・殿下の第二ステップ バッテリーを導入しよう - 古巣 -
城下に出ると、俺たちはそれぞれ寄り道をすることになった。
乗り物は人力車が1台。母上の馬車が1台だ。
「じゃ、また後でね!」
「レスター様にご迷惑をかけてはダメよ? ただでさえ、ロドリック様がお世話になっているんだから……」
「コンラッド殿、このトーマ、心より心中お察しいたします。気を強くお持ちを!」
母上とリアンヌとトーマはおみやげのお菓子を買いに行った。
向こうで待ってるカナちゃんと美味しいケーキが食べたいって、トーマも一緒になってそうはしゃいでいたのを俺は知っている。
「お、おおおっ、己もっっ、己もあっちがいいのですが、殿下ぁっっ?!!」
「それはダメ」
「なっ、なぜぇぇーーーっっ?!!」
「だって、誰かを乗せて走らないと楽しくないじゃないか」
コンラッドさんは人力車に残ってもらった。
「下僕の自分が引きますッッ!!」
「下僕にした覚えはないよ……。僕たちは対等な共同研究者、遠慮しないでくつろいでね」
「も、もももももっ、元無職の本のクズにも立場というものが、あ、ある……っ、ああああーーーっっ?!!」
ベアリングシステムがもたらす快適な人力車で、青い顔をしっぱなしのコンラッドさんを乗せて、俺は冒険者ギルド・ルキの天秤に向かった。
少しだけスリリングなスピードとコーナーリングでね。
「んーー、次は上下の衝撃を吸収するサスペンションが欲しいね」
「ひ、ひふっ、ひっひっふっ、ひっひっふっ、ひっひっ、ふぅぅーっっ?!!」
そういったわけで俺がルキの天秤の本部を訪ねたのだけど、ちょうどレスター様は不在だった。
だけど行き先はわかっている。
レスター様はちょうど今、サザンクロスギルドの本部を訪れているそうだ。
俺にとってはそこは因縁の場だ。
ちょっと気が乗らなかったけど、幸い俺にはおもしろいオモチャ――じゃなくて、同行者がいたので今度は彼に人力車を引いてもらった。
「ああっ、下僕でよかった……下僕でいたい……ずっと、ずっと、殿下の下僕でいたいのです、己はっ!!」
「そんなに僕に引かれるのが嫌……? みんな嫌がって、僕としてはとても心外なんだけどな……」
「嫌ですっ!! そんなかわいいお目目で見られてもっ、子供をっ、しかも王子様をっ、馬のごとき扱いをするクズの中のクズと思われるのは……っ! さすがの己もプレイ外です……っっ!」
こんなに明るい人が話相手になってくれるから、サザンクロスギルドまで退屈しなかった。
俺はコンラッドさんと小説の話をしながら、王都を自由気ままに闊歩した。
・
元職場、サザンクロスギルド本部までやってくるとさすがに緊張した。
ギルド職員アリクだった頃の人格が蘇り、嫌な思い出が頭の中でとぐろを巻いた。
サーシャとギムレットは今頃どうしているのだろう。
ギムレットの息子についてはもう名前も思い出せない。
あの事件はもう10年以上前のことだ。
ギルド職員アリクをハメた実行犯があのギムレットの息子でも、裏で糸を引いていたのはサーシャだった。
彼女は今もここで働いているのだろうか。
「己……だんだん……気持ちよくなってきまひた……。これが、トーマ殿が普段感じている、喜び……いいっ!」
変態と変態は惹かれ合うのだろうか。
そうふと思い、自然体でトーマに失礼な印象を持っている自分に気付く。
コンラッドさんにより人力車はギルドの軒先に停められ、俺は車の席から飛び降りた。