・温室を作ろう - 王子様は寝不足 -
「せめて月に3度は城に帰ってきなさい。ロドリックもジェイナスも貴方に会いたがっているわ」
「くれくれも余計なことに首を突っ込んでくれるな。お前の仕事は内政。荒事はお前の本文ではない。あまり俺たちを心配させるな……」
昼。兄上と八草さんに護衛されて、母上がベアリング式の馬車で王都へ帰った。
去りゆく母の姿に少し寂しくなったけれど、リアンヌが滞在してくれているおかげか、その寂しさはすぐに消えてなくなった。
俺はリアンヌのせいでとても眠い眼を擦って、この地の代官の仕事に戻った。
兄上が昨晩に仕事を手伝ってくれたおかげで、今日は少し楽ができた。
「殿下、カナがベッドメイクが済んだと」
「え、ベッド……? 今日は何かあったっけ……?」
そんな折り、政務を終えてトーマと一息を吐いていると、政務室にカナちゃんがやってきた。
「政務も片付いたことです。今日はお昼寝をされてはどうでしょうか」
「はい、すこしだけ、おやすみになられては……」
それは甘い誘惑だった。
昼寝の提案をされると、まぶたがさらに重くなってきた。
全てを放棄して、堕落してしまいたくなった……。
「でも、まだやれることが――」
「カナ、今すぐ殿下を寝室にお連れしなさい」
「はい……おまかせください、トーマ様」
「ちょ、ちょっとっ、2人とも僕の話を聞いてよ……っ?!」
「ねる子は、そだちますよ、アリク様……」
「雑務は自分にお任せを。カナ、お願いします」
子供じゃないけど身体は子供だった。
俺はいつになく積極的なカナちゃんに手を引かれて政務室を出ると、諦めてカナちゃんの前を進み、逆にエスコートした。
「そうだ、よかったら僕と一緒に寝る?」
「え…………っ?!」
「それによくよく考えたら、僕だけ寝かされるなんて、そんなの不公平じゃない……? 一緒に寝ようよ、カナちゃん」
「あ、あの……っ、あの……そ、そんなこと……できません……」
またリアンヌのことを気にしているみたいだ。
僕はカナちゃんの手を引いて階段を上り切ると、ちょっと強引に部屋へと手を引いた。
「トーマと結託して僕を寝かそうとしているんでしょ。だったら、僕と一緒に寝ようよ!」
「う、うちは……アリク様の、おからだが、しんぱいで……。あ、あの……っ、こまります……っ、あの……っ、アリク様……っっ」
俺はまだ10歳のお子さまだ。
わがままを言っても許される。
子供が子供らしく子供同士で昼寝をするだけだ。
俺は寝室にカナちゃんを連れ込むと、ベッドに彼女を寝かせて、その反対側のだいぶ遠いところに寝そべった。
「ごめんね」
「そ、そんなことは……っ」
「僕、ただ一緒に寝たいだけなんだ……。おやすみ、カナちゃん……」
大切な友人と一緒に眠れる喜びを噛みしめながら、俺は心地よい眠気に身を任せた。
これもまた子供の特権だ。
大人になったら、とても難しくなることだ。
これは今だけしか楽しめない。
「お、おやすみなさい、アリク様……。う、うち……こうえいです……」
俺は今だけしか許されない特権を、存分に眠りの中で浸った。