・文明の光を領主邸まで引こう! - 遊戯はビジネスになる -
「じゃあ、始めようか」
「うんっ、あーそぼっ!」
2つ上のブロンドの綺麗なお姉さんがこちらに迫って、それに驚く俺の気も知らないで無邪気に笑う。
しかし彼女の機嫌はターンを進めるにつれて、失われてゆくことになった。
三すくみ。これを採用したせいだ。
歩兵を歩兵で足止めして、リアンヌの騎馬を槍兵で追いかけ回して討ち取る。
それを3回ほど繰り返すと、ついにリアンヌが発狂した。
「むっかぁぁーーっっ、クソゲーだよぉ、これっ!」
「君、負けたらゲームのクソレビュとかー書く人種?」
「うるさーいっ、クソゲークソゲークソゲーッ、クソゲーッ!」
「小学生か。……でもまあ、これだと戦線が停滞しやすいね。三すくみが刺激になってはいるけど、これだと先に動いた方が負けなんだから」
ゲームというのは中盤から停滞を始める。
その停滞を崩す仕組みが必要だ。
「そうだ! 私だけ、1マスに2ユニット置けるようにするね!」
「えっ!? いや、なにその、斬新にしてシンプルなズル……というかこんなの超ズルいよ、リアンヌッ!?」
俺は夕飯に呼ばれるまで、リアンヌと時を忘れてゲームに熱中した。
その結果、リアンヌのズルは正式採用されることになった。
1マスに1兵種しか置けないからゲームが停滞する。
2兵種置ければ、先に動いたら負けのゲームに戦略性が生まれる。
「ムッカァァーッッ! アリクってさっ、竹次郎鉄道で空気読まないタイプでしょ! 手加減してよーっ!」
「しても怒るくせに」
「それは時と場合によるーっ!」
ゲーム部分はこれでほぼ完成と言ってもいいと思う。
このくらいシンプルなら、人のプレイを少し見れば誰にでもわかる。
そうなると次は商品化と普及だ。
俺はニスの塗られたピカピカのコイン、ゲーム内名称ハンマーを眺めた。
元々ここは木工職人の町だ。
木製製品は金属よりも原価が安く、それだけ販売価格を下げることができる。
ボードゲームのボードは木目の白い木がいい。
まずは安価な木製製品を使って流通させてみよう。
ルールを記した簡単な説明書も必要になる。
「殿下、それは行儀が悪いかと」
「きこえて、いないみたいです……」
「勝負はボロ負けだったけど、これは私の勝ちかも!」
何やらうるさいから視線を上げると、俺は食堂にいた。
左手で木製のコインを眺めながら、右で鶏のスープを口に運んでいる。
「これはもしかしたら、かなり儲かるかもしれない」
そう、そうだ。
元いた世界でもそうだったじゃないか。
こういうのが儲かるから、元いた世界でも文化が花開いた。
大会が開かれるようになったり、レアカードに法外な値段が付いたり、ゲームには人を狂わせる力があった。
「そんなに、たのしかったのですか……? おへやから、こえは、きこえていたのですが……。おしごとが……」
「それが酷いんだよ、カナー。いくらハンデ付けても、アリクにボコボコにされるの……」
そう考えると、値段を抑えてオモチャ屋さんに卸すだけでいいのだろうか。
むしろこう、もっと大きな……カジノとかに売り込むのはどうだろう。
「アリク様は自分やカナには手加減して下さるのですが、リアンヌ様には全力ですね」
「おーい、アリクー? そろそろ戻ってきなよー?」
賞金を出すのはどうだろう。
強いプレイヤーに広告塔になってもらって、その人に勝てたら金貨1枚プレゼントと、派手に広告展開をする。
自分なら勝てると、根拠のない自信を持った人は世の中にとても多い。
そういった層が金貨1枚に釣られて、負けて、ドハマリする仕組みを作りたい。
それと、挑戦にはしっかり参加料を取っておこう。
タダだとうさんくさい。
タダなのになんでお金を出すのか、疑いたくなるのが人の心だ。
やることがバクチまがいではあるけど、ゲームを盛り上げる1要素は射幸心だ。
俺たちは麻薬に勝る中毒性を提供しなくてはならない。
ああ、そうだ。
父上にお願いして、城門前広場にある、民へのお布れ書きを使わせてもらおう。
あそこに俺の名義で、勝てたら金貨1枚、参加料銅貨1枚と告知すれば、多くの市民の目に止まる。
もちろん他の場所にも広告を出す。
せっかく王子に生まれたんだから、王家の権力を使って、布告と称して王都中に張り紙を貼らせるんだ。
そして、それから……。
「あ…………え、何、リアンヌ?」
「今さら!? もうこっちご飯食べ終わって、デザートタイムに入るとこなんですけどーっ!?」
顔を上げると、寒天とブドウ果汁と果肉を使った、甘いゼリーに大きく口を開けるリアンヌがいた。