・その公女、最強につき
・リアンヌ・アイギュストス10歳
魔物の森のボスの、裏ボスの、そのまた隠しボスを倒した私は、領内の冒険者ギルドを訪ねた。
「お嬢ちゃん、お使いかい? 偉いねぇ~」
「おじさんが受付嬢?」
「ダハハハハッ、面白い冗談言うじゃねぇか! よく見ろ、これが嬢って顔かよっ!?」
「とにかく仕事ちょうだい、仕事!」
「仕事だぁ? あるか、んなもんっ! もっとでっかくなってから出直してきな!」
ここはルキの天秤のアイギュストス支部。
私はそれを後押しするアイギュストス大公の娘。
なんだけど、まさか公女がドレスを脱いで、剣を腰に吊るしているなんて誰も思わないよね。
「なんでもするからお願い! テンプレ展開の薬草採集とかでもいいからやらせてよっ!」
「嬢ちゃん、やる気はあるようだな……」
「あるよっ、元気もやる気も超有り余ってるからっ!」
「ちょっと待て、森での採集の仕事ならあったはずだ。最近あの森、急に平和になってな」
受付嬢のおじさんはどこか荒っぽい雰囲気だけど、話のわかる人だった。
その森の魔物を全部のしたの、私なんだけど。
「よし行って来い。無理なら無理でいいから、日が暮れる前に帰るんだぞ?」
「はーい! リュックいっぱいに詰め込んで帰るね!」
私は冒険者の初仕事をもらって、森へと薬草採集に出掛けた!
・
「あ、もう夕方……」
今日はいっぱいがんばった。
宣言通りのリュックいっぱいの薬草を背負って、私は森を出ることにした。
「あ、こんにちは!」
すると町の方から見かけない人たちがやって来た。
挨拶をして隣を通り過ぎようとすると、その人たちは意地悪に道をふさいだ。
「おめぇ、リアンヌ公女様だよな?」
「はい、そうですけど?」
「金髪碧眼の器量良しか、こりゃ殺すには惜しいな……」
「え……? あっ、もしかしておじさんたちっ、アリクを狙った暗殺者さん……っ!?」
私はおじさんやお兄さんたち9人に囲まれていた。
野卑な笑いを浮かべる下品な人たちだった。
その人たちは剣やナイフを抜いて、私を脅してきた。
「おじさんたちな、偉い人に頼まれてお嬢ちゃんを殺しに来たんだよ。悪いけど、死んでくれるか?」
「うん、やだ」
「そうだろうなぁ、でもそうもいかねぇんだよ。恐いお人でなぁ……悪い、やっぱ死んでくれ」
リーダーの人の不意打ちの突きが私を襲った。
もちろん、黙ってやられるわけないし、私は攻撃を避けて殴り返した。
「ゲフォッッ?!!」
パンチしたら、リーダーのおじさんが吹っ飛んだ。
私の【女傑】スキルって、筋力と敏捷性200%アップらしいし、それに最近鍛えてるから!
「こ、この女っっ!! は、速っっ、ゲヒィッッ?!!」
「なんだコイツはっ、なっ、やめ――ゲハァッッ?!」
足払いをしたら、相手が空中でひっくり返って頭から落ちた。
アリクがくれた【物理耐性◎】スキルがあるから、刃物なんて全然怖くなかった。
「うっっ、お、重……っっ、ああっっ?!」
こっちも剣を抜いて攻撃を迎え撃った。
軽く打ち合うと、すぐに手を痺れせて武器を落とすからなんか楽勝だ。
まあそれもそうだよね。
だって私、こう見えてレベル29の女傑だし!
アリクがくれた【動物特効】スキルを頼りに、今日まで森の魔物をバッサバッサと倒してきたんだから、こんな雑魚キャラになんか負けませんよ!
「は、話が違うじゃねえかっっ!! な、なんだよっ、このっ、雌ゴリラはよぉっっ?!!」
「うほうほー?」
「間抜けなリアクション返しながら殺しにかかってくんじゃねーよぉっっ、ひ、ひぃぃっっ?!!」
あ、そうだ!
この人たちを捕まえて帰れば、お父様も私の強さを認めてくれるかも。
私はみーんなやっつけて、みーんな草木のツタで両手を縛って、9人の暗殺者たちを屋敷に引っ張って帰った。
お父様が玄関口まで迎えに来てくれて、私に飛び付いて抱き締めてくれた。
「どう、お父様? これで私の実力、認める気になった?」
「お前1人で、この者たちを捕らえたのか……?」
「うん! 森にいきなり現れて、いきなり殺すって言ってきてビックリ! でも余裕でやっつけちゃった!」
今度はとても強く、お父様は私を抱き締めた。
私が誇らしい! って感じではなさそうだった。
「リアンヌ、バカンスに興味はあるか?」
「ある!」
「では明日より王の離宮で暮らしてもらう」
「え!? それは無理、冒険者ギルドの人たちにこの薬草届けて、次の依頼貰わないといけないもん!」
「お前は公女だろう! 冒険者なんかになってどうする!」
「え、公女が冒険者やって何が悪いの?」
「どうもこうも、隙を突かれて暗殺されかけたではないか!」
「でも返り討ちにした! 無傷だよ、私っ!」
「馬鹿者! 毒を使われていたら一巻の終わりだ!」
そういえば毒耐性、アリクも欲しいって言っていた。
だけどモンスターを倒すには私の力が必要で、スキルを抜き取るにはアリクが必要だ。
私たちって、もっと一緒に行動した方がシナジーとか発生していいのかも……。
「わかった、アリクのところに行く!」
「む……うむ……? 妙に、素直だな……? ううむ……今度は何を企んでいる……」
「なんか急にアリクの顔、見たくなっちゃった! じゃ、そういうことでこれ、ギルドに届けてくるね、私!」
「リアンヌ……」
「なあに、お父様?」
「お前は剛毅にもほどがある……。頼む、もう少しだけ、この父の言うことを聞いておくれ……」
でも私だって冒険者の仕事をこなしたい。
だから結局、護衛の兵士を20人も引き連れてギルドに戻ることになった。
「こ、公女、様……?」
「そうですけど、何か?」
「こ、こりゃぁとんだ失礼をっ!! 公女様に薬草採集なんてさせたと、もし大公様に知れたら――」
「あ、もうそれバレちゃった」
「ぐへぇっっ?!!」
「でもね、私、しばらく王都の方に行くことになっちゃった……」
「そ、そりゃよかった……」
「でもまた戻ってくるから、そのときはおっきな仕事ちょうだいね!」
「か……考えさせてくれ……」
私は薬草を納品して、ちょっと色が付き過ぎな報酬1000シルバーを受け取った。
安宿と節約した食事なら、これで2日くらいは自由に暮らせる。
仕事を済ませると私は屋敷に戻って、婚約者のアリクに会うために支度を始めた。
私の方がまだ背が頭半分高いけど、いつかアリクに追い抜かれちゃうんだろうな……。
あの合法ショタに会うのがなんだか楽しみになっちゃって、なかなか着てゆく服が決まらなかった。
アリクがそうであるように、私も精神がこの10歳の肉体に引っ張られているみたいだ。
相手がああいう男の子なら、政略結婚も悪くないかなって、私はずっと前からそう思っている。
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