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・殿下の第二ステップ バッテリーを導入しよう - 殿下のせいで! -

 コンラッドさんに装置の解説をお願いした。

 すると彼はこれまでのオドオドとした挙動不審っぷりがまるで演技であったかのように、その焼けただれた顔半分を覆って口元に余裕の笑みを作った。


「説明しましょう!! このビリビリ保存機は、アリク殿下のアドバイスを元に設計し直したっ、最新型のっ、ンキモヂイイ!! 装置です」


 この離宮で発してはいけない特定の単語に場が凍り付こうと彼はお構いなしで、むしろそれはももう気持ちよさそうに、極めて聞き取り難い早口で言葉をまくし立てた。


「以前は帆布で周囲を厚く覆っていたのですが、いやっ、アリク殿下は噂以上の超・博識ですな! なんと外装にこの磁器を使えば、ビリビリを外に漏らすことなく封じ込められると、そう提案して下さったのを実現してみたらっ、あっ、あらっ、不思議っっ!! まるで布に包んでおいたティーポットのように、ビリビリがいつまでも長持ちして、あ、これは、いつでもどこでも、ンギモヂ――」


 それはもう凄い早口だったから、彼の主張をまともに理解できる者は僕とジェイナスくらいなものだった。

 父上は余計な情報の多過ぎる解説に怪訝そうに眉をしかめ、リアンヌと母上はどうでもよくなったのか、からあげと大根下ろしの話を始めていた。


 コンラッドさんの話はとても長かった。

 6割以上が脱線でありどうでもいい情報だったので、さしものジェイナスも涼しい顔を止めてげんなりしていた。


「と、まあ、さてまだまだ語りたいところですが、次は内部構造をご覧下さい。この内部の一見はアメジストのように見える美しい物体は『帯電石』と呼ばれる品です。電撃魔法を吸収するその特性から、やや脆いものの、お守りとして身に着ける者もおります。しかし……わかってなぁぁーいっっ!! 帯電石は、人がいつでもどこでもビリビリ――」

「それはおいといて。これが電極で、この小さなレバーいっぱい付いてるやつがボリューム?」



 電池を作るにあたっていくつかの壁があった。

 そのうちの1つが、安定した電力量の供給だ。

 ビリビリ保存機を使ったコンラッドさんが、うっかり感電死してしまったり、主力が低過ぎてンギモヂよくなれないようでは意味がない。


 よって流れる電気の量を調整するためのボリュームが必要だった。


「はっ、殿下のご注文通りの物をご用意いたしました!! あっ、いえ、その、すみません……ただ1つ……いやっ、2つ、問題がありまして……」

「問題って?」


「己のこのマッスィーンはっ、殿下が要求されたスペックに! まだ3割ほど届いておりません……」

「あはは、7割も実現してくれたら十分だよ! コンラッドさんに頼んでよかった!」


「いやっ、もう1つの問題が大大大大問題なのです! 大問題! いや超問題! 己はこのままでは、殿下とご一緒にビリビリできないかもしれないのです!」


 一緒に感電は遠慮したい。

 しかしコンラッドさんは夢中になると周囲が全く見えなくなる典型的コミュ障だ。

 1人で頭を抱えて、1人で勝手に苦悩を始めた。


 なんかドラマチックに人生生きてるな……って思った。


「えっと、何が問題なの……?」

「殿下です!! あ、いや、違いますっ、ついうっかり口に出てしまっただけで、別に殿下が悪いなんて一言も言ってませんよ、己は! ただ……ただ……殿下が悪いのです!!」


 ちなみに誰も俺たちのやり取りに口をはさまなかった。

 専門的な話のもあったけど、これ以上コンラッドさんの頭をいっぱいいっぱいにしても益がない。そういう単純な話だった。


「よくわからないよ。つまりどういうこと?」

「高いんです!! 殿下のせいでっ、己のビリビリがっっ!!」


「う、うーん……? あ、もしかしてだけど、帯電石が高騰してるってこと?」

「そうっ、そう己はお伝えしたではないですか!」


 お伝えされてないよ……。

 コンラッドさんの頭の中では言ったことなのかもしれないけど、俺は聞いてないよ……。


「なるほど、つまりは情報漏洩ですか」

「イエス!! 己が1人で夜な夜なビリビリをお楽しみしていた頃と比較してっ、帯電石の相場が3倍になってるんですよーっ!! 己にはっ、殿下のせいとしか、思えなーいっっ!! です……はぁ……」


 確かに俺のせいと言えなくもなかった。

 木炭も俺の始めた製鉄のせいで高騰している。

 その木炭の売買で大儲けした商人や、森林地帯を持つ領主もいる。


 そんな中、アリク王子が新たな計画を草案した。

 その計画に帯電石を使うと、俺はあの計画書に記載してしまった。


 つまり帯電石は、アリク王子の計画書にその名が記載され、書が写本された時点でどこかへと漏れ、投機の対象となってしまった。


「ふっ、ルキの天秤への出資が、こんな形で功を奏するとはな」

「サザンクロスギルドの買収もですね。どちらも胴元はカナン王家ですから」


 もしレスター様がサザンクロスギルドの買収を提案しなければ、少し厄介なことになっていた。


「帰りにレスターのところに寄って、僕からお願いしておくよ。帯電石が必要だから、しばらくは王家が全て買い取るって」


 謹慎が続いたのもあって、レスター様とはしばらく会っていない。

 この機会に俺から訪ねるのもいいだろう。


「じゃ、この電池。いや、バッテリーと呼んだ方しっくりとくるかな。これ、貰っていってもいい?」

「えっっ!? いやしかしそれは未完成品!! 要求スペックの――」


「7割もあれば実験には十分だよ。こっちからレポートを送るから、コンラッドさんはそれを元に更なる改良をしてくれる?」

「おおっ、それは楽しみ! である反面、ぷ、ぷれっしゃぁぁ……ですな……は、はぁ、はぁはぁ……」


「きっと上手くいくよ、コンラッドさんはビリビリの天才なんだから」


 そう励ましてみても、コンラッドさんはプレッシャーに縮こまったままだ。

 バッテリーを完成させちゃうくらい凄い人なのに、なんでこんなに卑屈なんだろう……。


 ドマゾだから……?


「いっそ、アリク殿下に同行されてはどうでしょう。レポートのやり取りの手間が省けますよ」

「はっっ?! それは盲点!!」


 確かにそうだ。

 俺もコンラッドさんが作ったバッテリーが、どんな活躍をするのか見せてあげたい。


 素材やパーツの流通面では王都が作業場として有利でも、グリンリバーにはアグニアさんたち技師がいる。


 そういったわけで、帰りはコンラッドさんを連れて変えることに決まった。

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