・温室を作ろう - エターナルフォースウィンド 相手は死ぬ -
朝から始めたのもあって、レンガ部分は午前のうちに完成した。
けれどここからはレンガの乾燥を待たなくてはならない。
そこで僕は苦渋の決断を下した。
「えっ、ついにくれるのっ!?」
「あげるとは言ってないけど、君が満足するまで貸すよ……。だからお願い、あれを乾かすのを手伝ってくれないかな」
撃てば3発出る風魔法の才能を、リアンヌのスキルスロットに入れた。
そうなんだろうなとは思っていたけど、大根の達人スキルはカンスト寸前で、それと入れ替える形になった。
「ありがとーっ、アリク! これ、大切にする!」
「あげるとは一言も言ってないよ」
「じゃあ、私も返すとは一言も言ってない! これ、もーらったっ!」
「子供みたいなこと言わないでよ……」
「子供だもーんっ! まだ12の実質ラストJSだもーんっ!」
返す気はないらしい……。
冒険とは無縁の生活をしている自分には、そこまで重要なスキルではないのだけど……。
「それじゃ任せたよ」
「まーかせてっ!」
まあ、また新しい魔法の才能を手に入れればいいかと思い、彼女に譲った。
スキルは失われても、覚えた魔法はそのままなのでそんなに困ることはない。
「さて、では僕はその間、トーマとカナちゃんと政務をがんばるよ」
「あ!」
ところがリアンヌが突然挙手した。
本当のJSのように大変元気に。
「まほーって、どう使うの……っ!?」
「……そういえば君、脳まで筋肉だったんだよね……」
「てへへ……」
「褒めてないよ。教えるから温室まで行こう」
「お、おお……っ?!」
自分より大きなお姉さんの手を引いて、政務室のある2階からエントランスホールに下りた。
流し目を後ろに送ると、リアンヌのやつはなんかデレデレとしている。
合法ショタとか、いつものセリフを叫びかねない顔だ。
アリク王子の姿をリアンヌは大変お気に召していた。
「こうやるんだ」
庭園に出ると、リアンヌに向けて風魔法を使った。
極限まで威力を抑えられた突風の魔法が、そよ風となってリアンヌの金色の髪をなびかせた。
「うーん……? 全然わかんないんだけど……?」
「わかった。なら次はこうしよう」
リアンヌの背後に回り、後ろから寄り添うように綺麗な右手に右手を重ねた。
「おっほほっ、合法ショタさいこーっ!」
「そんなこといいから、魔法に集中して」
これからリアンヌの体を介して魔法を撃つ。
彼女の手に魔力を流し込み、彼女を使って突風の魔法を撃った。すると――
嵐がわき起こった。
嵐も同然の恐ろしい風音が3度も轟き、その風は植木の木の葉を根こそぎ散らし、その奥にある領主邸の外壁をなぎ倒した。
いや、もっとわかりやすく言うと、直線上にあるものを全てぶっ壊した……。
「嘘っ、私の魔力高過ぎっっ?!!」
「な……なに……これ…………」
「あーあっ、壊しちゃったーっ! でもなんか、コツつかめたかもーっ!」
兄上がせっかく美しく整備してくれた庭園を、俺は破壊してしまっていた……。
リアンヌ・アイギュストスという、怪獣の扱いかを少し間違えたがあまりに……。
その怪獣は破壊に恐れおののくどころか、楽しそうに舞い上がっている。
屋敷からみんなが飛び出してきて、一見は婚約者とイチャイチャとしているように見える少年を囲んだ。
「ご無事ですが殿下っ!? 敵は、敵はどこにっ!?」
トーマにそう聞かれたので、俺はリアンヌを指さした。
「私がぶっ壊しました! アリクと私のダブル風魔法で、ドカーンッッ! って!」
「ごめんなさい、僕たちが壊してしまいました……」
結局、その日は温室作りには戻れなかった。
温室よりも先に吹っ飛ばしてしまった外壁を補修しなければ、カアン王家の格好が付かなかった……。
「またやろーねっ、合体魔法!」
「やっぱりそのスキル、返して……君に持たせるのは不安だよ……」
「やーだーっ、返さないよー、だっ! 落ち着いたらこの魔法で、風魔法使いロールするんだーっ♪」
怪獣に魔法を使わせる。
そもそもその発想からして、間違っていたんだ……。
体調不良につき、次回更新できません。
風邪の症状が落ち着き次第、続きの執筆に入りますが、現状わかりません。
新作作りと並行させたりと、少し無理をし過ぎました。
気長に待ってくださると嬉しいです。