・文明の光を領主邸まで引こう! - あそぼーっさぼろーっ! -
電線の敷設が難航している一方で、リアンヌが発端となったあの計画は順調に進んでいた。
「アリクの意見を元に調整してみたんだけど、今いいかなーっ!?」
締め出された俺は屋敷に帰り、仕方がないので明日の分の政務を1人で進めていた。
これは俺が勝手にやってることだから、トーマは呼んでいない。
政務室でやるとそのうち気付かれてしまいそうだから、書類を自分の部屋に持ち込んでいた。
そこにリアンヌが現れた!
「いいよねーっ!? なんか暇そーだし!」
「どういう色眼鏡で見たら、これが暇そうに見えるの?」
「えーーっ、暇だから仕事してるんでしょー?」
反論やツッコミを入れてやりたくなったけど、案外間違ってもいないかなと思い、リアンヌに向けたペンを書類に戻した。
やりがい突き動かされて働いて、働く。
そんな生活に慣れてしまっていた。
「これだけ書き上げたら付き合うよ、そこで待ってて」
「やったぁっ! あそぼーっあそぼーっ、一緒に遊ぼう、アリクーッ!」
無邪気な誘いにニヤケてしまいそうになったのを俺は隠した。
「うん、すぐに終わらせる」
リアンヌが抱えているのは真新しいボードゲームだ。
リアンヌは前からある野望のために、ゲームの改良を続けていた。
麻薬なんて面白いゲームを提供すればやっつければいいと、彼女は本気でそう思っている。
理想論ではあるけど、やってみる価値はあった。
「あ、終わったっ!? あそぼーっ、さぼろーっ、朝までずーっとあそぼー!!」
「夕飯までなら付き合うよ」
書類を書き終えると、俺はリアンヌが無防備にスカートを広げているベッドに向かった。
テーブルがあるのに、なんでわざわざやりにくいベッドを彼女は選ぶのだろう。
「ほらほら、言われた通りシンプルにしてみたの。マップも6×6まで小さくして、前線が近くなりました!」
以前のボードゲームの仕様は、誰にでも遊べるものではなかった。
俺とリアンヌの対戦を隣で見ていたトーマやカナちゃんにはプレイできても、そうでない人には複雑わかりにくい。
そこでルールを単純化させた。
兵士のライフを廃止して、歩兵と槍兵と騎馬兵に分けた。
同一の兵種は先制攻撃した方が勝ち。
歩兵は騎馬に攻撃できない。
騎馬は槍兵に攻撃できない。
槍兵は歩兵に攻撃できない。
三すくみを採用してみようとリアンヌに提案したものが、この新仕様だった。
「これ、ハンマーね! アリクはこんだけ、私はこれくらい! さあやろーっ!」
兵士の生産にはハンマーをためて使う。
彼女はハンマーが刻まれた木製のコインを、こちらに1つ、自分側に3つ置いた。
……さも当然と。
ルール上、1ターンに1ハンマーがもらえる仕様ので、これは2ターン分もリアンヌが先制していることになる。
「ちょっと待って……。テストプレイなのに、いきなり不公平ってどういうこと……?」
「だって、負けたくないもん」
「シンプルな理由だね……」
「私が朝までゲームしちゃうのは、アリクが手加減しないからだよ! もっと接待してよ!」
手を抜いたら抜いたで、舐めプだって怒るくせに……。