・電気文明の白く眩き光 - 忙殺された成果報告 -
翌日、俺は王宮へと成果報告に向かった。
弾性ゴムによる電線のコートが終わるまで待ちたかったけれど、リアンヌをこれ以上屋敷に引き止められない以上、予定を加速させる必要があった。
ちなみに功労者コンラッド・コーエンは、せっかくの出世のチャンスだというのに断固として同行を拒んだ。
父上ではなく、ジェイナスが恐いそうだ。
国王ロドリックは人間味があって親しみがわいたそうだけど、ジェイナスは恐いままだそうだ。
「心外ですね。殿下のご命令だったとはいえ、彼を窮状から救って差し上げたのはこの私でしょう。なぜ、恐れられなければならないのでしょう」
「はっはっはっ、我もお前が恐いぞ、ジェイナス。我に説教ができるのは、お前かリドリーくらいのものだ」
「陛下、目上に説教しなければならない側の、気持ちをもう少しわかって下さると助かります」
父上とジェイナスはその日も仲がよかった。
常に緊張がただよう王の政務室に、一時だけほがらかな空気が流れた。
「では仕事をするとしよう。催しの開催日は、これより7日後の午後。大公殿には話を付けておくので、お前はその日まで公女殿下を引き止めよ」
報告を急いだのはこの催しのためだ。
お披露目の日にリアンヌと一緒にいたかった。
「父上、簡単なことのように言いますが、リアンヌは翼を持った巨ゾウです。引き止められる保証なんてどこにもありません」
「これは大公殿のメンツに関わることだ。未来の義父のために善処せよ、アリク」
娘の婚約者アリクの晴れ舞台だ。
そこにリアンヌがいなければ、大公様も格好が付かないだろうな……。
「リアンヌ様が発案された計画は大変興味深いですが、最低限、公女としての仕事はしていただかなければなりません。殿下、縄で縛ってでもお引き止め下さい」
「その縄を引きちぎるのがリアンヌ・アイギュストスだよ」
中毒性の高い遊技を広めて、麻薬の蔓延に対抗する。
リアンヌのあのユニークな計画は、打算的な俺のプロデュースも加わって、父上とジェイナスの承認が下りた。
ジェイナスはあの計画を聞いて、プロジェクト名を【アリク王子の挑戦状】と名付けた。
これはアリク王子が始めた道楽であり、民に対する挑戦状なのだとジェイナスは脚色する。
それで遊技が盛り上がるなら、こっちもそういうことにする。
「かつて大陸を統べた大帝国の皇帝は、政務などより、国民を熱狂させることを主な生業としたという」
「ええ。国民を抑圧するのではなく、娯楽を提供して己に従わせたのです。そういった形の政治があってもいいでしょう」
その話は書を通じて知っている。
その皇帝はコロシアムを築き、その地下にモンスターを飼っていたという。
「お前は商売のつもりのようだが、この計画は我々カナン王家の支持に繋がる。上手くやるようにな、アリク」
「はい、お任せ下さい、父上」
俺の父親は陰謀家だ。
けれどそこにもう1人の肉親、ギルベルド兄上の姿がないことが気になった。
いつ帰ってくるのだろう……。
「ところで、兄上と八草さんは?」
「順調、とのことです」
「八草さんはいつ返してもらえそう……?」
「もうじきだ。吉報を期待してよいぞ」
「麻薬組織を追いつめたってこと? さすが兄上だ」
2人ともこの話を俺にしたがらない。
それも当然だ。
アリク王子はまだ10歳で、重要な役目をいくつも受け持っている。
「そろそろリドリーのところに行け。もしギルベルドが上手くやれば、我もリドリーとゆっくり過ごせる……。成功を祈らずにはいられん……」
「毎度のことで恐縮ですが、リドリー様のご機嫌取りをお願いします、殿下。私どもは寝る時間をのぞけば、かれこれ3日もここにこもり切りでして……」
仕事とはいえ、それって父上の自業自得だと思うけど……。
「また別れると言われたら一大事だ……頼む、アリク。父を助けると思って、母を喜ばせるのだ……」
「わかった。でもこのままだと、いつか本当に愛想を尽かされるかもしれないよ?」
「そ……そうであるな……。うむ、わかってはいるのだ。だが、時間がな……」
「このままだと、間男が現れるかも」
母上に限ってそんなことはあり得ないけど、父上は可能性を考えたことがあるようで、息子の一言に青ざめた。
父上のこういう人間らしい側面を知る者は少ない。
「ジェイナス、提案だ……。少し、我の仕事を減らす方法はないだろうか……?」
「は、残念ながら……。カナンはあまりに急速に発展し過ぎました。この深刻な文官不足は、最短で5年は続きましょう」
立派で威厳のある書斎机に、父上が頭を抱えてうずくまるのを横目に俺は退室した。
俺は父上の願いを叶えた。
野心の後押しをした。
結果、父上は己の役目に忙殺されている。
母上のご機嫌取りくらいしかできないけど、俺なりにフォローをしておこう。
父上のあの頭を抱える姿からは、国王になんて絶対なりたくないと、そう確信させるものがあった。
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作者も楽しんで追えるくらい楽しい作品ですので、どうかアプリをインストールして読みに来てください。