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・グリンリバーを照らす電球を作ろう - 帰りたいけど帰れない -

 すぐに電球の試作に入るつもりが、思わぬことに手間を取られた。

 それは母上と橋建設だ。


 母上はここグリンリバーに息子との休暇を楽しみにやってきた。


「子供が仕事ばかりしていたらダメよっ、ロドリックみたいになってしまうわっ!」

「リドリー様もこう言ってるし、遊びに行こうよー、アリクーッ! 遊ぼーっ、一緒に遊ぼうよぉーっ!」


 だから母上はリアンヌと結託して、仕事が大好きな困った息子を、川遊びやハイキングにありがたくも誘ってくれた。

 どれも最初は気乗りしなかったのだけど、結局は満喫してしまった。


 特に川遊びがとても楽しかった。

 ワンピース姿のリアンヌが浅瀬で無防備に舞ったり、水辺の香りに鼻を鳴らしていたカナちゃんがうたた寝を始めたり、母上と一緒に対岸の森林地帯をぼんやり眺めてみたりと、とても穏やかで、輝いているひとときを過ごせた。


 そう、それでその時、ふいに生前のことを思い出したんだった。


 旅行に行ったあの日、俺は家に帰りたくないとだだをこねて親を困らせた。

 当然そんなわがままは通らない。

 車に乗せられた俺は散々文句をたれた後に眠ってしまって、やがて家に着くと、親に背負われて自分の布団まで運ばれた。


 帰りたくないとあんなにわがままを言ったのに、帰ってみれば住み慣れた自分の家が一番だった。


 俺もリアンヌももう、生前の家族の元には帰れない。

 きっと同じ寂しさを感じている彼女と、もっと助け合って生きたいと思った。


 まあそんな横道にそれた話はともかく。


 母親のやさしさと、リアンヌとカナちゃんという最高の友人に囲まれては、ついつい童心に負けて遊びほうけてしまっても仕方がない。

 もうこうなっては後の祭りなので、そこは開き直るしかなかった。


 それからもう1つの原因、橋建設の方はちょっと厄介だった。

 八草さんの代役である、王都の建築ギルドの偉い人ポールスさんがたびたびトラブルを起こすものだから、何度も仲裁に入ることになった。


 だけどその原因は、アリク王子にあるとも言える。

 俺は労働者欲しさに国内のあちこちから人を集めた。

 そのうち半数は、建設ギルドを通さずに集めた人たちだ。


 そのため橋建設の労働者は、所属や価値観がてんでバラバラだった。


「八草さんの離脱がこうも響くとは思わなかったよ。八草さんが労働者みんなに慕われているのは知っていたけど、まさかここまでとは……」

「おとうさん、むかしから……そういうの、とくいでしたから……」


 それらを束ねていたのが八草さんだった。

 トラブルが起きるたびに俺は屋敷を飛び出て、争いの仲裁を行った。


「まあ、カナさんがそうおっしゃるなら……東のもんを許してやりますよ」

「お前、いちいちあおるなよっ! 西のもんは気に入らねぇがっ、兄貴の娘さんがこう言うなら今は引っ込みますよ」


 布で目隠しをした振り袖姿の娘、カナ・コマツを連れてゆけば仲裁しやすくなるとわかると、だいぶ楽になった。

 白い髪、目元を覆う赤い布、和装姿のカナちゃんは、ただその場に現れるだけで注目を集める強い個性と魅力がある。


 ちなみにリアンヌもしばしばその現場に労働者として加わっていただけれど、彼女は不干渉を好んで、他の者と楽しく工事を進めてくれていた。


 地域と地域の古い対立が相手では、最強の公女様も手も足も出なかった。

 ……というより、手を出さないで偉いと何度か褒めた。


 こうして日常に押し流されるように日々が過ぎ去ってゆき、水力発電器の実験成功から5日間が経った。

 昨日でようやくアーチ橋建設のための足場が完成し、今日は朝一番で鉄製の骨組みが運び込まれ、組立工事が始まった。


 パーツの全てがこのグリンリバーで鋳造されたものだ。

 どれもが同じ型を使って複製された物なので、理論上は全てのパーツに互換性がある。


 ボルト穴の付いた鉄材が本体だ。

 それを同じ規格で作られたナットとボルトで、全体がアーチ構造になるように締め付ける。

 左右のアーチとアーチを繋ぐ鉄材が水平になるように、細かく調整してもらった。


「アリク王子ってのは、まだ子供なのに神経質な人だなぁ……。こんなの、テキトーでよくねぇ?」

「よくねーんだよ、バカ。ちゃんとブンドキてやつ使って、正確に角度を測って締めろよ」


 この作業のために分度器を用意した。

 労働者たちはアーチ橋全体が180度の半円になるように、鉄材と鉄材をレンチで繋いでいった。


 対岸とこちら側の双方から始めて、中央で合流させる計画だ。

 中央で高さがズレては台無しなので、双方から長い糸を張って、向こうとこちらが水平になるように正確に組んでもらっている。


「だけど大将、なんで橋を曲げる必要があんだ?」

「橋にかかる重さを分散させるためだそうだ。水平に橋を架けると、橋の真ん中に重さがかかってよくないらしいぞ」


「なあ大将、前から思うんだけどよぉ……。なんで、10歳のお子さまが、王子様が、そんなこと知ってんだ……?」

「本で読んだそうだ」


「本当かよ……」


 ちなみに骨組みの建設が終わるまで、手の空いた労働者には土地の造成を任せた。

 アーチ橋の根本は鉄材ごとモルタルで塗り固めて、地中に埋まった状態にする。


 そして土地造成でアーチの左右をなだらかにして、馬車で橋を渡りやすくする。

 これならばきっと、自動車はともかく過積載の馬車くらいならば、問題なく渡れる橋になってくれるはずだ。


 俺は現場のみんながきっと上手くやってくれると信じて、この日ようやく電球の試作に着手した。

 リアンヌと一緒に、屋敷の食堂で。


次話、次次話、ボリュームが少なくなります。


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