・温室を作ろう - カニ、ベリー、胡椒 -
翌朝、朝食を済ませるなり俺たちは庭園に集合した。
といっても建築のプロはタルバさんだけで、俺たちは彼のアドバイスを頼ることになる。
建設労働者は橋建設に持って行かれてしまっているので、具体的な人員はリアンヌとカナちゃん、トーマに、3名ほどの若い近衛兵さんたちだけだった。
「いつでも野いちごが食べられるようにすると、そううかがいました! 素晴らしい……!」
トーマはやる気だ。
あれから一晩明かしてみると、勝手にイチゴ畑を作ることにされていた。
「ホッホッホッ、若いもんはええですなぁ……。ワシは、サツマイモ畑と聞きましたが」
タルバさんは結構なお爺さんだった。
頭がつるっとハゲ上がっていて、モコモコの白髪が頭の左右に広がっている。
労働者としては全く使い物になりそうもなかった。
「イチゴやサツマイモより、香辛料の方が経済が回ると思うんだけど……?」
「うんっ、ご飯は美味しくなるかもしれないけど、それってつまんない!」
「うちは……ブルーベリーの木が、いいです……」
何を栽培するのかはさておいて、さあ温室造りに入るとしよう。
「さすがに大きな温室を作る予算はない。というより、温室については予算の承認が下りてないから、まずは小さいのを作る」
「でもんすとれいしょん、ということですな、ホッホッホッ」
「そう。父上や兄上、母上に温室を見せつけて、その有用性を認めさせるんだ。そうすれば予算が出る……かもしれない」
ビジョンとしては、高価な香辛料を栽培する大型の温室だ。
電気ストーブで温室を暖めて、なんでもいいから金のなる木を育てたい。
「ブルーベリーが、いっぱい……。いいと、おもいます!」
「いやイチゴがいいよっ、クレープにも合うし!」
「この際、自分は食べらればなんでもいい気がしてきました!」
果物では大した稼ぎにならないし、それなら南方の花を育てた方が諸侯の気が引ける。
「それで構造だけど、北と西をのぞく2方向を二重構造のガラスで囲う。もちろん、天井もガラスを敷くよ」
これだけでかなりのお金がかかる……。
本当にビニールがこの世界に存在していれば、どんなに助かることか……。
「その前に土台工事ですな。気張ってまいりましょう、おっ、とっとっとっとっ……?!」
「いやいやっ、タラバお爺ちゃんは見てるだけでいいからーっ! ここは私に任せてっ!」
タラバじゃないよ、タルバだよ、リアンヌ……。
こっちまで間違えそうになるから、何度も間違えないでよ……。
「いやワシはこれでも若い頃は、現場で怒号を上げて……おっと……? ほっほっほっほっ、金槌がすっぽ抜けてしもうたわい」
これから作るのは奥行き6m、横幅2.5mほどの小さな建物だ。
その予定地に俺たちは平らな土台を組み、その上に煉瓦の床を敷き詰める。
それが終わったら北と西側の壁とドア。壁はレンガを二層にして積み重ねて断熱性を高める。
ドアの自作はさすがに俺たちには無理だったので、出来合いのドアをタルバさんから買った。
そのドアには天然ゴムのパッキンを盛って、気密性を高める予定だ。
「カナちゃん、疲れてない? 疲れたらちゃんと言ってね」
「ありがとうございます……。でも、たのしいから、へいき、です……」
カナちゃんには低いところのレンガを重ねてもらった。
これがとても丁寧な仕事で、ほれぼれとするほどに整然と積み重ねてくれている。
「いい仕事、してますなぁ……ホッホッホッ」
「きょうしゅく、です……」
背の高いトーマには高いところ、リアンヌには力仕事全般をお願いした。
近衛兵さんたちには西側の壁を任せている。
「リアンヌも疲れたら言ってね」
「全然! アリクこそ、壊したいところがあったら言ってね!」
「壊す予定は今のところないかな……」
リアンヌはグレートモールを使って地中深くに杭を打ってくれたり、地面を叩いて平らにしてくれたり、レンガや粘土を軽々と運んでくれる。
それはお姫様の姿をしているだけの、頼もしく男らしい重機そのものだ。
「まるでブルドーザーでユンボでフォークリフトだね」
「へへへ、収穫期はコンバインにもなるよー!」
顔にドロを付けたじゃじゃ馬が、少し無防備なシャツとズボン姿で笑っていた。