・電熱線を試作しよう - どうも変態です! -
午前は政務。午後は電熱線の実験。
昨日はダメだったけど、今日はどうにか俺の望み通りになった。
俺が労役を命じた不良青年の親たちが屋敷に押し掛けてきたりして、ちょっとばかし大変だったけど……。
駆け付けてくれたロンソさんの助けもあって、どうにか円満解決できた。
遊び回って人様に迷惑をかけているドラ息子を、ロンソさんが叩き直してくれると親たちは信じてくれた。
これで上手くいくかどうかは、退役軍人ロンソのこれからの手腕次第だろう。
そのロンソさんはこれから不良青年たちを説得すると言って、親たちと一緒に屋敷を出ていった。
まだわからないけど、信頼できるかもしれないなと、その後姿を見て思った。
さて、そんな話はさておいて、昼食を済ますと俺とリアンヌは庭園に出た。
「ん、なにそれ? こんな棒っきれでどうすんの?」
「どうするもこうするも、これに電気を流すに決まっているよ」
「え、こんな棒に?」
「その棒に電気を流して、電気ストーブの電熱線にふさわしい材料を探すんだよ」
「へーー……」
俺とリアンヌは庭の納屋に入って、そこから各地から仕入れた各種金属を取り出した。
そしてそれを人力車に積載して、2人でコンラッドさんが待つ水力発電器のところに向かった。
リアンヌと一緒に人力車を引くのは楽しかった。
俺たちはまだ子供だから、時々肩がぶつかるけど一緒に並んでハンドルを引くのも難しくなかった。
「おっ! デートっすかぁーっ、リアンヌ様ーっ!?」
「うんっ、そんなとこ!」
道中、橋建設の労働者とすれ違った。
20代後半くらいのタンクトップのお兄さんだ。
「いや、これのどこがデートに見えるんだろう……」
「いいっすねぇ! けど明日は現場手伝って下さいよぉー!? リアンヌ様がいるとその分、俺らが楽できますんで! 邪魔な大岩も切り株も、リアンヌ様がいればパンチ一発っすからねぇーっ!」
そんなバトルマンガみたいな……。
リアンヌならそのうち浮遊したり、手からビームとか出しかねない。
リアンヌは元気に手を振って、おべっか上手のお兄さんの前から離れていった。
「念のため聞くけど、空はまだ飛べないよね?」
「え、急に何っ!? 飛べるわけないじゃんっ!!」
「手からビームは?」
「風魔法なら出るよっ、こんなふうに!」
リアンヌが空に手をかざすと、大気を揺るがす轟音を響かせて風魔法ウィンドが3連射された。
あの空気砲が直撃したら、人間なんて内臓破裂しておしまいだ。
「ビームの方がマシかな……。君にそのスキル、譲るんじゃなかった……」
これなら城すら吹っ飛ばせるのではないだろうか。
彼女はお姫様の姿をした攻城兵器。さらには自己防衛もできる一騎当千の超戦士だ。
「あ、変態さんだーっ!」
「え、変態……っ!? あ。ああ、なんだ……変態って、コンラッドさんのことか」
川辺のバッテリーを納めた区画に、コンラッドさんの姿があった。
そのずっと奥の水力発電機が集まる当たりには、アグニアさんの遠い姿もある。
いくつもの大型の水車が川の流れを受けて軽快に回っていた。
それと、リアンヌの大声にコンラッドさんはこちらに気付いたようだ。
歩み寄る俺たちの前に、すぐに駆け寄ってきてくれた。
「これはアリク様リアンヌ様! どうもっ、変態ですっ!」
と言って、謎の敬礼をされてしまった……。
「いや、コンラッドさんはその扱いでいいの……?」
「いやぁ、だって……事実! 変態そのものですから、己っ!」
「う、うん……。それでコンラッドさんがいいなら、いいけど……」
「殿下のおかげで、エブリディが充実したビリビリのライフですっ、ありがとうっ、ありがとぅっっ!!」
「わぁ、やっぱり変態だぁー……」
俺たちは興奮気味のコンラッドさんに、電熱線の候補素材たちを見せた。
これに一定の強い電気を流して、赤熱するが融けない金属を見つけたいと、そう伝えた。
「死を覚悟する域のビリビリを、暖房に変える! やはり殿下は天才ですなっ!」
「うんうんっ、私もそう思う!」
適当に返しながら俺は実験を始めた。
水力発電機により高い電力がため込まれたバッテリーに、麻布と黒鉛を使った抵抗装置を繋いで、クリップを電熱線の両極にかませた。
「おおーっっ、だんだん暖かくなってきてるぅーっ!! これ、ほんとの電気ストーブだぁーっ!」
「これは……亜鉛ですかな?」
「うん、不純物を多く含む亜鉛かな」
青白い電熱線は次第に赤熱してゆく。
するとすぐに失敗は明らかになった。
不純物を含む得体の知れない亜鉛ならもしかしたらと思ったけど、その電熱線は白く発光して、やがてぐにゃり歪み、最後は融けて崩れてしまった。