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・電気文明の白く眩き光 - 男の宿命 -

 生まれ育った離宮に戻ると、俺はただの子供に戻った。

 やさしい母親リドリーと、素直な少年アリクに戻っていた。


「ロドリックったら酷いのよ……。あの人、寝るときだけしか戻ってこないの……」

「そう。でも、もうちょっとで余裕が出るそうだよ?」


「信じません。どうせまた新しい難題が現れて、帰ってこなくなるに決まってるわ!」

「ぼ、僕がいるよ……?」


「そういうアリクだって、手紙ばかりで帰ってこないじゃない、もうっ!」

「うん……そうだね、ごめん……」


 ちょっと荒ぶっているときもあったけど、母上は父上や俺に愛想を尽かしているわけじゃない。

 普通の家族らしいことをしたいだけだ。


 父上の肩を下手に持っても、母上がさらに不満をほとばしらせるのは見えていたので、俺はただ子供らしく甘えるに徹した。


「アリクはロドリックに似てきたわ……」

「僕は僕だよ」


「仕事仕事仕事、野望、夢、責務。男って、みんなそう……」

「ぅ……。ごめんなさい」


「いっそ、ロドリックを捨てて……アリクのいるグリンリバーに引っ越そうかしら……」

「それは父上がガチで泣くから止めようよ……? あ、それよりリアンヌのことなんだけど、母上に少しお願いがあるんだ」


「あら何かしら? リアンヌちゃんのことなら私に任せて!」

「実はあの子……」


 リアンヌの計画を母上に語った。

 もし余裕があれば、リアンヌをバックアップしてほしいと母上にお願いした。


「素敵、ロドリックの100倍まともよ! ぜひ手伝わせて!」

「お願い。リアンヌって出たとこ勝負をするところがあるから、バックアップが必要なんだ」


 母上とお茶をして、お喋りを楽しんで、いつかのように千里眼スキルを貸し合って城壁から城下を眺めた。

 母上は不満らしいけど、俺はあの頃より恵まれている。


 あの頃は城下町を見下ろすことしか許されなかった。

 都の防壁の先に広がる郊外、さらにその向こうにある世界に行くこともできなかった。


「アリクとリアンヌちゃんと、ロドリックで。ここかグリンリバーで、静かに暮らせたらいいのに……」

「僕もうそうしたいよ。でもリアンヌは我が道を生きる人だから、それは叶わない願いだと思うよ」


「ふふふ……まるでロドリックと私みたい。もうっ、ロドリックったら本当に困った人なのよ! 都合のいいときだけ帰ってきて、年下の私に甘えるんだから!」


 本当に間男にどうにかされてもわからない状態だと思った。

 そんな悪夢は嫌なので、父と母の絆である俺は甘えながらもグチを聞いた。


 そして時が流れて、夕方。

 そろそろ帰ると母上に告げると……。


「一緒に行くわ」

「え……!?」


「リアンヌちゃんとの打ち合わせもいるもの。先に現地入りしていると、寝室に手紙を残せばいいわ。さ、行きましょ」

「父上が泣くよ……?」


「仲良しのジェイナスに慰めてもらえばいいじゃない! あの人、一日中ずぅぅーっとジェイナスを隣に置いているのよっ、もうもうっ!」


 家族より仕事仲間との時間の方が多い。

 それはいつの時代でも変わらない男の宿命だろう。


「わかったよ、また一緒にグリンリバーにきて、母上。父上には僕から伝えてくるから……」


 激務を終えて愛する妻の元に返ったら、手紙だけ残して姿が消えていた。

 そんなの想像するだけでも恐ろしい。

 それはさすがに父上がかわいそうだった。



 ・



「伝えてくれて助かった……。リドリーの公務の予定はキャンセルさせておこう」

「うん、きっと母上の気もまぎれるよ」


「我はいい息子を持った……」

「母上のご機嫌取り、大変なんだからね、本当に……」


 父上は反省していた。

 反省しようとも時間が足りない事実は変わらないし、難しいところだけど。


 それに父上が忙しいのは麻薬の蔓延だけではない。

 息子が次から次へと予算を請求してくるので、議会の説得や、貴族議員への根回しや、融資の要請に時間を取られている。


「僕を自由にさせてくれてありがとう、父上」

「かまわぬ。それがカナン王国の利益になると、判断しただけのこと」


 うちの家系って、ツンデレの家系なのかな……。

 報告を終えると、俺は母上とトーマと荷物でいっぱいの人力車を引き、リアンヌとカナちゃんが待つグリンリバーへの帰路についた。


「速いっ、速いわっ! それにとっても、夕日が綺麗!」

「主人に運ばれるだけの護衛……。それは、存在する必要が、あるのでしょうか……?」


 大橋の完成はもう間近だ。

 労働者が増員され、急ピッチで工事が進んでいる。


 グリンリバー北の山道を抜けずに済むようになれば、王都と行き来はこれまでの半分の時間になる。

 そうなる日がもう間近に迫っていた。


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