・グリンリバーを照らそう - 花火 -
せっかく実験するなら、たくさん明かりがあった方がいいに決まっている。
そうリアンヌが言いだし、カナちゃんも手伝うと言ってくれるので、夕飯までのいとまに新しい電球を5つ工作した。
外が暗くなってきていたので、作業場はエントランスホールを使った。
「これが、ほんとうに、ひかるのですか……?」
「うん、そうだよ。炉の鉄が白く光るのと同じようにね」
「そんなに、あつくなるのですか……?」
「この中の白い部分だけね」
「よるが、たのしみです……」
「私も!」
カナちゃんは映像を映し出さないその目で、瓶を利用した電球をしきりに撫でて形を確かめていた。
ちょっと細工した瓶が光るなんて、確かに不思議だ。
盲目の彼女にとって光の陰影は興味深いもののようで、決して映像を映し出さないその目で、ときおり朝日や夕空を見上げていることがある。
強い色を持った光は、彼女にとって特別なものだった。
「ご飯よ~~。遊びを止めて早くいらっしゃーい」
「いったんお開きだね! カナッ、いこーっ!」
僕たちは遊び――ではないはずなんだけど、実質遊びみたいなことを止め、母上たちが待つ食堂に入った。
・
親のいる食卓で、そわそわと夜を待つ。
この感覚、いつかどこかで経験したことがあったなと、デジャブを不思議に思っていると、チキンとショウガのスープが空になったところで思い出した。
これは花火だ。
親に花火セットを買ってもらったその日の夜の感覚だ。
夜が楽しみ楽しみで、空を見上げてしまうこの感覚は、あの待ち遠しい感じによく似ている。
「落ち着きのない子ね。そんなに外が気になるの?」
「早く母上に見せたいんだ。でもコンラッドさんとアグニアさんを待たなきゃ……」
すると噂をすればなんとやらで、急に屋敷の外が騒がしくなってきた。
どうしても気になって僕は席を立つと、パンを口に押し込んだ。
「お先に!」
「んぐっ……?!」
するとリアンヌに先を越された。
カナちゃんまで一緒になってパタパタと駆けていって、僕はその後ろを――
「ふぅっ……。母上、待たせると悪いから、早く行こう! トーマも付いてきて!」
「仕方なのない子ね……」
「ご命令とあらば喜んで。あ……っ♪」
母上とトーマの手を引いて、後ろ歩きで外へと引っ張ることになった。
トーマはだらしなくにやけて、母上はいつも以上にやさしそうに僕に笑ってくれた。
「待たせたなー! で、せっかくやし、手当たり次第に呼んできたでー!」
「は、恥ずかしいですな……っ。お、己のダイナモ式ビリビリ保存機が、こんな注目を浴びることになろうとは……っ」
アグニアさんは本当に手当たり次第、目に付く者全員に声をかけて無理に引っ張ってきたんじゃないかってくらい、たくさんの人を屋敷の庭に呼び集めてくれていた。
農家や工員の格好をした地元民もいれば、シャツとズボンと鉢巻きだけの建設労働者や、果てや品物の売り買いをしにきた商人、どこで見つけたのやら旅行中の貴族の姿もある。
「アハハハッ、やるじゃん、アグニア!」
「せやろー! ほなっ、派手に頼むで、殿下!」
花火に浮かれてソワソワするようなあの感覚は、総勢50名を超えるお客様によるお祭り騒ぎにかき消された。
俺は客人たちを明るく迎え、炭に頼らない照明の実験をしていると解説した。