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・僕の小姓トーマは、ちょっと怪しい……

 城壁まで行くと、少し楽しんでから【鷹の目】スキルを彼に貸してあげることになった。

 だけど俺はそこで、母上のサインをスキル画面に見つけることになった。


 トーマはスキルを2つ持っていた。

 片方は【物理耐性◎】で、俺が母上にプレゼントしたはずの物だった。


 もう片方は【ロイヤルガード】という固有スキルだ。

 親衛隊や小姓向きのレアスキルだった。


「じゃあ、鷹の目スキルを移すね?」

「はい、お願いします殿下!」


 【鷹の目】スキルを彼のスロットに入れて、【物理耐性◎】をこっちに移した。

 途端にトーマは驚いて声を上げた!


「なっ、なっ、なっ、み、見える……な、なんなのですかこれはっっ?!!」


 トーマの高い声がますます甲高くなっていた。

 慣れてくると彼は無我夢中で城下の街並みを見つめたり、外壁の先に広がる広大な穀倉地帯を見渡した。


「これが鷹の目……。これ……っ、凄く、楽しいお力ですね、殿下……っ!」

「うん、わかる。よく母上にもスキルを貸してあげて、ここで一緒に城下を眺めるんだ」


「わぁぁ……っ、慣れてくると、おぉぉ……っ、世界って、こんなに驚きに満ちていたんだ……。あ、猫……!」

「それってあそこの宿屋さんの屋根のこと? あそこはね、猫の集会所みたいなんだ」


 最初はお堅そうな人に見えたけど、10歳相応に無邪気なところがあって安心した。

 城下町の穴場を教えてあげると、3つも年上なのに感心してくれた。


「はっ?! も、申し訳ありませんっ、自分ばかり楽しんで! お力、お返しいたします、殿下!」

「かわりばんこで見ようよ」


 トーマからスキルを抜き取って、元の位置に【物理耐性◎】を戻した。


「あ、目が元に……」


 母上からすれば自分より、護衛役のトーマを強くして、息子を守れるようにしたいのかな……。


 ギルド職員アリクが遺したスキルを、母上は俺の知らないところで使いこなしていた。


 ん、あれ……?


「おや、どうかされましたか、殿下?」


 どこかで操作を誤ったのか、画面がおかしなことになった。

 あ、これ、トーマの個人情報だ……。


―――――――――――

【名前】トワ・タイス

【年齢】10歳

【性別】女

【職業】小姓見習い

―――――――――――


 いや、誰……? トワ?

 え、女……?


「殿下、お疲れのようならばお部屋に」

「あ、いや……え……??」


 二度見、三度見、四度見しても、彼の実名はトワさんで、性別は女性だった……。

 これって、俺が知っちゃいけないことだよね……?


 ど、どうしよう……。


 3つ年上のお兄ちゃんは、お姉ちゃんだった。

 彼女が女性だともし誰かにバレたら、大問題になる……。


「ト、トーマさんは、男の兄弟とかいるんですか……?」

「トーマと呼び捨てて下さい。兄が1人おりますが、何か……?」


「そうなんだ……はは」


 そりゃ、長男は小姓に出せないよね……。

 だけどタイス伯爵は王との同盟のために、我が子を小姓に出したかったんだろう……。


 でも異性の小姓はまずい。まずいどころじゃない。

 父上の時代では、姦通を防ぐためにジェイナスは……ああいうふうに、なったわけだし……。


 そうなると……。

 ここは気付かない振りをするのが、父上たちの夢のため……?


「トーマさん」

「はい、なんでしょうか、殿下!」


「やっぱり王宮を探検したい。だめかな……?」

「い、いえっ、殿下とご一緒ならばどこまでも! 小姓として光栄にございます!」


 トーマでありトワである女の子と、手を繋いで王宮を歩いた。

 兵舎を見学してみたり、厨房に入ってみたり、研究を行う塔を見物したりした。


 学者さんたちは腫れ物を扱うみたいに、俺のことを塔から帰りたがらせていた。


「手、すべすべ……は、はぁ……っ♪」


 この小姓、大丈夫かな……。

 しばらく付き合ってみると、男装小姓のトワさんにはいわゆる……そっち系の疑惑が浮上した。


「殿下、次はどこに参りましょうかっ!」

「お城の外は……?」


「申し訳ありません。それはジェイナス様のお叱りを受けるどころでは済みません。あ……♪」


 キュッと手を握ると嬉しそうな声を上げる小姓と一緒に、俺は離宮へと帰ることにした。


「ぁぁ……もう死んでもいい……」


 死なれても、困るよ……。



 ・



 親たちにはとても言えなくて、最も近しい立場にある人にそのこと相談した。


「やっばっ、男装小姓とかなにそれずるいよっ、それってロマンじゃんっ、お約束じゃんっ、激アツ展開じゃんっ!!」

「リアンヌはなんでも軽く受け止めすぎだよ……。もしバレたら、どうするのさ……」


 しかし王宮に遊びに来たリアンヌは、ことの重大さをまるで理解してくれなかった……。


「着替えの現場とか、ある日偶然、目撃しちゃうんだよね!」

「そういう展開って、いくらなんでもご都合主義じゃないかな……」


「お願い、アリク様! 誰にも言わないで! ボク、貴方の小姓でいたいんです……。ふぉぉーっ、キタッ!!」

「でもリアンヌからすれば、それって不倫にならない……?」


「なんでー?」

「いや、いいなら、いいけど……」


「それよりっ、弱みを握って脅したりする展開もいいよねっ! バラされたくなかったら俺様に服従しろーっ、キャーッッ!」


 異世界を遊び半分で生きているリアンヌが羨ましい。

 俺の方はギルド職員アリクとしての人生を経験した分、精神がこっちの世界側に引っ張られているようだった。


「じゃ、今から一緒に城下町に行こうよ!」

「いや、なんでそうなるし……」


「だって、一応婚約者だし? アリクと王宮の外を歩いてみたい!」

「トーマさんが納得しないと思うけど……」


「小姓のことなんて気にしてたら一生脱走なんて出来ないよ! さあ、行こうアリクッ!」


 どうしてこの子はこうなのだろう。

 リアンヌは7歳の王子を城下町に引っ張り出した。


 それからたっぷりと外世界を満喫した後に、王子ともども親たちの激怒を買ったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ┌(┌^o^)┐……ボクノデバンナカッタ……
[一言] 前話でトーマは伯爵家の三男とあるので、兄は2人では?
[気になる点] 特殊な才能持ちの主人公ではなく母親がトーマに【物理耐性◎】スキルを移動させたというのが分からないのですが。 後王子の小姓が男装異性というのは発覚すれば政敵にとって美味しい爆弾をずっと抱…
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