・電気文明の白く眩き光 - 招かれざる客、大杉 -
明日更新、遅くなりそうです。
またコロナ感染で先延ばしになってしまいましたが、今度こそ新作を始めます。
よろしければ読みにきて下さい。
アリク王子の動向は多くの諸公、各界の有力者、チャンスを狙う商人たちの興味の的だ。
そのアリク王子が、今度は夜の闇を消し去る魔法の道具を作り出したそうだ。
催しに招かれた者はたいそう喜び、招かれなかった者はせめて一目だけでも見ようと手を尽くした。
問題がなければ街灯は毎晩通す予定なので、無理をしてこの披露会に参加する必要は何もない。
催しに参加しなくとも後日いくらでも見れる。
父上たちはそう前置いていたそうだが、式典の参加希望者は予想を上回る数になった。
いつでも見れるとこっちは言っているのに、多くの諸公や有力者がここグリンリバーに集まってきた。
「だって記念になるじゃん! この世界に、電気の白い光が初めて灯る瞬間なんだよ? 絶対見たいじゃん!」
「そういうライブ感だけで動く人たちばかりなら、こっちももう少し楽だったんだけどね……」
「違うのー?」
「さあ、わからない。人の魂胆や欲望が渦となって、実体がまるで見えないのが僕には不気味だ」
王宮のあの黒く渦巻く雰囲気まで、俺はご招待してしまったようだ。
「でもさでもさ! そういう裏っかわの考えも、あれを見たら全部吹っ飛ぶっしょ!」
「うん、僕たちにとっては見慣れた現象でも、この世界の人たちからすれば、あの光はカルチャーショックになる」
その結果どうなるかは、あまり考えていない。
夜を駆逐する白い光を人が欲しがるようになり、その結果――まあ、きっとどうにかなるだろう。
王家の権威を重視する父上は、城門前広場に同じ物を作れと、ほぼ確実に言い出すかな……。
「じゃ、私おめかしするからまた後でね!」
「おめかし? スッピンでもリアンヌは綺麗でかわいいよ?」
「男だってカッコ付けたいでしょ」
「ああ、それは確かに……そうだね」
リアンヌが部屋を出て行くと、息抜きのゲームは途中で中断になった。
1人になると俺は窓辺から、チラリと外をうかがう。
式典までまだ2時間半はあろう時刻なのに、身分性別年齢問わずに多くの人々が集まり、屋敷の外の通りを埋め尽くしている。
千里眼スキルによるこの目によると、商人と貴族風の人たちが多かった。
今日きても泊まる宿はないと、そう広めたはずなのに……。
めざとい彼らは、今日何かが必ず起きると確信している。
あえて分類するなら、彼らは招かれざる客だった。
その一方で式典に招かれた名誉ある客人たちは、現在うちの屋敷を埋め尽くしていた。
侯爵のご友人だとか、そのご友人の親族だとか、その親族の再従兄弟だとか……。
本来の招待予定であった50名ばかしという条件を彼らは踏みつぶして、250名もの客人が現在この屋敷にひしめいている。
カナちゃんもターニャさんも母上も、てんてこまいだ。
部屋という部屋が貸し出され、俺の政務室も例外ではなかった。
忙しさのあまり、今日ばかりはトーマも俺の隣を離れている。
さらには農村部から女性たちを臨時雇用して、招待客と、招待してないはずだけど招待されたことになっている客人たちの応対に追われていた。
『お招きに預かり光栄にございます、殿下』
『オホホホ、わたくし子爵様の紹介で……』
『う、うん……。きちゃったものがしょうがないし、どうぞごゆっくり……』
招いた人。招いていない人。もう誰がどうだかわからない。
とにかく彼らは式典を、アリク王子の新発明品が披露されるその瞬間を心待ちにしていた。
屋敷の主である俺も、政務があるからと引っ込んでいるばかりではいられなかった。
権威を高めたい父上の腹もわかるけど、生活や日常が踏みにじられるのは苦痛なだけだ……。
慣れない接待の気疲れにため息を吐いていると、そこにノックが響き、入室を許可するとトーマが現れた。
「殿下、父が到着しました。それで会いたいともうしているのですが……断りましょうか……?」
「タイス子爵様? もちろん会うよ、すぐに通して」
次から次へと面会を望む有力者が現れた。
俺は私室へのタイス子爵の入室を許すと、行儀のいい王子様に戻った。
「トーマは役になっておりますか、殿下」
「うん、有能だよ。特に政務ではとてもお世話になっている。ジェイナスと重ねて見てしまうくらいに」
「おお、そうですか! 何せトーマは、当家自慢のむす――息子でございますからなっ!」
「父上……っ」
「トーマ、上手くやるようにな。アリク王子の小姓にお前を推薦してよかった。お前は才だけなら、兄たちをしのぐ逸材だからな」
「勝手なことを……」
タイス子爵は悪い人ではない。
ただ貴族としては平凡で、ぱっとしない普通のおじさんだ。
父親を前にしたトーマの姿が新鮮で、俺の知らない顔をするところも含めて眺めがいがあった。