・アリク王子暗殺計画
・会計士リーガン
独占事業の崩壊は、親父のサザンクロスギルドに莫大な負債を与えた。
息子であり会計士である俺は、たった半年で8700万シルバーの純損失を帳簿に記することになった。
サザンクロスギルドは冒険者に依存し過ぎた。
ギルドは冒険者から宝や素材を買い取り、それを自社の工房で加工し、自社の商店に並べる。
そして冒険者どもは、サザンクロスギルド直営の店から装備や道具を買い、クエストに旅出つ。
笑いが止まらないほどに美味しい利益構造だった。
だが国王とレスターは、うちのギルドから仕事と冒険者と「素材」をかすめ取った……。
素材を奪われた工房と商店は、かつてない大赤字を計上することになった……。
サザンクロスは赤字を補填するために、国中にある多数の直営店と、サイドビジネスの奴隷農園を売却することになった。
サーシャがため込んだ下らない宝飾品も全て売らせた。
親父も自慢のワインセラーと骨董を処分した。
親父はめっきりと覇気を失ってしまい、サーシャは離婚をチラ付かせて俺のことを責めた。
悪夢だ……。
上納金さえ有力貴族たちに献上していれば、絶対に破綻することのない完璧な商売だったはずなのに……。
「確か、リーガンだったかしら。ギムレットは来ないの?」
「申し訳ありません侯爵様。親父はすっかり気が参ってしまいまして……」
郊外に位置するある農園で、さる侯爵様による会合に参加した。
そこには舌をレイピアで貫かれ、言葉を失った検事キルゴール殿も出席していた。
「まあ、あれだけの負債を抱えれば無理もないわね。ホホホ、心中お察しするわ」
「最悪ですよ……」
「では、始めましょうか」
会合が始まった。
侯爵、子爵、検事、裁判官、官僚。錚々たるメンバーだった。
独占事業を守るために、親父はその全員に今日まで金を払ってきた。
「あ、暗殺……!?」
挨拶が終わると、どうやってルキの天秤を排除するかが話し合われた。
そこで俺は、代理を受け持ったことを深く後悔することになった……。
「うふふふっ、そうよ、暗殺しちゃうの……」
「で、ですが、相手は……」
「王に警告してやるのよ。これ以上青臭い正義を振りかざすなら、次は兄の方も殺してやると、王にわからせてやればいいわ……うふふふふ!」
侯爵様はアリク王子の暗殺を提案した。
侯爵の取り巻きどもは、口を揃えてそれに賛同した。
正気じゃない! 庶子とはいえ相手は王の息子だ!
「聞けば母親は庶民どころか元奴隷だそうですな」
「我々は、王家の血を汚す忌み子を処分する手助けをするだけ……。ここはそういうことで、一つ……」
冗談じゃない……。
もし計画が発覚したら、借金地獄どころではない……!
事業を整理すれば、衰退こそするだろうがサザンクロスは続けて行ける。
それがなんで、国家反逆罪の片棒を担がされることになっている!
「リーガン、お前はどう思う?」
動揺を見抜かれたのか、侯爵様は残忍な笑みを浮かべて俺に問うた。
「……わ、私は、やり過ぎでは、ないかと」
「あーら、そうかしら~?」
「サザンクロスとしては、反逆の危険を冒してまで、過去の利益に依存する意味が……っ」
「あんた、おバカさんねぇ~? あの王はね、敵対諸侯への金の流れを潰したいの。だからルキの天秤との共存なんて、最初から無理なのよ?」
「そ……そんな……」
侯爵様が言うとおり、アリク王子を殺せば、王家とアイギュストス大公の繋がりを断てる……。
そうすれば昔のように、多くの仕事をギルドに斡旋してもらえるようになる……。
しかし計画が露見すれば、絞首刑でもまだ幸運な沙汰が待っているだろう……。
「こ、侯爵様のおっしゃる通りです……。サザンクロス・ギルドは、あ、暗殺に、賛成いたします……」
仕事を横取りしたやつらが悪いんだ……。
あのアリクと同じ名前に生まれた、アリク王子が悪いんだ……!
俺は悪魔の提案に賛同を示し、親父にこの話を持ち帰った。
もう殺すしかない。アリク王子を。
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