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・グリンリバーを照らす電球を作ろう - 新時代の福音 -

「そんなことよりコンラッドさん、電球をコンラッドさんのバッテリーで光らせてくれるかな? みんなのために、福音を鳴らすんでしょ?」

「はっ!?」


 そんなコンラッドさんに本題を突き付けると、彼は自分の顔の半分をピシャリと大げさに叩いた。


「しばしお待ちを殿下っ! えーと……これを……こうやって、それでそうやって……あ、ちょちょいのちょいのっ、ほいさっさっ! 接続準備完了です、殿下!」


「やって」


 これ以上横道にそれて欲しくないので、簡潔に電球への通電を彼に要求した。


 いや、だけど……。

 ここまできてなのだけど、何か……。

 大事なことを、忘れているような気がしてきた。


 何か、この電気回路には大切なパーツが欠けているような……。

 確か、理科の実験では……うーん……なんだったろう?


「イエスッ、マイプリンスッ!」


 コンラッドさんはバッテリーに繋がる導線のクリップ2極を、電球側の電極にそれぞれ繋いだ。

 するとたちまちに、俺の失敗が明らかになった。


「フォッッ、まばゆしッッ?!!」

「な、なんやなんやなんやぁぁーっっ?!!」


 俺たちはすぐに自分の目をおおうことになった。

 電球から発される激しい白熱光に、そうせずにはいられなかった。


「ごめん……。電気抵抗のこと、忘れてた……」


 目を覆っている間に、フィラメントは焼け落ちてしまった。

 電気抵抗を使って電圧を下げなければ、こうなって当然だった。


「おわっちゃぁぁっっ?!」

「ア、アグニアさんっ!?」


 さらに不注意にもアグニアさんが高熱になった電球に触れてしまった。

 グローブ越しでなかったら、水膨れをともなう酷い火傷になっていたかもしれない。


「ほわぁぁ……電気、なめとったわぁ……。こら、やばいわ……」

「新時代の幕開けを奏でる福音は、まるで野蛮な雌ライオンの咆哮のようであつた。フギッッ?!」


「殴るで」

「殴らないでっっ!!」


 ところが落胆しながら2人の漫才を眺めていると、なんだか風に乗って、甘く香ばしいポップコーンの香りが川辺に漂ってきた。

 まさかと期待を込めて振り返れば、それはポップコーンを麻袋に詰めて歩くリアンヌだった。


「へへへーっ、作り過ぎちゃったから、おすそ分けにきたよーっ!」


 その姿を見て俺は思った。

 やはり俺はリアンヌに、同じ世界からきた彼女に文明の光を見せたかったんだって。

 だからポップコーンに注目を奪われたのか、とても不満だったんだ。


「リアンヌッ、実験成功したよ! 失敗したけど、確かに光ったんだっ、今からやるから見てて! んぐっ?!」


 成功報告をすると口にポップコーンを押し込まれた。

 バターの味わいは現代以上と言わざるを得ない。

 塩もアイギュストス産の藻塩となれば、後引く危険な味わいとなって当然だった。


「ンマァァァァイッッ!! ゲェッ、ナンジャコリャァァッッ?!!」

「メチャメチャいけるやん! なんかビール飲みたくなんなぁ……!」


 すぐそこの川の水で電球を冷やして、開封して新しいフィラメントに交換して、再度真空にして密封した。

 高熱でハンダが溶けてしまっていたのが幸いして、これまでと同じ手順で簡単に電球を修理できた。


「あはは、外側は小瓶だけど中は本当の電球みたい! で、これ光らせないのー?」

「実は……成功したけど、失敗だったんだ……。光りはしたんだけど電気の力が強すぎて、すぐにフィラメントが切れてしまったんだ……」


 電気抵抗パーツがあれば電圧を落とせる。

 だけど電気抵抗って、何でできているんだろう……。


「あ、知ってる。電気抵抗がいるんでしょ?」

「えっ、知ってるのっ!? 君が!?」


 意外だった。

 実はJKではなくJS疑惑をかけていた俺には、ただただ意外であり驚きだった。


「鉛筆だよっ、鉛筆!」

「……えっ?」


「だーかーらっ、ガッコーでーっ、鉛筆で塗りつぶした段ボールに繋げる実験とかしたでしょ? だから、鉛筆だよ、鉛筆!」


 鉛筆と言ったら黒鉛。

 黒い鉛と書くけれど、鉛は入っていない。

 鉛筆の芯は炭素と、繋ぎとなる色々が材料だったはずだ。


「黒鉛か。黒鉛が電気抵抗になるのか……」

「違うよーっ、鉛筆だってばーっ! だからきっと……鉛?」


「あれは炭素だよ」

「そんなわけないよーっ、だって鉛筆じゃん!」


 リアンヌは主張した。

 だって鉛の筆と書いて鉛筆ではないか、と。

 それに対して鉛ではなく炭素なんだと、そう説明するのにかなりの時間を取られた……。


「リアンヌ……君、本当に、中学校卒業してる……?」

「失礼なっ、してるってばーっ! まあ……理科と算数は、ずっと1だったけど……」


「いや中学校は算数じゃなくて、数学だったでしょ……」

「昔過ぎてそんなの覚えてないよーっ!」


 だけど鉛筆の成分はともかく、リアンヌがここにきてくれて凄く嬉しかった。

 俺たちは子供みたいにつまらないことを言い合って、自分の言いたいことを言い切ると一緒に笑い合った。


「ほな、いったん解散やなー。そのテーコーってやつが完成したら、また呼んでなー」

「己も手伝いましょうぞ。人類の新たなる夜明けのために!」


「自分はこっちや」

「ナ、ナニィィッッ?! ちょ、離してっ、なっ、なぜぇぇーーっっ?!」


 アグニアさんは差し入れのポップコーンを抱えて、町の方角にコンラッドさんを引っ張っていった。

 たぶん、行き先は道順からして酒場あたりだと思う。


「後生ですっ、殿下っ、助けてっ、助けてーっ! 仕事以外で人と接したくないでござるーっっ、イヤーッッ!」

「ほんま、ダメの男お手本みたいな男やなぁ……。よしっ、うちがビョーキ治したる!」


 ごめんなさい、コンラッドさん。

 今はリアンヌと2人だけでがんばりたいから、今日のところは見捨てるね!


 俺は同じようにリアンヌの手を引いた。

 するとリアンヌは、2つ年上の身長から俺にニカリと明るく笑う。


 年上で、頭の高さが自分より上にあるからか、ちょっとそれが美人に見えた……。


「ポップコーンはもういいでしょ。今度こそ、僕に付き合ってくれるよね?」

「素直じゃないなぁ。手伝ってって、一言言えばいいでしょ」


「付き合って」

「いいよーっ、電球が光るところ見逃しちゃったし、一緒に作ろよーっ!」


 俺たちは手を結んだまま、手をひとときも離さずに屋敷へと帰った。

 なんだか子供っぽいけど、実際子供なんだから仕方がない。

 好きな相手と手を結ぶだけで、高揚感に胸躍れるのが子供の特権だ。


「アリクは甘えん坊だなぁー」

「何言ってるの、全然違うよ」


「えへへー、お姉ちゃんに甘えてもいいよー?」

「僕はそんなんじゃない」


「そだっ、おんぶしてあげよっかっ!?」

「怒るよ……?」


 本当はおぶられたいと、そう思ってしまう自分の童心が憎かった。

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