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・王子の立場もない話

 丘を登り切ると、交代をごまかそうとするリアンヌから人力車を取り返した。

 ブレーキをかけながら下り坂を進み、下りきった後は大橋を越えるまでは俺が引いて進んだ。


 橋の上から眺める川はなかなかの絶景だ。

 リアンヌが楽しんでくれているのがわかって、引いている俺も嬉しかった。


 ただ、そこから先のリアンヌの運転が予定外だった。

 トーマの馬をぶっちぎる爆走もそうだったけど、問題は王都の防壁の先にあった。


「おい、ドレスの女の子が車を引いてるぞ?」

「はぁ? 寝ぼけてんのか、お前? ……えっ、あれ、殿下の車じゃねーのかっ!?」


 護衛のトーマは遙か後方だ。

 トーマの合流を待つために、リアンヌは王都をゆっくりと人力車を引いて進んだ。


 そして俺は、そこで自分がカナちゃんやターニャさんにやったことの意味を、肌身で理解することになった。


「交代しようよ、リアンヌ!」

「やーだーっ、お城の前で交代する約束じゃん」


「いや、でも、これ、恥ずかしいよ、リアンヌ!」

「私は楽しいよ!」


「僕は楽しくないよっっ!!」


 王都の人たちみんなが俺たちを見ていた……。

 微笑ましいとか、まだ子供なんだなとか、元気でいいとか、みんなが好き勝手な感想を小声で漏らしている……。


「これが私の王子様だーっっ、どやーーっっ!! って気分!!」

「王子様を人力車で引いて進むお姫様なんて聞いたことないよっっ!!」


「へへへーっ、ここにいるんだからしょうがないしーっ!」


 そんな感じで騒ぎながら王都を半分ほど進むと、トーマがやっと追い付いてきた。

 馬は血走った目で、リアンヌを見ている。


 決して逆らってはならない最強の存在。

 人でもなければ馬でもない。

 馬を超越した人の姿をしたナニカ。


 そういう怪物を見る目だった。


「護衛する側にもなって下さい!! 可哀想に、帰りの体力はもうこの子に残っていません!!」

「じゃ、トーマは私の人力車に乗せてあげる!」

「そうだね。馬を潰すよりも賢明かもね」


「2人とも、せめて常識的な速度で走って下さいよ!!」


 リアンヌのせいで僕までとばっちりだ。

 トーマと馬をいたわりながら道を進んで、城門前の広場を訪れた。


 するとお城の前に出迎えに整列した近衛兵さんたちと、ジェイナスと、母上が立っていた。


「人力車はこちらで城に運んでおきます。殿下たちはリドリー様のところへ」

「ありがとう、トーマ。ちょっと城下をゆっくり進みすぎたね」


 リアンヌの手を引いて、一緒に母上のところに走った。

 ちょっとマザコンっぽいけど、でもこんなにいいお母さんはそういない。


「2人とも、お帰りなさい!」

「おじゃましまーすっ、リドリー様!」


 俺たちは2人一緒に母上にやさしく抱擁された。

 ちょっと恥ずかしかったけど、母上のあふれる母性に感動した。


「お帰りなさいませ、アリク様。しかし陛下は今少し立て込んでおります。しばらく離宮でお待ちいただけますか?」

「うん、わかったよ、ジェイナス」


 コンラッドさんには悪いけど、父上の政務室を訪ねるときに彼も連れてゆくとジェイナスに断った。


「彼ですか。また気絶されても困りますね……。承知しました、こちらでなんとかいたしましょう」


 頼りになるジェイナスに全部任せて、俺はただの子供に戻って母上とリアンヌと離宮に向かって歩いた。


「えっと、コンラッドって誰?」

「すぐ気絶する変な人」


「へーー、面白そう」

「コンラッドさんは本当に小心者なんだから、変なことしないであげてよ……?」


「あはは! ……あっ、あのねあのねっ、リドリー様! あっちでね、アリクがねーっ!」


 なんで話を流すんだろう……。

 リアンヌのやつ、コンラッドさんに変ないたずらしないといいんだけど……。


 母上は息子の明るくかわいいガールフレンドと、超ご機嫌の笑顔でお喋りを楽しんでいた。

 こんなかわいくて懐っこい婚約者が息子にできたら、凄く嬉しいものなんだろうな。


 あの奴隷農園で苦しい生活をしてきた少女リドリーが、国王と結ばれ、息子が産まれ、その息子に明るくてかわいいガールフレンドまでできた。

 ギルド職員アリクはきっと満足だろう。


 そんな感慨を密かに抱きながら2人をのぞき見ていたら、注目をリアンヌに気付かれてしまった。


「早くいこっ、アリク!!」

「ちょっと、そういうのは恥ずかしいよ……。みんな見てるよ……」


 俺は彼女に背中を押されて、決して善人ばかりとは言えない宮廷の中を駆けていった。

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