・グリンリバーを照らす電球を作ろう - 図画工作って…… -
時刻は政務を終わらせて食事を終えた昼過ぎ。
気づかいさんなカナちゃんは、陳情を代わりに受け持ってくれることになったトーマと一緒に退室して、食堂には世にも愛らしい年上のお姉ちゃん、リアンヌだけが残った。
「電球って……あれって、どうやって作るの……? てか、作れるものなの……?」
その質問にいつものように『できるよ』と即答したかったけれど、そうもいかなかった。
この時代の技術力で電球を作るのは、実際にやってみると、大切な道具がいくつか欠けていた。
「珍しくアリクが考え込んでる……ってことは、難しいんだ?」
「ご名答。……リアンヌは、電球の構造くらいならわかるよね?」
「え……? あー……えっと、んーー……理科で、習ったような……気がするけど、えへへへっ! もう全然覚えてないっ!」
「君は本当に正直な人だね……」
「えっへん! だってもう大昔だもん! 算数も社会も図画工作も、異世界では全然役に立たなかったから忘れちゃったー!」
図画工作って……懐かしいな、その言葉……。
それと算数は今も役に立っているはずだけど……。
「では説明するね。電気抵抗の高い金属をフィラメントにして、真空下で電流を流す。すると光る。これが電球だよ」
「はいはーいっ、フェラメントって、なんだっけーっ?」
「違うよ、フィラメントだよ……。コタツの中に入ると、電熱線から赤い光が出るでしょ……? あの役割をする部分だよ……」
「アハハハハハッッ、ヤバ、恥ずかしーいっ!」
彼女がちっとも恥ずかしがっているように見えないどころか、こっちが恥ずかしくなった。
「あ、でも真空はわかる! 真空パックのやつ!」
「真空の意味は?」
本当に理解しているのか疑わしい。
俺は嫌味なやつと思わるのを承知で、ついつい聞いてしまった。
「空気が入ってない状態!」
ちゃんとわかっててホッとした……。
「……えっ!? でもそれって、どうやってこの世界で作るのっ!? ないよっ、真空パック!?」
「普通なら空気を抜き取るためのポンプと、空気の逆流を防ぐ逆止弁と、完全密封できる容器が必要だね」
「よくわかんないけど、ポンプなんてこの世界になくない?」
「そう。その問題が解決しなくてかなり悩んだ。普及を考えると、消耗品の電球を高価にしたくなかったから、構造が複雑なのも困りものだったんだ」
わかってくれているかはわからなかったけど、少なくともリアンヌは楽しそうだ。
誰にも壁を作らない明るい笑顔で、俺の言葉を待ってくれている。
大学生目線で見れば12歳の可憐な少女も、少年アリクから見れば2つ年上の綺麗なお姉さんだ。
どちらの視点から見ても飽きるようなものではなかった。
「関係ないけど合法ショタ、最高……っ」
「非合法だって、何度言えばわかるの、君は……」
「私、死んでよかった……。あ、それでっ、どうやって真空を作るのっ?」
「悩みに悩んだけど、悩むこと自体がおかしかった。逆流弁もポンプも必要ない」
「掃除機で吸えばいいっ!」
「ちょっと惜しいかも」
「え、マジッ!?」
「簡単な話だったんだ。真空を作りたいなら、自分が持ってる風魔法を使えばいいじゃないか」
魔法を使ったら現代人の負けと、頭のどこかで思い込んでいた。
でもそんな縛りプレイをする必要なんてない。
製鉄がそうだったように、この世界のいくつかの産業は、元から魔法の力に依存しているのだから。