・温室を作ろう - マジロリコン -
夜の入りかけ。夕飯の時刻になると俺はいやにやさしく揺すり起こされた。
それは隣に寝そべるカナちゃんで、そろそろ起きないと誤解されると、10歳の女の子とは思えない気遣いをしてくれた。
「おはよー、カナー」
「……えっ?!」
「お、おはよう、ございます……」
ところが身を起こすと、カナちゃんをはさんだ向こう側にリアンヌとその黄金の髪があった。
さすがにちょっとドキッとさせられた……。
「へっへっへっ、お昼はお楽しみだったようですねー♪」
「ち、ちが……っっ、ちがいます……っ。ア、アリク様が、ご、ごういんに……っ」
「え、マジ?! ロリコンッ!?」
と、言いながら指を刺されたから説明した。
自分だけ寝かされるなんて不公平だから、道連れにしたって。
そしたらリアンヌはおかしそうに笑ってくれた。
「はーーけどよかったー……てっきり、ガチの案件かと思ったー……」
「僕は子供の特権を行使しただけだよ。こういうのって、大人になるとできなくなっちゃうから」
「ん……それもそだね……。こっちもう12だから、割とソレ、実感してきてる。フレンドリーに話しかけてくれてたおじさんが、急に堅苦しい言葉を使うようになったり……」
「し、しつれいします……っ」
居心地が悪かったのか、カナちゃんは寝室を出ていった。
そんなカナちゃんにリアンヌはやさしく微笑んで見送る。
こういうところがやっぱりいいやつだった。
「あ、そだ、お客さんきてるよ。王都の建築家さんだって」
「あ、着いたんだ」
「夕飯の席に加わるって。名前はえーっと……タ……タカアシガニ……?」
「いや、タルバさんだったはずだけど」
「あっ、それ! タラバガニ!」
「どこまで大ざっぱなんだろうね、君の記憶力って……」
呆れ果てた目と、ため息を吐く姿をくれてあげると、リアンヌはおかしそうにケラケラと笑う。
可憐なお姫様が明るく笑うだけで、見とれてしまって悔しいけどすごくかわいかった……。
「けど建築家なんて呼んで何するのー?」
「温室を作るんだ」
「ビニールハウス? あ、イチゴでも作るのっ!?」
「特に決めてないけど、イチゴもいいね。っていうか、この世界にビニールなんてないから……」
「そう! 考えてみたら超不便だよねー……」
「あっちの世界ではありふれていたけど、あれがないとガラスを頼るしかないからね」
そろそろ食堂に行こうかと立ち上がった。
けれどリアンヌは行くなと俺を引き留めて、ベッドサイドに座らせて隣にくっついてきた。
少しドキッとするけれど、それ以上に体格差を突きつけられるようで、なんか嫌だ。
「じゃあ、なんで温室作るの?」
「これから電気ストーブを作るから。電気ストーブを使って室内を暖めれば、暖かな地方の作物を育てられる。寒い季節でも栽培ができる」
「おーっ! なんかよくわかんないけど、それって凄いねっ!」
「まあ、電気ストーブの電熱線の部分が課題なんだけどね……」
フィラメントに使った亜鉛なんかが、電気抵抗の上ではちょうどいい。
だけどあれは融点が低いから、電熱線には使えない。
熱に強く、かつ電気抵抗が適度に高い金属となると、なかなかそういうのは候補が浮かばなかった。
鉄でもまあいいかなと一度は妥協しかけたけど、やっぱり他の材質を試したくなって、今は様々な種類の金属を取り寄せている。
リアンヌにわかりやすくそう解説した。
「ねむ……。それよりご飯にしよ! ……リドリー様帰っちゃったし、ちょっと期待値下がるけど……」
「そういうリアクションになる気はしていたよ……」
「だって難しいことよくわかんないしー! そういうのは任せた!」
「じゃあ温室の建設を手伝って」
「もちっ、それならおっけ! そんでっ、いっぱいイチゴを栽培しよーっ!」
「香辛料の方がお金になるよ」
「ならアリクはケーキにコショウをかけて食べるといいよ!」
こうして僕たちは食堂で建築家のタラバ――じゃなくて、タルバさんを歓迎して、食事を楽しみながら明日の計画を練った。