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・文明の光を領主邸まで引こう! - ゴムがない! -

 勢いに乗って電線の敷設を受け持った俺だけど、早くもある難題にぶち当たった。

 それはゴムだ。

 電線の敷設分の天然ゴムは、国外の海運商人たちの手を借りてどうにか手配できたのだけど、その天然ゴムには大きな弱点があった。


 俺とリアンヌの知るゴムと比較すると天然ゴムは比較的やわらかく、そこに熱が加わるとチューインガムのようにグニャグニャになる。

 こんな耐久性の低い素材で電線をコートしても、小鳥についばまれてボロボロにされてしまうのが見えていた。


「あめがふると……川がにごる。うすき色や、ちゃ色になる……。アリク様と、であうまえは、うち、そんなことも、しりませんでした……」


 天然ゴムを硬度のあるゴムに加工しなくてはならない。

 なぜならばこれから作るのは、これまでのような間に合わせの試作品ではないからだ。


 失敗は俺だけではなく、王家の権威に傷を付けかねない。

 さらにはアリク王子にあやかろうと接触してくる商人や、有力者の信用を失いかねない。


「おはなの色も、やねの色も、くもや、はっぱのかたちも、たくさん、おしえてもらいました……」


 俺は屋敷まで続く電線に、あの少し奇妙なガラス瓶電球を使った街灯を繋いで、文明の灯火でこの世界の人々にカルチャーギャップと植え付けたい。

 技術革新は間違っていないんだって、あの白い光で証明したい。


 光の灯る道は夜の往来を刺激して、グリンリバーの新しい動脈となるだろう。


「かんしゃ、してます……。おとうさんと、うちに、こんな……すてきで、しずかなせいかつをあたえてくれて……とても、かんしゃしています……」


 だから今の天然ゴムのままではダメだ。

 どうにかして、天然ゴムをゴムに変えて、壊れない電線を構築しないと……。


「だから……その……あの……え、えっと……。う、うち……」


 電線は任せろと勢い勇んでから、かれこれもう1週間以上が経ってしまっている。

 なのに何と混ぜても、天然ゴムは俺たちの知るゴムには変わってくれなかった……。


「い……いた、いたず、ら……。され、ても……へいき、です……。ぁ……で、でも……なれるまでは、やさしく、して、ほしいです……」


 アグニアさんは俺に気を使ってくれているのか、電気ストーブの完成報告を持ってこない。

 今は製鉄所の指揮をしつつ、発電器の増設をしてくれている。


「は、はずかしい……。いうんじゃ、なかった、です……」


 あの水力発電器がどれだけの電力を供給してくれるかは未知数だけど、通りを照らす街灯と、電気ストーブくらいならどうにかなるはず。


「アリク、様……? あの……うちのおはなし、きいてくれていますか……? アリク様? アリク様……?」


 いっそ、電線を地中に埋める……?

 いや、それでは敷設コストがかかり過ぎる。

 なら先に電柱を建てさせて、それまでにどうにかして天然ゴムを改良するしか……。


「アリク様っっ!!」

「わぁっっ?! きゅ、急に何カナちゃんっっ!?」


「きいて、なかったのですか……っ!?」

「え……? う、うん……ごめん、きいてなかった……」


 我に返ると、俺はいつもの屋根裏部屋でカナちゃんと向かい合って座っていた。

 珍しくカナちゃんが大きな声を上げて、なぜかちょっと怒っているみたいで驚いた……。


「ゆうき……だして、いったのに……そんな……」

「え、何? カナちゃんのお願いならなんでも叶えるよ、言ってみてよ!」


 カナちゃんの願いならなんでも叶えてあげたい。

 世間様から見れば、俺は自分の侍女を甘やかすダメな主人なのかもしれないけど。


 でも俺はこの関係性を気に入っている。

 ちょっとアベコベなところが。


「ちがいます……」

「え……?」


「もう、いいです……。おしごと、もどります……」


 カナちゃんはとても悲しそうにそう言った。

 しょんぼりと肩を落としたまま、危なっかしくも1人で屋根裏部屋から下りようとした。


「えっ、僕何かした!? ごめんっ、ごめんよカナちゃんっ!」


「うち……すごく、はずかしかったのに……」

「えっ、えぇぇーっっ?! いったい、なんの話だったのーっ!?」


「ッッ…‥! アリク様は、エッチですっ!」

「えっ!? え、ええええーーーっっ?!!」


 カナちゃんは俺の補助を突っぱねて、屋根裏部屋から下りて行ってしまった。

 好奇心任せの性欲なきイタズラが、人間関係をここまでかき乱すなんて……。


 さすがに、失敗したなと、そう思った……。


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