き続き国営とする。だが、この地の税収の7割は、そなたの好きにするがよい」
「ふふっ、よかったわね、アリク」
え、でも、なぜ……?
莫大な富をもたらすはずのこの土地を、なぜ父上は俺に与えるというの……?
それは父上の追求する中央集権と、反対のことなのでは……?
「土地を与えられる理由に、納得がゆかぬか?」
「ゆきません! なぜ!?」
いくらなんでもこの報酬は大きすぎる。
ところが父上は、急に疲れた顔をして、俺ではなく母上に視線を送った。
「煩雑なのだ……」




