・グリンリバーを照らそう - 闇を払う白光 -
「この5つの電球には、それぞれ明るさが異なるように細工をしてあるんだ。左側のこれが一番明るく、右にゆくにつれ暗くなる」
電球は東屋から最も近い場所にある、モクレンの木に吊した。
これにコンラッドさんのバッテリーを繋げば、人の顔もまともに見えない夜の庭園を、朝日のように明るく照らし出してくれるはずだ。
「僕はこれをグリンリバー中に普及させたいと思っている。建設中のあの大橋と、その南北に続くメインストリートをこれで明るく照らして、夜でも安心して出歩ける場所にしたいんだ」
難しい都市運営の話は引っ込めて、いかにグリンリバーが変わるかの話をした。
彼らはアリク王子の語る絵空事を真に受けてくれた。
「そりゃいい! 酔っぱらって酒場から帰ったら、川に足突っ込んでたとかあるしなぁ!」
「そらないやろ……」
酔っ払いたちは陽気に喜んだ。
「明るければ、背後に怯えて帰ることもなぁーいっ! 素晴らしいっ、スンバラスィーッッ!!」
「自分はもうちょい、男らしくしーや」
女性たちと、コンラッドさんを含む小心者な男たちも喜んだ。
夜を駆逐する光は犯罪率を下げ、都市の成長を刺激する。
そういった意味でも電化には十分な意味がある。そう気づかされた。
「じゃあ、接続するよ」
「はいはいはいはいっ、それ私とカナでやりたい!」
「いいよ、手伝ってくれたし」
「やったーっ! 皆さんご注目ーっ、カナもこっちこっちっ、早く早く! これ持って!」
「は、はい……しつれい、します……」
電球に繋がるクリップと、バッテリーに繋がるクリップを繋げれば、5つの電球それぞれに電気が流れる。
そしてその電流は、抵抗の分だけ出力を抑制されて、適量の電流をフィラメントの上に走らせる。
中学の理科の実験がつい懐かしくなるような、シンプルな電気回路だ。
その電気回路に、リアンヌとカナちゃんの手でそれぞれプラスとマイナスのクリップが接続されると、ゆっくりとフィラメントが明るく輝き始めた。
「わぁ……すごい……。なんて、白くて、きれいな、ひかり……」
それは盲目のカナちゃんでも白とわかるほどの、美しい白熱光だった。
亜鉛製のフィラメントがもたらす、この時代ではあり得ない色合いと明るさの光に、庭園に集まった誰もが感嘆の声を上げていた。
「どう? この光でグリンリバーのメインストリートを照らしたら、すごく面白いと思わないかな?」
「思う! ちょーっ、思う!」
「この輝き、ロドリックにも見せたいわ……!」
「さすがは自分たちの殿下です!」
モクレンの木に吊された光というのがまた、どこか幻想的でよかった。
松明やかがり火を高くかかげなければ、昨日まで駆逐することができなかった夜の闇を、僕たちは白い光で追い払った。
「お、己のンギモヂィィが……白く、清浄なる光に……んひぃ!」
「何寝ぼけとるんや」
ただ、みんなはまだちょっと慣れないみたいだ。
強い光がもたらす漆黒の闇に、自分の黒い影に驚く姿をいくつも散見できた。
その発熱電球の光は、上手くやれば新興宗教の教祖になれてしまいそうなほどに、強く美しく圧倒的だった。