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・アリク8歳 なら塩を作ろうよ

 少年アリクからすれば、それはちょっとした夏休みのような毎日だった。


「おはよう、リアンヌ」

「おはよ、ショタ王子様!」


 朝起床するとリアンヌと朝食を食べて、昼食の時間まで一緒に家庭教師の授業を受ける。


 リアンヌは意外にも勉強熱心だった。

 少しでも夢の足しにしようと、先生にたくさん質問を投げかけてはかわいがられていた。


 金髪、碧眼、まだ10歳なのに美しい顔立ちを持つリアンヌは、外見だけで言えば理想のお姫様だ。


 そんな子と一緒に毎日を過ごせるのだから、離宮に閉じこめられた生活もそれほど悪いものでもなかった。


「いい眺めですね、王妃様……」

「ええそうね。2人でああやって笑い合ってくれると、親としてとても安心するわ」


 トーマと母上も幸せそうだった。

 だらしない顔と慈愛の顔が俺たちを見守ってくれた。


「リアンヌ、君の方がお姉ちゃんなんだから、もう少し手加減して……」

「しない!」


「してよ!?」

「貴重な成長期だよ! 小さいうちから鍛えまくって、超絶パワーアップがテンプレ展開じゃん!」


 みんなで一緒に庭園で昼食を食べると、昼過ぎの陽光の下で剣の訓練や身体作りをする。


「それはわかってるけど――」

「わかってるならよーしっ! 歯ぁ食いしばれーっ!」


 そうしないと、このパワー系公女が離宮どころか、王城から飛び出して行ってしまいかねない。


「う、うわぁぁっっ?!!」

「アリクッ、私と一緒に強くなろっ! あとついでに賢くも!」


 よって彼女をこの離宮に滞在させたいのならば、ここを修行の場と思わせる必要があった……。


 俺たちは日が暮れるまで、訓練をしたり、木陰で昼寝をしたり、東屋でオヤツを食べながら他愛ない日々の出来事を語り合った。


 毎日学んで、鍛えて、笑って、食べて、眠った。


 どんなに疲れても、若い肉体は一晩寝るだけで疲労が全回復する。

 確かに今はリアンヌが言う通り、成長のボーナスタイムだった。


 それから夏休み1つ分が過ぎ去ると、また俺は父上の政務室に呼び出されることになった。



 ・



「アリク、リアンヌ公女とは上手くやっているか?」

「うん、毎日リアンヌと修行に明け暮れてる」


「ふ……それについてはアイギュストス公爵が目をむいて驚いていたぞ。お前が王子でなければ、ははは、リアンヌ専属のお守りにしたいとなっ」

「リアンヌはああ見えて上昇志向が強いんだ。だから屋敷を脱走していたんだと思う」


「ふむ。つまりお前たちは似たもの同士だったというわけか」

「え、えぇ……? そんなことはないと、思うけど……」


 父上は我が子にやさしく微笑んだ。

 だけどここは政務室。父上は我に返って、テーブル越しに息子へと顔を近付けた。


「アリク、お前の知恵を借りても構わぬだろうか?」

「僕……? でも僕は子供だよ?」


「構わぬ。実は最近、資金が目減りしてきていてな……」

「え、それって、王家のお金が……?」


「そうだ。王家はルキの天秤の事業拡大に、8000万シルバーをつぎ込んだ。それに諸侯を味方に付けるのにも、袖の下が必要でな……」

「ルキの天秤も、サザンクロスギルドのように、素材の流通や加工、販売に手を出したってこと?」


「そうだ」


 ならそのお金はローリスク・ハイリターンの投資だ。

 将来的には戻ってくる。


 競合相手のサザンクロスに大きなダメージを与えることになるし、その背後にいる父上の政敵の資金源も断てる。


「お前はもうじき、あの巨大な書庫を制覇するそうだな」

「ううん、まだ7割くらいだよ。よく噛み砕かずに、スキルを使って頭の中に情報を叩き込んでいるだけ」


「聞けば聞くほど羨ましい力だ。父にもその力があれば、政務が半分の時間で終わるかもしれぬのにな……」

「父上になら、貸してもいいよ……?」


「……いや、気持ちは嬉しいが止めておこう。返したくなくなってしまうのが見えている」

「それもそうだね」


 話が脱線している。

 父上は一度沈黙して、仕切り直しに腕を組んで我が子の顔をのぞき込んだ。


「つまりお前は、喋る大図書館、ということだな?」

「あ、一応、そうなるのかな……」


 そうか、俺の【瞬間記憶】スキルって、他の人からすれば歩くデータベースみたいなものなのだろう。


 父上は今、欲しい情報を検索ウィンドウに入力して、エンターキーに人差し指をかけたところだ。


「王家、アイギュストス公爵家、ルキの天秤に出来る金策を何か思い付かないか? 王家の力を高めるには、さらに多くの資金が必要だ」

「ちょっと待って。今から頭の中を探ってみる」


 目を閉じて、記憶を掘り返した。

 今の俺たちに何が出来るのか、先人の記録を元に探ってみた。


「ん……」

「なんでもいい。何か面白い文献はあったか?」


 結論は、そんな都合のいい本なんてそうそう存在しない。

 むしろ頼りになるのは、大学生時代の知識の方だった。


「製鉄とかどう?」

「鉄だと……?」


 いや、あの本たちはこの世界を技術力を知る上での大きな情報源になった。

 この世界の技術の中で、未発達なものに手を出せばいい。


 その中でも手っ取り早いのは、畑と鉄と塩だった。

 特に鉄と塩だ。効率的に鉄と塩を作れれば、手っ取り早くお金を稼げる。


 どちらも買い手はいくらでもいる。

 人類の歴史は、塩と真水と沃土の奪い合いだった。


「僕が読んだ本には、効率的な製塩の方法も載っていたよ」

「そういえば、ちょうどアイギュストス公爵の領地が海沿いであったな……」


「なら塩を作ろうよ」


16話でミスがありました。

「リドリー」と表記がありましたが、正しくは「サーシャ」です。

修正しました。ご報告ありがとうございました。



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