・文明の光を領主邸まで引こう! - 突然始まる、異能?バトル -
その晩、カナちゃんは俺の部屋へと遊びにこなかった。
いつもならトーマとリアンヌと一緒になって、無邪気にお喋りをしたり、ゲームをしたり、クッキーをかじったり、賑やかな夜を過ごせているのに……。
今日はきてくれかった……。
「何をやったのですか、殿下?」
「私さ、アリクのすることの大半のことは多目に見てるけど……。カナだけは、例外かなー」
カナちゃんの異変にリアンヌとトーマは少し前から感づいていて、疑いはカナちゃんが俺の部屋にこなかったことで決定的になった。
たぶん、俺がカナちゃんにイタズラしたと、そう疑われているのだろう。
『アリク王子はエッチ』と、そうカナちゃんに言われたときはさすがにショックだった……。
「自分も同感です! 殿下っ、詳しい事情をお聞かせ願いましょう!」
「ごめん……」
「ごめんじゃ警察はいらないよっ!」
「違うよ……。実は研究のことに没頭し過ぎて、カナちゃんの話をちゃんと聞いてなかったんだ……。そしたらカナちゃん、急に怒っちゃって……」
わかってもらえると思って伝えた弁解は、ちっとも効力を発揮しなかった。
トーマの顔もリアンヌの顔も、半ギレのまま変わらない。
「何を言っているのです、殿下! あのカナがそんな些細なことで怒るはずがないでしょう!」
「ほんとだし! マジで何やったしーっ!」
「だから、何もやってないよ」
「今ならリドリー王妃様のお尻ペンペンで済むよっ!? ほらーっ、正直に吐けーっ!」
「ちょ、ちょっと、こんなの酷い冤罪だよっ!! 何もしてないってばっ!!」
反省しないアリク王子を見て、2つ年上の婚約者はご立腹だ。
彼女は機敏に辺りを見回すと、なぜだか俺の机に飛び寄って、そこにあった俺のコレクションを手に取った。
それは各地の鉄鉱石の欠片だ。
あのアオハガネの材料となった砂鉄の小瓶詰めや、赤鉄鉱、褐鉄鉱、それに偽の金と名高い黄鉄鉱を机に飾っていた。
「こーなりゃ鉄拳制裁っ! くらえっ、裏奥義っ、指弾っっ!!」
「ひっ、ひぃっ!? まままっ、待ってリアンヌッッ、君が弾いた石なんて食らったらっ、死んじゃうよぉーーっっ?!」
「能力者ならーーっ、全力で防いでみせろーっっ!!」
「そんな異能バトルみたいなセリフ吐かれてもっ、僕は普通の――う、うわぁぁっっ?!!」
リアンヌの指が黄鉄鉱を装填すると、命の危機を感じた!
千里眼スキルがもたらす動体視力をもってしても、超高速で飛来する弾丸なんて避けられるはずがない!
ならっ、ならっ、そうだ、何か盾になる物を……!
「さあっ、本当のことを言えーっ! カナにっ、エッチなことしたんでしょっっ!」
「なんですって!? やっぱり……!」
「トーマッ、何も答えてないのに事実にしないでっ!」
俺が辺りを見回していると、処刑人リアンヌは猶予期間をくれた。
そこで俺はリアンヌと同じように机に飛び付いて、そこにあった天然ゴムのボールを取った!
「う、受け止めるっ!」
「その覚悟に免じて、顔は狙わないであげるっ! いくよーっ、アリクーッ!」
腕に当たったら、腕ごと千切れ飛んだりして……。
いや、普通にありえるからやだ……。
全身の血の気が失せるように、頭の芯まで冷たくなっていった……。
そんな俺に、リアンヌは容赦なく、殺人奥義・指弾を放ったっ!!
動体視力と集中によりスローになった世界で、放たれた黄鉄鉱がこちらに飛来する。
リアンヌの狙いは俺の股の下スレスレだった。
直撃すればパジャマの下を引き裂かれ、かすり傷を受けることになる。
俺はその軌道に合わせてキャッチャーミット――ではなくて、天然ゴムの盾を運ぶ。
「おおーーっっ?!」
「で、殿下っっ、ご無事ですかっっ?! お怪我はっ!?」
厚い天然ゴムのクッションにより、俺はどうにか黄鉄鉱を指弾を受け止めることができた。
股間に手を送った変な姿勢のまま、絨毯の上、数十センチを地滑りするのはシュールだった。