・殿下の第二ステップ バッテリーを導入しよう - 和風? -
離宮に入ると、途端に唐揚げの匂いがしてきてリアンヌのお腹が鳴った。
人力車でいい運動をしたし、昼食も食べていなかったから、むしろお腹が鳴るのは健康の証だ。
「うちの大根、持ってこればよかったなぁ……」
「……え、それどういうこと?」
「下ろし大根だよっ! それで和風唐揚げになるじゃん!」
「ああ……。でも、それをやるには醤油がなくない?」
「な……っっ、なんっ、なんと……っ?!」
麹菌さえどうにかすれば作れなくもなさそうだけど、問題は僕にあまり興味がないってことだ。
醤油がなくても困らないとまでは言わないけど、がんばって作ったところでリターンがほとんどない。
「いつもの東屋でご飯にしましょ。リアンヌちゃんが食べずにくると聞いていたから、私がんばっちゃった!」
「サイコーッッ、リドリー様ってサイコーの人妻だよっ!!」
「トーマ、あなたもお疲れさま。いつもアリクの面倒を見てくれてありがとう」
「はっ、それが自分の責務であり生きがいでありますからっ!」
僕は知っている。
母上がトーマに自分宛ての報告書を書かせていることに。
主旨はアリク王子について。
アリク王子に不審な動きはないか、トーマは監視させられていた。
まあ、僕の前科が前科だから……。
「頼りがいのあるお兄さんを持てて、アリクは幸せね」
「はい! いっそ、本当のお兄さんになりたいくらいです!」
王族の食卓とは思えない肉肉しい唐揚げをおかずに、甘くバターの香るパンと、うちのコックお得意のシーザーサラダでお腹を満たした。
母上は優雅に紅茶を口にしているけれど、唐揚げの香りが辺りにただよっているせいで少しシュール見えた。
それと確かにちょっとだけ、ポン酢と大根下ろしが恋しくなった。
きっとそれがそろえば、もう2つくらい唐揚げをいけるはず。
たったそれだけのために時間を割くことはできないけれど。
「あ、確かその人! コ、コ、コ……そう、コラッドンさんだっけっ!?」
「一昨日話したばかりじゃないか……。コンラッド・コーエンさんだよ」
「そうっ、その人に確か、電池作らせてるんだよねっ!?」
「ついさっき話したことのはずだけど、そうだよ。僕は報告ついでに、彼に依頼していた電池を引き取りにきた」
そのコンラッドさんがもうじきここにくる。
ジェイナスはコンラッドさんの気質を配慮して、あの緊張感に気が狂いそうになる政務室ではなく、この離宮をやり取りの場所に選んだそうだ。
「私、あの気の陰に隠れてるね! それでその人がきたら……わーっっ!! ってやってやるの!」
「それは止めて。僕は別にいいけど、また気絶されたら多忙な父上たちが困るから」
話題を変えて、リアンヌと一緒に母上にグリンリバーの話をして到着を待った。
コンラッドさんはそれからすぐにやってきた。
「むぅ……ギルベルドに続いて、我まで顔を見るなり気絶されるとはな……」
「いえ、かろうじて意識はあるようです。まったく、小心者の上に間の悪い男もいたものです」
ジェイナスと父上の背後に続く、近衛兵さんたちに担がれて。
離宮の入り口あたりで鉢合わせになったのかな……。