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・グリンリバーを照らす電球を作ろう - 婚約者は概ねグリズリー -

 屋敷に戻ると、ちょっとお酒臭くなっているコンラッドさんが俺を待っていた。


「恨みますぞ……恨みますぞ、殿下……っ。あの女……っ、うぷっ……?! 昼間から、あんな……っ、うぐっ……?! イヤだ……人付き合いのない世界に行きたい……本の中に、引きこもりたい……」


 コンラッドさんはコミュ障だけどできる男だ。

 彼は俺のために、趣味で使っている小型ビリビリ保存機を貸してくれた。


「これは殿下が提唱されたダイナモ式を搭載した、手動型ビリビリンギモヂィィッッ発生器です。夜までに! 返していただければ大丈夫です。夜までに! お願いします。困りますので!」

「ありがとう、助かるよ」


 なぜ夜までの返却が必要かは、詳しく聞かないでおいた。

 騒ぎを聞きつけてか、既に帰っていたリアンヌが上の階から下りてきて、カナちゃんがチラリとだけ顔を出して小動物のように引っ込んだ。


 きっと、アリクが帰ってくるまでゲームでもしようと、そうリアンヌに誘われたのだろう。


「僕、カナちゃんとも一緒に遊びたいんだけどな……」

「私からも誘ったけどダメだった。あの子、すっごく、ガンコだから」


「八草さんと同じで、マイルールがある人だよね、カナちゃんも」

「あはは、その言葉なつかしーっ!」


 リアンヌが手に入れてきた粘土は、炉にも使われる珪素を含む白いアレだった。

 壷に入れられたそれに、まずは主成分の木炭を加える。


 そのためには硬い木炭を砕く必要があり、それなりに骨が折れる――はずだった。


「ん、どしたのー、アリクー?」

「ううん、自分の婚約者とグリズリーの相違点について、少し考えたくなっただけだよ」


 硬い木炭を叩き付けたり、足で踏み砕く必要はなかった。

 壷の上でリアンヌが素手で、木炭の塊を粉末に変えてくれていたから。


 バキィィッとかメキィィッと恐い音が鳴り響いても、そのかわいい姿をしたグリズリーは砂遊びでもするかのように笑っていた。


「へへへーっ、マンモスだってやっつけちゃうよーっ!」

「君がその気になれば、僕はビンタ1つで首をへし折られてしまうだろうね」


「する?」

「死にたくなったらお願いするよ」


 俺は粘土と木炭を練り合わせた。

 成分が偏ることがないようにそれなりに入念に混ぜて、それが終わると麻布をリアンヌに用意してもらった。


「なんかついついいっぱい作っちゃうね!」

「成功させれば何も問題ないよ」


 ハンカチくらいの麻布に厚く塗り付けた。

 表は俺、裏はリアンヌが担当した。


「しまった……これっ、詰んでない!?」

「大げさな言い方だと思うけど、ちょっと困るね」


 両手を灰色の泥まみれにした少年少女は、どうやって他を汚さずにその手を清めたものかと、ふと悩んだ。


「カナーッ、悪いけど水くんできてーっ!」


 けれどもリアンヌは屋敷の2階を見上げて、そこからこっちを顔だけ出してのぞいていたカナちゃんに声をかけた。


「い、いま、いきます……」


 カナちゃんは窓から顔を引っ込めてそう答えた。

 本当は一緒に遊びたいカナちゃんの本心が感じられて、どうにかしてあげたくなった。


「言っておくけど私、仲間外れは嫌い! みんな仲良しがいいと思う!」

「僕も同感。もっと強引に誘えばよかった」


「じゃ、次はそうしよーっ!」

「うん、そうしよう」


 銀色のたらいを抱えてカナちゃんが危うい足取りでやってくると、まずそれに感謝した。

 それから泥だらけの手を清めて、帰ろうとするカナちゃんを引き留める。


「あの……うち、おしごとが、ありますので……」


 そう言って去ろうとするカナちゃんに、リアンヌが背後に回り込んで止めた。


「カナも一緒に遊ぼうよ!」

「僕もリアンヌも仲間外れは嫌いだ。僕たちはカナちゃんと一緒に遊びたい」


 リアンヌと一緒に誘うと、カナちゃんは瞳を隠す赤い布をほどいて、何も映さないその瞳で俺たちを見た。


「うち……おじゃまでは、ありませんか……?」

「絶対ない! カナがいないと寂しいもん! これ乾くまで散歩に行こうよ!」


 美味しいところを奪ってゆくところがリアンヌだった。

 こうなってはリアンヌに先んじて、カナちゃんの手を引くしかない。


「もうしわけないです……。2人とも、こんなに、うちのことをおもってくれて、うれしい……。うちも……ほんとうは、みんな、いっしょがいいです……」


 カナちゃんは左右の手を結ばれて散歩に出かけた。


「私っ、男に生まれればよかった……っ。そしてアリクから、カナを寝取るっっ!!」

「ぇ……ええ……っ!?」

「逆に僕がお姫様だったら、なんかしっくりきたかもね」


「今からなれば?」

「ならないし、なれないよ」

「うちは……おんなのリアンヌ様と、おとこのアリク様がいいです……」


 辺りもう夕方だった。

 俺たちはカナちゃんの目となって、美しい夕焼けの世界を言葉で彩りながら風の気持ちいい田舎道を歩いた。


 抵抗を使った電球の再実験を行うなら、コンラッドさんには返却を待たせて悪いと思うけど、闇が訪れる夕飯の後の方がよさそうだった。

次回更新、おそらく遅くなります。

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