・殿下の第二ステップ バッテリーを導入しよう - 淑女????? -
「よくぞ戻った、アリクよ。それで何か新しい報告はあるか?」
「あるよ。なんとリアンヌが、新素材を手に入れてきた」
「あ、それ私のゴム!」
あの黒っぽい天然ゴムを父上とジェイナスに渡して、木陰に寝かされたコンラッドさんが目覚めるまで、天然ゴムとその有用性の解説をした。
リアンヌは途中で飽きちゃったみたいで、席を離れてコンラッドさんの介抱――もとい、いたずらを始めた。
「それをグリンリバーで制作した馬車に装着するというわけか」
「では、馬車ギルドとの折衷は我々にお任せを」
「それで陸運が効率化できるというなら、我らとしても願ったり叶ったりだ。何せ今やカナンは、あのウェルカヌスと並ぶ貿易大国だ」
革新的な親を持てて助かった。
ちょっと陰謀家で手段を選ばない父親だけど、父上とジェイナスがこの国の権力を握っていなかったら、今日のこの繁栄はない。
「あ、ラッコンコンさん起きたよっ!」
「それもう原型止めてないよ! コンラッドさんだってばっ!」
もう少しゴムタイヤを使った流通について話したかったけど、コンラッドさんがやっと起きたらしい。
「こ、ここは……はっ、あ、貴女はっっ?!」
「私? 私リアンヌ!」
「リアンヌ……? はて、どこかで最近、聞いたことがあるような……」
「うん、私、アリクの次にお騒がせなお子さまだから。私、リアンヌ・アイギュストスっていうの!」
「…………こ」
「こー?」
「コココココッッ、公女様であらせられれれれっっ、ご……ございますかぁぁッッ?!! ゥッ……?!」
「わぁぁーっ、ダメダメッ、気絶しちゃダメだってーっっ!!」
父上とジェイナスは笑いだし、母上はコンラッドさんを心配して木陰に駆けていった。
コンラッドさんはリアンヌの気付け(実力行使)で再び現実に戻ってきて、今度は母上に同様の声を上げている。
「あれ、そういえば兄上は?」
「ギルベルドにはちょっとした別件を任せている」
「些細なことです、殿下が気にする必要はありません」
「本当に? 麻薬の件、本当に僕が手伝わなくて大丈夫……?」
「それとは別件だ。お前は関わらなくていい」
父上もジェイナスもとりつく島もない態度だった。
僕はダメなのに兄上には任せるなんて不公平だ。
「流通の革新とグリンリバーの都市化。殿下はこれほどの大事業を受け持っておいでなのです。他の仕事で集中を乱されては困ります」
「うむ、お前は表の仕事だけでよい。少しは我らを信じよ」
グリンリバーの民も被害に遭っている時点で無関係ではないのだけど、今日は折れておくことにした。
それにそんなことよりも大事なことがある。
それはベアリングシステムの披露だ。
「トーマ、例の物を」
「はっ、殿下! 皆様、これよりアリク殿下の発明品をご披露いたします!」
「あ、実際に作ったり組み込んでくれたのは、あのアグニアさんだよ」
実は父上たちが離宮にくると知って、人力車をこちらに運ばせておいた。
それをトーマが庭園の生け垣の向こうから運んでくる間に、俺はアグニアさんをそれとなく推した。
「あのギルベルドのお気に入りか」
「淑女としての気品がある上に、鍛冶のみならず工作の才能もあるとは、さすがアグニア様ですね」
へ…………気、品……?
ん……淑……女……?
え? それ、どこの平行世界のアグニアさん……?