・仕切り直して……発電器を作……え? - 理科? -
「川の流れをビリビリに変えるだなんて……! タワシで金属板を擦って発電していた己の努力をっ、あざ笑うがごとき奇跡っ! スン、スン、スン……スンバラスィィーッッ!!」
そんなことしてたんだ……。
「ヘンタイは考えること違うなぁ……」
「えっへんっっ!! 己がヘンタイでなければ、このビリビリ保存機は生まれていなぁぁぁぁいっ!!」
そろそろツッコミ疲れたから全部スルーして、俺はバチバチと音を立てている帯電石を観察した。
「この帯電石そのものを、照明器具やヒーターにする案も考えていたけど、ちょっと危なすぎるかもね」
「ヒジョーーーにっ、気持ちよさそうでありますがなっ!」
「あんなー……いくらヘンタイのアンタでも、たぶんこれ、こんまんまだと死ぬでー……」
しかしそろそろいいだろう。
俺は水車に近付き、アグニアさんが操作していたレバーを戻した。
電力供給が止まっても帯電石は輝いたままだ。
ふたをして、どれだけ蓄電できるかの経過観察を行うことにしよう。
「せやけど、このコイルっちゅうやつ、ホンマ不思議やなぁ。磁石と銅線がくるくる回ると、なんで電気になるんや?」
「コンラッドさんがタワシで金属板を擦ったのと同じだよ。水車の運動エネルギーを、電気の力に変換しただけ」
こんなことなら、コイルの仕組みを教えなければよかった。
そうすれば細部の設計にも携われたのに。
「で、成功と見てええんかー?」
「うん、発電器部分は完璧だよ。バッテリー部分もこれで問題が出ないようなら、大型化させたものをたくさん作ればいい」
「ほな、水車式発電器の方もさらに改良しつつ、ごっつでっかくするだけやな!」
「できそう?」
「うちらに任せとき! まずは、バッテリーの改良から入るでー!」
帯電石なら昨日、ギルドから仕入れてきてある。
手持ちがなかったから請求は父上に回してもらった。
国のお金で好き放題は王子様の特権だ。
「見たところ発電器に対して、バッテリーの容量が足りていない感じがするからそれがいいと思う」
「い、今少しの予算と時間があればっ、もっと良い物できたもーんっっ! ビリビリの第一人者としてっ、次は完璧をお約束しますよぅ!!」
「うん、期待しているね、コンラッドさん」
「オ、オオオ、オフコーースッッ!!」
「こっちは電球と電熱線、つまり電気式の照明とストーブを作ることにするよ。このままじゃ、冗談抜きでグリンリバー周辺が禿げ山だらけになっちゃうから」
そう伝えながら、俺は軽快に回る水車を見上げた。
もう少し大型の水車が欲しい。
大型のコイルを速い速度で回せたらそれが効率的だろう。
けどその辺りのバランス調整は、俺よりも職人であるアグニアさんの得意分野だ。
俺の役回りは予算と材料の調達が主になる。
特に送電網を敷くためには、天然ゴムの入手が重要になるだろう。
勝手に組み上げられてしまったけれど、まあいいだろう。
木炭に依存しない都市という夢に、これで大きく近付けた。
いつかは大橋と街道沿いに電気照明をたくさん配置して、街道を華やかにライトアップしたい。
そうしたら父上と兄上が感嘆の声を上げてくれる。
リアンヌとカナちゃんが綺麗だと喜んでくれるはずだ。
がんばろう。
僕は帰ってきた八草さんを、あっと驚かせてやるんだ。
・
2人をあちらに残して一足先に屋敷へ帰った。
すぐにリアンヌを探して、発電器の実験が成功したことを語った。
伝え方が少々子供っぽかったのか、リアンヌにやさしく微笑まれてしまった。
続いて彼女は難しい顔をした。
「コイル……コイル……コイル……。コイルって、なんだっけ……?」
「それは学校で習ったでしょ……」
「私、理科は苦手だったから」
「いや、理科では習わないと思うよ……」
物理や科学をひっくるめて理科と呼ぶのは、ゲーム機をひっくるめてファミコンと呼ぶような暴論だ。
いや、果たして彼女は、本当に元JKなのだろうか……。
「すっごーっ! アリクならいつか、レトロゲームとか作っちゃえるねーっ!」
「それは無理」
「できるよーっ、アリクなら!」
「無理だよ……。集積回路も半導体も、あんなの作れるわけがないじゃないか……」
「……ファミコンも?」
「ファミコンもだよっ!!」
ねぇ、君、本当に、JK……?
リアンヌには高校生が持ちうる科学知識がすっぽり抜け落ちていた。