・温室を作ろう - 勝手に人のプラモを作る人種再び -
長らく連載が止まってしまってすみません。
活動報告でも触れましたが、40度出るコロナでした。
ゲッソリ痩せてしまいまして、今少しずつ立て直しています。
また更新が止まるかもしれませんが、ご容赦ください。
結局、リアンヌの風魔法が貢献することはなかった。
だってそうだろう。
あんなものを見せられたら、俺としては彼女に両手を組んでこう願うしかない。
「よーしっ、今度こそ私に任せてーっ!」
「ごめんリアンヌお願いそれは止めてっっ!!」
「えーーっ、なんでーーっっ!?」
「屋敷の外壁吹っ飛ばしておいてよく言うよっ?!」
そんなわけでレンガの自然乾燥を待つのにもう1日をかけることになり、その間に俺は王都に戻り、父上と母上のご機嫌取りを行った。
父上もジェイナスも忙しいのに時間を作ってくれた。
仕事の話をすると母上が不機嫌になるので、そこでは温室の話を主にした。
「温室っ!? まあアリクはお花を育てるのねっ、素敵だわ!」
「え……。あ、うん……香辛料がいいかなって、僕は思うんだけど……」
母上は目に見えて機嫌をよくした。
一方で父上とジェイナスは報告書を通じてこのことを把握している。
今のところ、2人は俺のこの計画に深く賛同もしなければ、肩入れもしてくれていない。
どうも実現性や採算性を疑われているようだった。
「お花の方がいいわ……ね、お花にしましょ? あの子たちだって喜ぶじゃない」
「母上、残念ながらリアンヌの望みは花じゃないよ。あの子、温室でサツマイモを育てるつもりだよ……」
「ふふふっ、それはそれでいいわね。ほくほくのサツマイモ……お腹が空いてくるわ」
「母上まで、何を言っているんだ……。芋なんかじゃ、投資の帳尻が合わないよ……」
もしこの世界にビニールがあれば、芋畑もイチゴ畑もなんでもござれだった。
父上とジェイナスがあまり温室に興味を示さないのも当然で、現状ではコストがかかり過ぎて、道楽の域を全く出ていなかった。
その日は機嫌のいい母上に甘やかされ、もう子供じゃないのに母上と同じベッドで寝た。
・
翌日、グリンリバーに帰還すると、また勝手に事が進んでいた。
「ずるいよ、リアンヌッ! 少しくらい待っててくれてもいいじゃないか!」
「へへへー、先に完成させてアリクを驚かせようと思って!」
「どうして君もアグニアさんもっ、人のプラモを勝手に作るようなメンタルしてるんだよぉーっ!!」
「プラモも温室も、いつまでも完成させない方が悪いっ!」
「戦争だよ、それはっ!」
母上がなかなか行かせてくれなくて、グリンリバーへの帰還は昼過ぎになった。
ところがベアリング式の快適な馬車の旅を終えて、いざグリンリバー領主の屋敷に入ってみれば、敷地にピカピカのガラスで覆われた温室があった。
そのガラスは特注品だ。
一辺20cmほどのガラスを格子状に枠でつなぎ合わせた物で、向こう側が透けて見えるほどに純度が高い。
いわば温室の心臓部。もっとも組み込むが楽しいパーツだった。
だが無惨にも俺の温室は、美しい二重構造のガラス壁により東と南側を完成させられ、残るは天窓の設置だけという無惨な有様だった……。
「おかえり、なさいませ、アリク様……」
そこに騒ぎを聞きつけてか、カナちゃんが屋敷からやってきた。
「あ、カナちゃん、ただいま……。ねえ聞いたでしょ、リアンヌのやつ酷いんだよーっ」
「はい……。ですがリアンヌ様、すこし、さびしそうでしたから……」
「え、そうだったの……?」
「うん……寂しかった……。だって、だって……アリク以外に、朝まで遊びに付き合ってくれる人がとかいないんだもん……」
カナちゃんも近衛兵さんたちも、王都から招いたタルバお爺さんも、その件については関わりたくないらしい。
みんな露骨にリアンヌから目をそらしていた。
「アリク様がいないと……リアンヌ様は、たいへんです……」
「そうっ、大変なの! 今夜は朝まで一緒に遊ぼうねーっ、アリクッ!」
「わかったっ、わかったよっ! わかったから、温室の中でその物騒な手を振り回さないで……」
ともかく壁は完成していた。
そこで天窓の準備をしてもらいつつ、俺たちは天然ゴムを使ったシーリングを行った。
隙間に天然ゴムを埋め込んで、防水性と機密性を高めるための工事だ。
それが済んだら屋根パーツを載せるだけだ。
設計はタルバさんを頼った。
「殿下、後はこっちでやっておきますじゃ」
「ううん、ここまできたら最後まで手伝うよ」
「いや、誠に申し上げにくいのですが……ここからは殿下には向きませぬ」
「それって……僕が、チビだから……邪魔ってこと……?」
シーリングや細やかな調整が終わると、屋根を取り付けることになった。
チビには向かない仕事だった。
「そうは言っておりませぬ。ああっ、リアンヌ様、貴女もそろそろ自重していただけると……」
だけどおっきいリアンヌが手伝おうとすると、タルバさんがストップを入れた。
彼は笑顔を作っているけれど、内心かなり迷惑そうに見えなくもなかった。
「えーーっ、私はアリクよりずっとおっきいよーっ!? なんでーっ!?」
「ずっと君より小さくて悪かったね……」
「ううんっ、むしろアリクはちっちゃいままの方がいいし! 私はもっとおっきくなるからー、アリクはそのままでいてね!」
「なんて傲慢に満ちたセリフなんだ……」
俺がリアンヌの手を引いて屋敷の方に引っ張ってゆくと、彼女は特に抵抗することなく素直に付いてきた。
タルバさんの安心のためにリアンヌと手を結んだままにして、温室へと振り返る。
「感謝いたしますぞ、殿下……。リアンヌ様を疑うわけではございませんが……その、やはり、不安でございましてな……」
「失礼な! 壊したりとかしないってばーっ!」
「存じております。存じておりますぞ。しかし……グリズリーに建築を任せたい建築家が、世にどれほどいるかともうしますと……。何とぞご勘弁下さい、リアンヌ様……」
「なんでみんな私のこと熊とか怪獣扱いするのーっ!?」
そりゃ、屋敷の植木ごと外壁まで吹っ飛ばした前科があるし……。
俺は怪獣の手をまた引いて、お茶にしようよと屋敷の食堂に誘った。