・アリクもうじき8歳 初めての暗殺者
昼過ぎになるとようやく話の長い家庭教師から解放された。
授業が終わると入れ替わりでトーマがやって来て、書庫へと連れて行ってくれた。
新しい本が入ったと司書さんが教えてくれた。
棚に入れる前に見せてくれるというので、お言葉に甘えて新しい本に目を通した。
5冊ほど気になる物があったので、離宮まで運んでもらうことになった。
その後も書庫に閉じこもって、膨大な書庫の本を崩していった。
まだまだ余裕だけど、今日は本棚1列分だけにしておこう。
「あら殿下、この後はどちらに?」
「いつもの城壁だけど?」
一通り満足したので書庫を出ようとすると、年輩の女官に行き先を聞かれた。
素直に答えて、トーマと一緒に華やかな王宮を抜けて城壁に上った。
「アリク様、少しお話が……」
城壁の上にやってくると、トーマが髪を風になびかせながら急にあらたまった。
「なあに、トーマ?」
「もし次に脱走するときは、どうかご自分の剣だと思って、私をお連れ下さい。陛下とは、そういった約定を交わしましたので、ぜひ私を……」
「あ……。あの時は、ごめんね……。リアンヌが強引でつい……」
「はは……。あの時は……あの時は正直、生きた心地がしませんでしたよ……」
「ごめん……」
「あんな思いをするくらいなら、自分ごと剣となって同行することを誓いたくもなります……」
「そうだろうね……。本当にごめん」
「ご両親の幸せのためにも、これからはどうかご自愛下さい」
すっかりトーマのいる生活が当たり前になった。
男装のやさしいお姉さんと一緒に、城壁から外の世界を気ままに観察した。
トーマものぞき見の楽しさにすっかりハマっている。
いつも鷹の目スキルを早く貸してほしそうな顔をしてくれる。
ところがそんな折り、コツンと何かが俺の頭にぶつかったみたいだった。
「殿下っ、今の音はっ!?」
誰かが小石か何かを投げていたずらしてきたのかと思った。
だけど、俺たちの近くにそれらしい姿はどこにも見当たらなかった。
「失礼を!」
「え、トーマ……? わっ、わぁぁっ?!」
突然、トーマが俺を抱き上げて走り出した。
城壁を駆け抜け、下り階段の陰まで逃げ込むと、トーマはまるでアクション映画みたいに王子を我が身でかばい、身を隠しながら辺りをうかがう。
変だなって思ってよく見たら、俺たちがさっきいた場所に、長い矢が1本落ちていた。
さっきコツンと当たったのは、あの矢だったみたい。
「殿下、お怪我はっ!?」
「平気」
俺は誰かに弓矢で撃たれたみたいだ。
だけど【物理耐性◎】スキルを2つ持っていたおかげで、頭を貫かれてもコツンだけで済んだ。
「衛兵っ、衛兵っ、アリク殿下が狙撃された!! 狙撃手を捜せ!!」
「あ、これって、もしかして、あんさつ……?」
「はっ、練兵所の流れ矢である可能性は、まずないかと……」
「ねらいは、僕……?」
「他にいません!」
「わかった。じゃあ、僕が囮になるね」
さらりとそう伝えると、トーマは額面通りに受け止めきれなかったみたいで呆然とした。
「……は、い?」
だけど俺はさっきトーマに言われてひらめいていた。
敵はまだどこかに潜んでいるかもしれない。
だったらさっきのところに戻って、僕を狙う暗殺者にもう一度狙わせよう!
「で、殿下ぁぁーっっ?!!」
標的であるアリク王子は、階段を駆け上がって元の場所へと引き返した。
すると、また弓矢が飛んで来た!
俺はそれを鷹の目スキルを使って回避した。
弓の軌道を見抜いて、暗殺者の居場所を見抜いた。
石造りの矢倉の上から、城の衛兵が王子を狙って3本目の矢を放つのを俺は見た!
「あそこだ、トーマ! 僕はいいから、すぐにあの矢倉を封鎖してっ!」
「うっ……。し、心臓に、よくない……」
「早く!」
「りょ、了解致しました!」
4本目の矢は避け損なった。
コツンと肩に当たって、服が少し破けてしまった。
暗殺者はそれを見て、しばらく固まった。
『今の当たったよな……?』って顔をしている。
敵を逃がしたくないので僕は動揺した振りをして、わざとその場に転んだ。
トーマと城壁の衛兵さんたちが矢倉を封鎖をするまで、敵を引き留めておきたかった。
けれど5本目の矢をこっちが避けると、向こうは矢倉の上部から姿を消した。
俺は駆け付けてきた衛兵さんに身を挺してかばい込まれ、階段の先へとまた抱き運ばれることになっていた。
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